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じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~  作者: 木ノ花 
Sec.6

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186/202

第185話

 チャイムの音とともに訪れた、授業合間の短い休憩時間。

 賑わう2年I組の教室で、この俺――小俣颯太が自分の席に座っていたら、こんな噂が聞こえてきた。


 名前だけ知っているクラスメイトの男子曰く、『学年別選抜リレー・2年生の部で勝利すると、あの神園美月からタオルの贈呈がある。さらに、もっとも貢献度の高いランナーが希望すれば部活面で彼女のサポートを受けられる』だってよ。


 勝手に盛り上がりやがって、と俺は次の授業の教科書を準備しながら鼻で笑う。

 すっかり体育祭ムード一色に染まった栄成高校のあちこちでは、先ほどのアホみたいな噂がひっきりなしに飛び交っていた。


 この前の俺と兎和のやり取りが、あっという間に広がったらしい。それも、大きな尾ヒレを生やしながら。


 まったく、この学校は騒ぎに事欠かないな。

 イベントの度に、決まってしょうもない噂が流れてくる。


 まあ、神園美月という特別な人間が同じ学内にいる以上、騒ぐなと言う方が難しいか。なにせトップアイドル顔負けの超絶美少女だ。隙あらば近づこうと、男女問わず多くの生徒が熱視線を送っている。


 俺だってそう。入学して彼女をひと目見たその瞬間、心臓が止まるかと思うような衝撃を受けた……いや、呼吸は確かに止まっていた。見惚れて、少しのあいだ身動きひとつ取れなかったのを鮮明に覚えている。


 それ以来、神園美月に振り向いてもらうためにアレコレ努力した。

 白石鷹昌たちのグループに所属し、スクールカースト上位の1軍男子としての立場を固めた。サッカーが好きだという噂を聞いたから、部活だって真剣に頑張っている。


 他にも鷹昌と作った部内派閥の参謀としてアプローチ方法をいろいろと考えたりして……とにかく俺は、あの美しい青い瞳に映りたくて仕方なかった。


 それなのに神園美月は、『じゃない方の白石くん』などと揶揄される兎和の個人マネージャーなんかを務めている。


 いやいや、個人マネージャーってなんだ。俺たちまだ高校生だし、ただの一般人でしかない。なのに、噂じゃかなり甲斐甲斐しく世話を焼いているのだとか……あり得ないにも程がある。


 確かに、最近は兎和の活躍が目立つ。腹立たしいことに『栄成サッカー部のエース』なんて担がれてもいる。だが、それはチームのサポートあってこそ。


 サッカーにおいては、チーム戦術次第で選手のパフォーマンスが大きく変わるのは常識だ。不調だったFWが、チーム移籍をキッカケに大ブレイク。勢いそのまま得点ランキングに名を連ねる、なんて例はプロの世界でも珍しくない。


 要するに、今はたまたま戦術にフィットしているだけ。そのおかげで、実力以上に高く見積もられている状態……と鷹昌がよく言っている。


 俺も同感だ。でなければ、兎和が栄成にいるのはおかしい。あの黒瀬蓮のように名門と呼ばれる高校でプレーしていたはず。


 それとも何か?

 高校に入って、ポテンシャルが急激に開花したとでも言うつもりか?


 マンガや小説じゃあるまいし……ならば、俺だって同等レベルに活躍できていたのではないか。


 サッカーの実力は負けてない。フィジカルだって自信がある。明確に劣っているのは、身長とドリブルスキルくらいのものだ。


 しかし俺には、得意の『裏抜け』の能力がある。不足を補って余りある。レーダーチャートで総合力を比較すれば、形は違えど大きさ自体はそこまで変わらないだろう。


 チームの手厚いサポートさえ受けられれば、得点を量産してエースの座に収まっていたかもしれない。


 だから、その事実を神園美月に理解させる。生憎と部活ではプレーする機会に恵まれておらず、アピールが上手くいっていない。そこで、今回の体育祭を利用するってわけだ。


 もっとも、リレーで勝負なんてわかりづらすぎる。いくら走る順番を被せたところで、個々のランナーが与える影響は限定的。


 つまるところ、リレー勝負はただの口実だ。個人マネージャーの件もブラフに近い。わかりやすく言えば、これは下準備。関係を近づけるためにも、小俣颯太という存在をしっかり意識させる必要がある。


