↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃない方の白石くん~夢の青春スクールライフと似ても似つかぬ汗だくサッカーライフ~  作者: 木ノ花 
Sec.1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/213

第17話 弱肉強食のチーム内サバイバル

「ピッチサイドにあるボードを確認してくれ。当面はそこに記載された『チームとメンバーを固定』してトレーニングを行う。ポジションも同様。紅白戦に関しては、今日は30分を3本の予定だ」


 柔らかな西日が注ぐ中、永瀬コーチが指示を出す。途端、わっと競うように作戦ボードのもとへ向かうDチームメンバー。確認を済ませたら、悲喜こもごもの反応を示しつつ三々五々に散らばっていく。


 僕と玲音は先に水分補給を行い、混雑が解消されたところでゆったり作戦ボードを眺める。自分の名前はすぐに見つけられた。チームは『D1』、ポジションは『左SH』だ。


 栄成サッカー部は大所帯ゆえに『4チーム編成』だが、各グループは実力でさらに細分化される。 総勢55名を数えるDチームも例外ではなく、メンバーは『D1・D2・D3・D4』にそれぞれ振り分けられる。


 最上位のD1がスタメン候補、D2がサブメンバー。どちらも主にセレクション合格者で構成されており、わりと納得の顔ぶれだ(僕を除く)。D3以下は入部経由を問わず、実力順に振り分けられる。


 定員はD1が『フィールドプレーヤー10名』で、以下のチームは段階的に多くなっていく。主力を中心にゲーム経験を積ませたい、という思惑を反映したシステムだろう。


 なにより重要なのは、サブチーム制が『本日より正式運用』される点。

 この事実は、号砲にも等しい――弱肉強食のチーム内サバイバルが、ついに始まるのだ。


 つまるところ、僕はDチームのスタメン候補に選抜されたわけだ。永瀬コーチの期待の大きさがよく伝わってくる……ハッキリ言って荷が重すぎる。しかも白石(鷹昌)くんと同じチーム。絶望感ハンパないぜ。


「やったな、兎和。互いにD1だ。ここから伝説が……なんか顔色悪くないか?」


「あ、いや……ちょっと色々あってゲロ吐きそうなだけ……」


 作戦ボードから離れるや、玲音がハイテンションから一転して困惑気味に尋ねてくる。

 彼も同じD1所属。細かい事情こそ明かせないが、これから共にプレーする機会が多くなりそうなので「マジでよろしく頼む」と誠意を込めて伝えておく。


「もちろんだとも。俺たちゴールデンコンビの実力を見せつけてやろう。気合い入れていくぜ、相棒」


「お、おう、相棒……」


 返事に合わせてグータッチを交わす。

 僕たちは同じサイドに配置され、多くの場面で縦関係を構築する。攻守両面にわたって連携必須で、まさに相棒と表現するにぴったり。


 仲のいいメンバーが後ろに控えているのは、わずかな救いだ。仮に他メンバーが左SBだったらと想像するだけでゾッとする。


 ストレス過多で若干の胃痛を覚えつつも、マネージャーさんからビブスを受とって試合の準備を整える。すぐに『集合』の合図が発せられたので、Dチームの指揮官である永瀬コーチを中心に円陣を組み、指示に耳を傾ける。


「まずは紅白戦で意識すべきポイントを確認する。いつも指摘しているが、オフェンスはオフザボールの動きが重要だからな。パスコースを増やすよう徹底すること、縦並びになると相手のプレスにハマるぞ。ディフェンスはゾーンだから、スペースを把握して埋めるように。マークを受け渡す際は声掛けを怠るなよ」


 他にも、ハイプレス(サイド誘導型)のかけ方やトランジション(攻守の切り替え)に対する意識向上、デュエル(ボールの奪い合い)の重要性、などについて言及があった。


 問題があればプレー中にガンガン指摘されるので、各自が適宜改善しなくてはならない。


 最後に試合の組み合わせと戦術の再確認を行う。

 第1試合、D1対D3。

 第2試合、D2対D4。

 第3試合、勝利チーム同士の対決。


「そろそろ始めよう。勝敗にこだわるのはいいが、頭は冷静にな。怪我だけはしないように、全員が集中してプレーすること。さあ、頑張って行こう!」


『――ヨシ行こうッ!!』


 栄成サッカー部お決まりの掛け声をDチーム全体で唱和し、円陣がほどかれる。試合に出場するメンバーはスタートポジションへ向かい、他はピッチサイドで観戦の構えだ。


 僕も足を進めようとした。けれど背後から「おい、じゃない方」と声をかけられ、動きを止める。振り返ってみれば、もう一人の白石(鷹昌)くんが近づいてくるところだった。


「なんでお前がD1の左SHなんだ? まあいい、足だけは引っ張るなよ」


「あ、うん……よろしく」

 栄成サッカー部は伝統的に『4-2-3-1』を採用しており、今日は全チームが同じ布陣で戦う。そして僕とOMFの白石くんは共に前線の『3』ラインを形成し、横並びのポジションをとる。


