退院、そして……
「お世話になりました」
「佐々木さん。傷、残らなくて良かったですね。可愛い彼女も来てましたし」
「彼女じゃないです! 同じ部活仲間です!」
「うふふ。そうは見えませんでしたけどねぇ……」
「からかわないで下さいよ看護師さん。長い間お世話になりました」
今日は一月末日。
年始早々に火傷を負った俺は、一か月もの間入院を余儀なくされた。
その間の授業内容を、伊吹や流駆、阿川に琴宮が交互に教えに来てくれた。
全員、自分たちの復習にもなるからって。
部活の方も、嵐と流駆が頑張って俺の代わりを務めてくれていた。
そして、連日朝霧先生も来てくれた。
クラス担任として様子を見て、同じクラスの奴らを安心させるために。
――荷物をまとめると、丁度母さんが迎えに来てくれた。
「くぅー。しゃばの空気が美味いぜ」
「病院内だってしゃばでしょーに」
「いいや。あそこは地獄ですよ、奥さん」
「何言ってんのよ。三食昼寝付きの天国でしょうに」
「だって、パソコンをまともにいじれないんだぜ!? 消灯二十一時なんだぜ? あり得ねーよ」
「あり得るわよ。病人は治療すんのが仕事みたいなもんなんだから」
「二十一時になんて寝付けるわけねーだろ。中学生なめんな!」
「はいはい。それよりもどう? 傷は大丈夫?」
再度火傷を負った場所を確認してみる。
皮膚移植をして縫い合わせ、縫った部分は既に解いてある。
ほぼ傷の跡はないし、一番酷かった場所は隠せる場所だ。
まだ青くなってる場所はあるものの、何れは引いていくと医者から聞いていた。
「うん。傷跡もほぼ残ってねーって。すげーんだな今の医学とか塗り薬」
「美容に転換されるくらいだからねぇ。お母さんももらってこようかしら」
「おいおい。病人でも無いのに使うなって。薬剤師に怒られるぞ」
退院したら今まで出来なかった三Dモデリングへ直ぐ取り掛からないと。
そう思って家に帰ると、家にお客さんが来ていて、父さんが相手をしていた。
「戻って来たか。こちらが息子の凛です」
「その節はうちの娘を助けて頂いて有難うございました!」
「お兄ちゃん、有難う!」
「親御さんでしたか。お子さん、無事で良かったです」
「少しだけ火傷をしましたが、もうダメだったかも知れないと考えると、怖くて、怖くて」
「それは俺も同じ気持ちです。声が聴こえて、夢中だったんです。その声が聴こえ無くなってたら俺……多分
頭、おかしくなってたかもしれません」
「年始で炊いてた線香で、ボヤに気付くのが遅れたみたい」
「そうだったんだ……」
しきりにお礼を言われたけど……自分だって運が悪ければそういった事態にだってなり得るわけで。
人が生きるって、いろんな運の要素が絡み合ってるんだと思う。
勝手なことをしたのかもしれない。
一歩間違えれば自分も死に至る。
それでも他人だからと見捨てることなんて、あってはならないことなんじゃないか。
今回は無事助けられた。
次回また同じ場面があったとして、同じように助けられるわけじゃない。
そのために日々訓練している人たちがいるのも分かっていることだ。
お礼に来た親御さんたちを見送ると、良い時間だった。
今日は学校に休みを届けてあるが、部活だけ顔を出す予定だ。
「これもまた、経験なのかな」
「ほらあんた。部活に顔出すんでしょ。これ持って、行っておいで」
「お見舞いのお礼、用意しといてくれたんだ」
「当然でしょ。だって奈々ちゃんも奈緒ちゃんもいるのよ!? 私は奈緒ちゃん推しだけど、あんたはどっち推しなの? さぁ答えて、凛!」
「下の名前で呼ぶなって……」
「答えになってないじゃない……どっちが凛を奪っちゃうのか、不安だわ……」
「先走るのは止めろ! 畜生、こうなったら半分食ってやる」
「あ、こら! せっかくお母さんが綺麗に飾ったクッキー!」
「美味いなこれ。全部くっひま……ほっぺを引っ張るな!」
「伸びきってしまえばいいのよ。あんたの緩んだほっぺなんて」
こうやっていつも通り母さんと会話をするのは安心する。
そのまま食い漁った残りのクッキーを持ち、俺は視聴覚室へ急いだ。
「ういーっす」
「佐々木君! もう平気なの?」
「おう。大丈夫だぜ」
「心配させやがって。この、このー!」
「痛ぇよ流駆。傷のとこ直ったけどまだ青くなってんだから」
「悪っ。って大丈夫じゃないんじゃねーかよ」
「佐々木君……退院おめでとう」
「ああ。琴宮もお見舞いに来てくれてありがとな」
「ほら。座りなさいよ。病み上がりなんでしょ」
「ああ……って俺の椅子どうした?」
「あっち」
「え?」
「ははー。唯一神佐々木様のお椅子様。どうぞこのひなに勇気と希望をお与え下さいませー」
「……何やってんだひな先生」
「お前の行動を聞いてから毎日、ああやって椅子にお供え物捧げてる」
「……おーい、戻ってこーいひな先生ー」
「はっ!? モノホン神のお声が聴こえるー……」
「モノホン神って何だよ……いや、確かに先生にも心配掛けたけど」
「ほんとだよ! ひなぶっ倒れてチーンするとこだったんだかんね!」
「その役目、ひな先生じゃなくて朝霧先生だよな」
「そうね。一番心配してたの、朝霧先生なんだから。ちゃんとお礼言っておきなさいよ」
「ああ。朝霧先生は何処に?」
「職員室じゃない? 行ってみたら? 他の先生も心配してたよ」
「分かった。行って来る」
その後、職員室に顔を出したが見当たらず。
他の先生たちに拍手されたので、恥ずかしいからさっさと退室。
あちこち探していると……「どうしてもそのつもりかね」
「はい。結果がどうあれそうすると決めました」
「そうか……残念だ」
「校長。私は決してこの学校が嫌というわけではありません」
「分かっているよ。君は良い先生だ。その意思は尊重しよう」
「はい。失礼します」
丁度校長室を通りかかったときに、朝霧先生の声が聴こえてきた。
何の話だったんだろう。
「佐々木か。もう大丈夫なのか?」
「はい。朝霧先生、ご心配お掛けしました」
「全くだ。無茶をする奴だという認識はあったが、ここまでとは思わなかった」
「すみません」
「いいや。自分が詫びるより遥かに多く、感謝されただろう?」
「それは、そうかもしれません。でも、一杯泣かれました」
「それだけ心配してたんだ。お前はまだ中学生。真っ先に飛び込む大人がいなかったのは不幸だったが……もし命を落とせばどれほど悔やまれていたか」
「そうですね。特に父と母には心配掛けました」
「なぁ佐々木。お前、教師を目指すつもりはないか?」
「先生。それは……」
「いや、いいんだ。お前ならと思ったが、お前には夢があったな」
「はい。それに、先生みたいに眉間にしわ、作りたくないですからね」
「こいつ……作品完成まで残り僅かだろう。私も協力する。頑張って仕上げよう」
「はい!」