 ましてや猫のように警戒心が強い神園美月のことだ……ビビっているわけじゃないが、距離を詰めるなら慎重を期するべきである。


 そう考えると、体育祭が待ち遠しいぜ。この俺が本来の実力さえ発揮できれば、陰キャの兎和ごときに負けるはずもない。


 ニヤリ、と思わず唇の片端を持ち上げてしまった――ちょうどそのとき。

 ふと毛色の異なる話題が耳に飛び込んできて、興味を引かれる。


「てかさ、志保にも困ったよね。急にやる気出されてもさぁ……皆で楽しくやってるんだから、空気悪くしないでほしい。そもそも自分だってそこまで上手くないじゃん」


「それね。ていうか私さ、体育祭のリレーで志保と走る順番が同じなんだよね。絶対に負けたくないんだけど」


 志保、というと……D組の加賀志保のことだろう。スタイルがよく、人懐っこい笑顔で男子の人気を集める女子だ。会話する二人も、女バスのメンバーなので間違いない。


 聞き耳を立ててみれば、どうやら部活に対するノリが合わなくて軽く衝突しているらしい。

 なるほど、これは使えそうだ……俺の頭に浮かんだのは、体育祭でのクラス分け。


 勝負の学年別リレーは男女混合。そして兎和と神園美月が所属するA組は青団で、加賀志保のD組も同じ。しかも揃って同種目に出場するときた。


 ならば、勝率をあげるべく保険をかけるとしよう。もとより負ける気はしないが、俺は対決で手を抜かないタイプなんでな。それに、大差をつけた方が何かと要求を通しやすい。

 俺は席を立ち、女バスの二人に声をかけた。


「なあ、さっきの話だけど。D組の加賀と走る順番が一緒なんだって?」


「そうだけど。急にどうしたの?」


「いや、加賀はちょっと空気を読めてないんだろ? だったら、ちゃんとわからせてやったほうがいいと思ってさ。こういうのはどうだ? リレーのときに、あえて体で進路を妨害するんだ。さりげなくな」


 仮に自分のせいで負けたとなれば、加賀も落ち込んでトーンダウンするに違いない。それに栄成の体育祭は文字通りお祭りの要素が強いから、ペナルティもそこまで厳密にジャッジされるわけじゃない。あくまでちょっとした駆け引きの範疇に収まる。もっとも、実行できるかはタイミング次第だが。


「なにそれ、ルール的に問題ないの?」


「問題ない。ちょっと駆け引きするだけだ。うちの団が有利になるようにな」


 やり過ぎないよう念を押しつつ、俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 それからチャイムが鳴るまでの間、女バスの二人と体育祭に向けて作戦を練るのだった。


 ***


「兎和くん、はいっ!」


「――はいっ!」


 僕は背後へ右腕を伸ばしながら、タイミングを見て駆け出す。少し遅れて響く掛け声に合わせ、追走してきていた加賀さんからバトンを受け取る。ぱしりと手の平に感触が伝わった直後、今度はぐっと加速した。


 今週の金曜日に体育祭の開催を控え、ますます盛り上がるスクールライフ。

 中間テスト明けに『色分け抽選会』も実施されており、全クラスが色を冠した四つの『団』に配属済みだ。


 具体的には、『赤・青・黄・白』の四色。そして抽選の結果、僕の所属するA組は『C組・D組』と共に青色のハチマキを巻くことになった。


 それに伴い、開催当日までの詳細なスケジュールも公表されている。

 配布された関連のプリントは、今年も練習日の割当表がメイン――栄成高校の各学年には12クラスが存在する。練習スペースの都合で、どの競技も本番までに二回ほどしか練習時間を確保できないのだ。