 当然、ダブル白石くんがプレー中に連動する場面も多くなるわけで……ちくしょう、今からハラハラが止まらない。胃がひっくり返りそうだ。


 重苦しい不安を引きずったままスタートポジションへ。自陣の左サイドのハーフウェーライン沿いに立ち、ざっとピッチ全体を見渡す。


 赤いビブスがD1(自チーム)、青いビブスがD3。

 相手のプレーヤーは皆、目をギラつかせている。上位チームの座を奪ってやる、という気迫がひしひしと伝わってくる。


 間を置かず長いホイッスルが響き、第1試合がキックオフ。

 ふわふわした意識のまま、僕は敵陣へ向けて走りだす。


「しゃあ、いくぞッ!」


 開始早々、D1はチャンスを迎える。

 白石くんがセカンドボールを拾い、ドリブルで前進。続けて、寄せてくる相手の意表を突くようなアウトサイドのグラウンダーパスを送る。足首を柔らかく使ったプレーで、キラリとセンスが光る。


 ボールは敵陣右サイドの奥深くへ。これに合わせるべく、右SHが赤いビブスを靡かせて走り込む。しかしタイミングがわずかに合わず、惜しくも決定機には繋がらない。

 得点は至らなかったものの、一つ良さを出した……それなのに、彼は気に入らなかったようで。


「なんで準備しとかねーんだ! パスくるって予測しとけ、クソがッ!」


 始まった……まだ数分と経っていないのに、早くも暴君が御成りあそばした。

 あの怒りが自分へ向けられる場面を想像するだけで全身が強張る――ぐるり、不可視の鎖でがんじがらめだ。


 もはや走るだけで精一杯。こんな状態ではバカみたいなミスをかまし、ブチギレた彼に罵倒を通り越してぶん殴られかねない……ところが、僕がプレーする機会はほとんど巡ってこなかった。


 理由は、不安の種の当人にある。白石くんのプレーは利き足側に偏っていて、逆サイドの僕や玲音はほとんどボールに絡めなかったのだ。あるいは、眼中にないか。おかげで、少しだけ気持ちが落ち着いた。


 それでも主力が揃い、地力で勝るD1。白石くん活躍もあり、結局は『2-0』で第1試合を制する。続く第2試合はD2が勝利し、最終戦は順当にD1対D2の対決となった。


 小休憩を挟み、第3試合がキックオフ。

 相手はサブメンバーで構成されており、思った以上に両チームの実力差は小さい。にもかかわらず、やはりD1のオフェンスは右サイド中心、というか偏重。

 こうなれば受け止められて当然だし、対応もしやすかろう。


「動いてパスコース作れ、少しはアタマ使え!」


 照明光が注ぐピッチに轟く白石くんの罵声。身をすくませつつスコアボードをチラ見すれば、あっという間に10分が経過していた。


 試合のテンポにも慣れ、こちらのビルドアップのクセを掴まれそうな頃合いだ……と僕が警戒を強めるや、悪い予感的中。甘いパスをカットされ、カウンターをくらう。


「おい戻れ、サイド使われんぞッ!」


 僕は思考を守備に切りかえ、自陣へ向かって猛スプリント。

 即座にプレスバックを行う場面だが、白石くんは指図するだけで帰陣する気配を見せない。おまけに、ミスに絡んだ選手たちのトランジションまで遅い。


 たちまち数的不利に陥った守備陣が崩され、相手CFがペナルティエリア内で右足を振り抜く。もはや失点は不可避――かに思われた、そのとき。


「どッ、りゃあぁぁあ!」


 左SBを務める玲音が体を投げだし、気迫のシュートブロックを敢行。中央よりにスライドしていたが、かろうじて戻りが間に合った。

 ボールは打音を響かせ、大きくゴールラインの外へ飛んでいく。


『ナイスディフェンス!』


 観戦していたメンバーや永瀬コーチの口から称賛が飛ぶ。赤チームのディフェンス陣も、間一髪のビッグプレーを褒めちぎる。

 僕もホッと息を吐き、近くにいた玲音を称えた。


「ナイス、よく間に合わせたね」


「ギリだったぜ。俺のいるサイドから簡単に点を取らせてたまるか」


 くどい返事はともかく、気持ちのこもったディフェンスはチームの士気を上げる。このまま悪い流れを断ち切れたらいいが……と思案する僕に、玲音は手招きしてひそひそ声で言う。


