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「女神回収プログラム」スピンオフ ~知らなくていいこともある。めくるのは禁断の扉……かもしれない~  作者: 呂兎来 弥欷助
還【43】~【52】くらいの設定での話

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アップルパイ

 白緑色の、長い髪が背に揺れていた。


「お母さん!」


 思わず悠穂ユオは叫ぶ。

 悠穂ユオの見る先には、悠畝ヒサセ忒畝トクセもいた。


 叫んだのに──誰も、悠穂ユオには気づいていない様子だ。


 三人とも笑って。

 楽しそうに。


 どうしようもない悔しさや悲しさが募る。


 近いはずなのに、すごく遠くに感じる──光景だった。




 視界が滲んでいる。

 泣きながら目を覚ましたらしい。


「あ……」

 涙を拭いながら上半身を起こす。そうして、夢だったのかとぼんやりとした記憶のようなものを理解した。


「ん~……」

 となりでうめいたような声は、夫のタカ

 起こしてしまったかと思ったが、ただ寝返りを打っただけのようだ。


 軽い安堵のため息が出た。


 妙に現実的に見えた──と振り返り、それもまた悠穂ユオを余計に寂しくさせる。

「お兄ちゃん……」

 忒畝トクセがいなくなって、一年が経っていた。


 兄は大好きな両親のもとへ行けたと思う一方、

「ひどいよ、お兄ちゃん……あんな自慢の仕方」

 ひとり置いて行かれた感覚になる。

 元々、兄の方が両親と長くいた。何だったら、赤ん坊のころに母がいなくなった悠穂ユオとは違い、兄には母との思い出もあった。


 でもそれは、兄の方が早く生まれたから──と、それだけだと、理屈ではわかっていて。それでも、今日の夢は、まったくの別物。


「私も、行きたいって、言いたくなるじゃん」


 ポツポツと涙は落ちて、ズルズルと鼻までぐずる。

「でも、言えない。だから、言わないよ」

 悠穂ユオタカのとなりで眠る愛娘を見つめる。


「お兄ちゃんが自分の家庭を持っていたら……同じ夢を見ても、私と同じような弱い言葉なんて言わないよね」


 涙を拭ってみても、自身に新しい家族があっても──兄のいない世界に、一年経っても慣れないでいる。


『悲しんでいていい』

 タカは、ついこの間もそんなことをふいに言ってくれていた。


 豪快ないびきが聞こえてきても、悠穂ユオにはそれすら愛おしい。『生きている』と安心する。


 娘が年頃になったら、タカをうるさいだの何だの言うのだろうか。父を大好きなまま失った悠穂ユオにとったら、それはそれで新鮮な出来事だ。


「お兄ちゃんは天国から……『悠穂ユオも幸せでしょ?』って、笑ってるのかな」

 そんな様子の兄を鮮明に想像できて、悠穂ユオは思わず笑ってしまった。


 一度笑えば気分は変わって、ベッドから降りカーテンを開ける。窓からさす日を浴びれば、これは父と兄からもらった習慣だと空に向かって微笑む。




「よし! 今日はアップルパイでも焼こうかな!」


 いつしか『母が作ってくれたみたい』と兄が褒めてくれた。あれは、大好物が特別な一品に変わった日。


 きっと娘も気に入って、大きくなったら作ってくれるだろう。

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