 そんなわけで、よく晴れた本日の放課後。

 人工芝が敷かれた多目的グラウンドの一画では、学年別対抗リレーの練習が行われていた。それも、体育祭を前にした最後の。


 もちろん僕も参加中、しかもかなり真剣だ。なぜなら、うっかりアンカーに任命されてしまったのだ……責任重大すぎる。ハッキリ言ってメンタルがやばい。


 とはいえ、ひとつ前の走者は加賀さんに決まったのでいくらか気は楽だ。男女混合ルールの恩恵である。


 規定のコースを走ったら足を止め、軽く汗を拭いつつグラウンドの別方向へ目を向ける。

 少し離れた場所では、美月たちが『玉入れ』の練習をしていた。きゃっきゃと楽しそう……僕も来年こそはあっちに混ざりたい。


「兎和くん、ちょっと休憩だって! さっきバトンのタイミングばっちりだったね! 私たち、けっこう相性いいのかも!」


「あ、うん。相性はどうかわからないけど、ようやくバトンの受け渡しに慣れてきたよ」


 笑顔でこちらへやってきた加賀さんと、休憩がてらその場で雑談する。

 部活で少しトラブっていると聞いたけど、見た感じは元気そう。今だけかもしれないけれど、僕との会話が気分転換にでもなったら嬉しい。彼女は大切な友人のひとりだから。


 ところが、すぐに邪魔が入る。

 同じくリレーの練習をしていた別の団のメンバーが、こちらへ近づき声をかけてきた。


「よう、兎和。なんか変な噂になってるな。まあ、外野は関係ない。俺たちはきっちりケリつけようぜ」


 やってきたのは、赤団の小俣颯太くんと女子二名。

 隣に立つ加賀さんが、少しだけ俯いた。この気まずそうな反応から察するに、女バスのメンバーに違いない。大丈夫かな……と僕が心配していると、髪の長い方の女子が口を開く。


「志保、私たちも勝負しよーよ。こっちがリレーで勝ったら、部活で張り切るのやめて。その代わり、そっちが勝ったら居残り練習に付き合うってどう? 本気でバスケやるよ」


 この提案……もしかしたら、加賀さんの状況が改善するかもしれない。

 本人もそう思ったのか、すっと顔を上げた。その瞳には力強い光が宿っている。どうやら望むところらしい。いつもの元気が戻ってきたみたい。


 もとより、負けるつもりは微塵もない。

 だったら、答えはもう決まっている。


「勝つのは青団だ!」


「かかってこい!」


 僕と加賀さんの声が重なった。

 なんとも小気味いい偶然に少し驚き、思わず二人して見合って微笑む。せっかくのイベントだし、そうこなくっちゃ。楽しみながら一緒に勝とう。


「その言葉を忘れんじゃねーぞ。じゃあまた部活でな、兎和」


「志保も忘れないでね。それまではお互い静かにしてよう」


 捨て台詞を残し、去っていく小俣くんと女バスの二人。

 僕は改めて加賀さんと向き合い、声を掛ける。


「加賀さん。体育祭、絶対に勝とう!」


「うんっ! 絶対に勝とうね!」


 やることが明確になり、逆にスッキリしてきた。

 さあ、今年も間もなく体育祭がやってくる――どうか当日も晴れますように。ささやかな願いを胸に抱き、僕は5月末の青空を見上げた。

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


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頭のおかしい思春期くん、一から十まで何言ってるか理解できない… アプローチかけてる子がどういう子なのかもわからずに自分の価値観だけで行動… 兎和と敵対するんじゃなくて、友達になって、どういう経緯で美月…
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