「シロタカのディフェンスは信頼できん。だから兎和、お前が中央をカバーできるようなポジショニングでプレーしてくれ。俺もサポートする」


「……オーケー、意識しとく」


 玲音の提案の正しさは、後のゲーム展開が証明してくれた。

 白石くんは攻撃にリソース全振りで、守備時は役割を放棄する。そしてポジション的に、カバーへ入るのは僕が適役。二人分のスペースを意識するあまり、下がり気味でのプレーを余儀なくされる。


 露わになる欠陥、機能不全に陥る左サイド。

 ゲームが進むにつれ、自陣でのプレーが増えていく。

 ナイター照明が灯り、人工芝のグリーンと足音がますます映える。


「おい、テメエ! ちゃんとサイドに張ってろ! 無駄に下がるから相手に高い位置とられんだよ、クソ陰キャが!」


「ご……ごめんなさいっ!」


 ついに白石くんから怒りの矛先を向けられた。

 もはやチームのウィークポイントと化す左サイド……世界最高の選手だって守備免除されていないのに、とモヤモヤしながらも僕はピッチを奔走する。


 それでも先制点を挙げたのは、意外にもD1だった。

 残り5分を切った頃。白石くんが右サイドに張り付いて意図せず囮として機能し、僕は偶然生まれたハーフスペースに顔を出す。


 直後、ボールホルダーの味方CBと視線がぶつかる――縦パスが入る。

 寄せてくるディフェンスの気配を背に感じながら、僕はいわゆる『楔のパス』を足元に収めた。並行して首を振って周囲を視認。


 いくつもかの選択肢が頭に浮かぶ中、選択したプレーはレイオフ(ポストプレー)。というか、トラウマ発動中でろくに体を動かせない現状ではこれが精一杯。


 サポートすべく駆け寄ってきた味方DMFへ向け、ツータッチで短いバックパスを落とす。

 間一髪。慌てて寄せきてきたディフェンスの松村くんに体を強くぶつけられ、態勢を崩す――そのとき、僕の人差し指はスペースのある左サイドへ向けられていた。


 タッチライン沿いをオーバーラップする玲音の姿が、ピッチへ倒れゆく視界の中から突き抜けていく。


 味方も意図を汲み、ダイレクトでパスを繋ぐ。難しいバウンドを処理した玲音はそのまま敵陣へ切りこみ、利き足の左でグラウンダークロスを送った。


 このボールに合わせたのは、D1の暴君たる白石くん。ダイアゴナルラン(斜めの動き)でペナルティエリアに侵入し、トラップから抑えのきいたシュートを放ち、華麗にゴールネットを揺らしてみせた。


「――しゃあぁぁああっ!」


 わっと歓声が上がり、ガッツポーズを決める白石くんを仲の良いメンバーたちが祝福する。


 試合は、その直後にタイムアップ。先制点を守りきり、D1は辛うじて勝ちを拾う。褒められた内容ではないが、前評判通りの二連勝を達成した。


 締めに永瀬コーチからプレー面での注意や戦術指導を受け、トレーニングは終了を迎える。


「兎和、ナイスプレー。ていうか、オフェンス右サイドに偏りすぎだな……まあ、次がある。真に優れたプレーヤーであれば、チャンスの方から寄ってくる。焦らずいこう」


「ああ、うん……今度もやれるだけ頑張ってみるよ」


 部室棟の前へ移動し、水分補給をしながら玲音と健闘を称え合う。同時に、自分のプレーを振り返った。


 オフェンスは及第点未満。ボールを受ける機会が少なかったうえに、白石くんの怒気を帯びた声に従うだけだった。ディフェンスもカバーを意識したが、高く見積もっても無難が精々だろう。


 強いて収穫をあげるなら、最後までやりきったこと。あとはポストプレーくらいか……とにかくトラウマで体が動かず、まともにプレーできなかった。ポジションコンバートして間もないとはいえ、先が思いやられる。


 美月のマネジメントにより少し前向きになっていたが、改めて現実を思い知らされた。自分がどれほどのポテンシャルを備えていようとも、トラウマで実力を発揮できないのであればゼロと同義だ。


 なんだか、どっと疲れてきた……こみ上げてくる苦々しい気持ちをどうにかやり過ごし、僕は暗いピッチを後にする。

 初の公式戦まで、もう一週間もないというのに。

おもしろい、続きが気になる、と少しでも思っていただけた方は『★評価・ブックマーク・レビュー・感想』などを是非お願いします。作者が泣いて喜びます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。