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じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~  作者: 木ノ花 
Sec.6

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200/202

第199話

 たったいま三人がかりで奪ったボールを前線ヘ蹴り出しながら、俺――黒瀬蓮は改めて痛感する。


 わかっちゃいたが、兎和が厄介すぎる。アイツがピッチに足を踏み入れた瞬間、栄成の選手たちに笑顔が生まれた。そこへ玲音ともう一人、ボランチの選手が声を上げれば、相手チームは士気を完全に盛り返す。


 時間は後半10分すぎ。東帝にリードを許し、なおも栄成は劣勢にかかわらず……兎和のヤツ、どれだけチームメイトに信頼されているんだって話だ。

 

 あれこそまさしく、絶対的エースが放つ影響力。

 精神的な余裕を生むばかりか、高い組織力で戦っていた栄成に『白石兎和』という明確な武器がもたらされた。これほどフィットするラストピースは他にない。

 

 少しでも隙があれば驚異的なアジリティを発揮し、こちらの守備を切り裂きにかかってくる。それが無理でも、簡単にボールを奪われずチームの落ち着きどころとなっていた。


 困ったら兎和に出せばなんとかしてくれる、そんなイメージを相手が共有している証だ。


 もちろん、玲音やタメ年らしきボランチの選手などが献身的にサポートへ入る。こうなれば、いつ得点の起点となるプレーが飛び出してもおかしくない。


 実際、すぐに冷や汗をかかされた。

 後半16分。兎和が東帝ディフェンダーを背負いながらも体を張ってボールを収め、連動したボランチへいったんボールを落とす。続けて、同サイドをオーバーラップしていく玲音へロングパスが送られた。


 東帝は後手に回り、そのまま自陣深くまで侵入を許してしまう。

 間を置かず、玲音の左足から高精度のクロスが放たれる。


 このボールに合わせるべく、栄成は前線の3選手がディフェンダーもろともペナルティボックスへ走り込み――あわや失点、というその刹那。絶好のタイミングで飛び出した東帝のGKが必死に腕を伸ばし、ギリギリのパンチングで難を逃れる。


 安堵のどよめきと、悲鳴にも似た歓声が会場を包む。

 ど迫力の攻撃だった……俺はホッと息を吐き、修正の指示を飛ばす。


「体寄せるならキッチリ潰せ! マークの受け渡しにも注意しろッ!」


「わかってるよ! ていうか蓮、お前もフォロー入れ!」


 チームメンバーたちと対応を共有しつつ気持ちを切り替え、汗だくになってボールを追う。


 怪物的なアジリティに目を惹かれがちだが、兎和はフィジカルも相当強い。昨冬の選手権以降、プレーの幅をだいぶ広げていやがる。当然だが、成長しているのは俺だけじゃない。


 それでも、先ほどのピンチを凌いだのはデカい。

 明確な危機感が共有され、兎和へのチェックが一段と厚くなった。さらに東帝はフレッシュな選手を投入し、栄成の左サイドを封殺しにかかる。


 チームの対応は悪くない。兎和がボールを持てば必ず2枚以上で対応し、全員がハードワークして空いたスペースを埋める。総合力なら、こっちの方が上なんだぜ。


 ましてこの試合は、40分ハーフ。つまり、もう20分ほど抑え込めばこちらの勝ち。相手が焦って前に出てきたら、逃さず追加点を狙って息の根を止めてやる。


 気づけば俺は、足を動かしながらも口の片端を持ち上げていた。

 ああ、こんなヒリつく試合はいつぶりか。楽しくて仕方がない。


 東帝を、高校サッカーの舞台を選んで本当によかった。なあ、兎和。この試合が終わったら、俺たちはもっとサッカーが好きになってるぜ。


 短く吐き出す呼気に合わせ、ほんの僅かに気持ちが緩む――それがマズかったのか、あるいは見透かされたのか。


 玲音の気迫の籠もった守備を起点に、シュートを許さず栄成がボールを奪う。相手は続けざまに細かいパス交換から中盤を抜け出し、右サイドへボールを供給した。


 パスに反応した東帝のディフェンダーが、足を伸ばしてどうにか引っ掛ける。しかしこぼれたボールを栄成の10番に拾われ、今度は素早く逆サイドへと展開。これを丁寧にトラップするのは、栄成の絶対的エース。


「まずいって、それッ――」

 

 咄嗟に言葉が漏れた。

 ガンガン、と俺の頭の中で最大級の警告が打ち鳴らされる。


 相手の攻めは、時間とともに東帝の左サイドへ傾きを増していた。すなわち、徹底マークが奏功して兎和を試合から排除しつつあったのだ。


 ところが、おそらくこれは罠。

 栄成はあえて逆サイドに人数を集中させることで、エースが使えるスペースを意図的に生み出してみせた。いわゆるオーバーロード、それにアイソレーションという戦術だ。


 リスクをとって勝負をかけてきやがった、と相手の狙いを理解したその矢先。

 ゾクッとした感触が背筋を走り抜け、肌が粟立つ。


 俺の視界の端に、スタンドの栄成陣営が映り込んでいた。そして最前列には、手すりを握り締める超絶美少女の姿が。

 

 星越の鷲尾から聞いた。あの子の名は、神園美月だと――青い瞳をギラギラと輝かせ、その長い黒髪が熱をはらむ風に躍る。

 次の瞬間、凛とした声がライバルの名前を呼ぶ。


「兎和くんッ――」


『――ゴオォォォオオオオオオッ!』


 試合中にもかかわらず、俺は確かにその響きを聞いた。さらに例の超絶美少女の先導に合わせ、栄成陣営が背を押すような大歓声を重ねたのだ。同時に、それぞれの掲げていたタオルが大波のごとく翻る。


 震えがくるほどの衝撃に突き動かされながら、体を寄せるべく必死に駆ける。だが、手遅れなのは自分が一番よくわかっていた。

 

 間髪入れず、青い風が吹き抜けていく――否、正体はユニフォームを翻して突き進む兎和だ。

 捕まえるどころか、プレーを目で追うだけで精一杯だった。


 まず兎和は足裏でゆるくボールを運びながらぐっと重心を落とし、縦方向へ突破する気配を見せた。当然、東帝のディフェンダーはコースを切るべく位置を修正する。


 しかし対峙する相手の両足が揃ったその刹那、急激な重心移動を行いつつ体をセンターレーン側へ傾けた。

 

 そして、爆発的なアジリティが顕現する。

 電光石火の踏み込みからわずか1歩で半身ほどリードし、2歩目で完全に躱し、3歩目でユニフォームに指先をかけさせることなくぶち抜く。


 立て続けに、遅れてスライドしてきたもう一枚のディフェンダーをボディフェイントであっさり無力化。そのまま鮮やかにドリブルでピッチを切り裂き、ペナルティボックスへ侵入する。


 慌てて寄せてきたCBには高速ダブルタップを繰り出し、再び縦に突破。

 圧巻の3人抜き――ほんのわずかな間を挟み、兎和は右足を振り抜く。


 フィニッシュは浅い角度からの一発。体を投げ出したGKのニアハイ(肩の上)を豪快に撃ち抜き、ド派手にゴールネットを揺らした。


 大歓声が会場を包み込む中、俺は足を止めてぐいっと汗を拭う。

 去年の夏。初めて見たあのときよりずっと速く、もっと鋭く感じる――『#7』が揺れるその背に、俺は日の丸を幻視した。   


 きっとすぐ、共にサムライブルーのユニフォームを着て戦う日がくる。そんな愉快で確信めいた想像が、俺の頭の中を駆け巡っていく。

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― 新着の感想 ―
やばい かっこいい
声援に応えてくれるエースがいると、応援団も楽しいやろな
祝200話! 記念に相応しい盛り上がり回でした! 蓮も兎和もお互い好敵手のエースって感じが出てて良いですね
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