魔法の設定を考案しよう!
夏休みも終わり、九月へ突入した。
自分のクラスでは、琴宮が入院したことについて少し騒ぎになった位で、他にこれといったことは無かった。
俺たちも琴宮が戻って来る間に作業を進め、作品の完成を目指している。
三Dモデリングもいよいよ本格化。キャラの動きを作ったり、演出を加えたりといった、高い負荷を要する作業を行っている。
流駆も嵐を手伝ってくれているし、阿川も追加で絵を描き下ろしていた。
そんな雨の降りしきる今日、俺たちは……「雨ってこんな風に作ってるんだね。雨粒を作ってそれを指定数だけ降らせるのかぁ」
「ああ。数を増やせば増やす程、処理が重くなるけど」
「すっげ。地面にある水たまりに跳ねてて雨っぽい。破門も広がってるな」
「もうちっと水っぽくしたい。これに背景重ねると……」
「おお、夜に光差し込む水たまりになった!?」
「さらに……」
「車で水たまりの水が跳ねた!?」
「あんたらね……遊んでないで真面目にやりなさいよ! 車なんて通らないでしょ!」
『すみませんでした……』
「全く。奈々がいないからって。もう少ししゃきっとしなさいよ」
「ああ……俺たちには癒し系女子が必要だったんだ」
「早く戻ってきてくれ、琴宮ー!」
「本当、ぶっ飛ばすわよ?」
「あはは……阿川さん本当にやりそうで怖いね」
「さて、真面目な話、雨が止んで空が晴れ渡って光が差すって演出はいいけど。問題はソフィアさんが言うところの魔法だよな」
「魔法ってあれだろ? 大爆発起こすとか、太陽光線で焼き払うとか」
「それ、魔法じゃなくて現実兵器で出来ることばかりだね……」
「じゃあどんなのが魔法なんだ?」
「えーと、例えばこういうのだな」
物理演算を駆使して火炎の珠を幾つか飛ばしてみせる。
これくらいは直ぐに完成する物理演算の初歩だ。
ただし、見た通り処理させるようにするには、焼きつけの処理が大変だ。
「そうそう! こういう火球を飛ばしたりとか。他には氷を飛ばしたりとか!」
「氷ってどうやって飛ばすんだ?」
「現実的に考えないからファンタジーなんでしょ。あんたの頭にあるのはフィクション。可能性を考慮し過ぎ」
「難しいな。武道じゃこれは体現出来そうにないぞ」
「当たり前じゃない。あんた、対戦相手に火の玉飛ばすつもりなの!?」
「おう。出来るならやってみたい」
「反則だよね、それ……」
「一応、姉を火属性、妹を水属性で考えてるんだけど、どう思う?」
「相反する力かぁ。ありがちだね」
「やっぱそうか。うーん……」
「視覚的に分からないと意味ないもんね……迷うなぁ」
「しかも動きが鋭いと衣服の動きとかも作らないといけないんでしょ?」
「風に合わせて髪の動きも調整しないといけない」
「うわ……一気に難しくなるね」
「ゆっくりとした動きだけならそうはならない。火や氷の方が都合がいいのは動きそのものに集中すればいいから楽なんだ。風魔法とかマジでやりたくないな」
「確かに風魔法使えると、動きが難しくなりそうだね。風魔法って目に見えないものを表現するわけだし」
「でも、最後は二人で抱き締め合うんでしょ? だったら接近するのよね」
「ああ。火と氷の打ち合いになった場合って、武道と組み合わさるとどうなる?」
「って俺に言われても困るぞ。火も氷も使えないし」
「そんくらい妄想してみなさいよ、ほら!」
「頭ん中パンクするわ! 姉ちゃんの方が想像つくだろ、そういうの」
「そうね。あんたより成香さん頼りになるし」
「ひっでえな、俺だって考えはするけど良く分からねえんだって」
「うーん。至近距離でいうとやっぱ火や氷は無理あるか」
「演武から実戦に移行すんなら遠距離想定でいいんじゃねーの?」
「だから、それでどうやって近づくのよ」
「うーん。そこは筋肉で! あいてっ」
んー。これは俺たちだけじゃ答えでないな。
こういうときは琴宮の意見をもらってみるべきだ。
と言っても迷ってるという内容はもう、琴宮へ送ってあるんだけど。
一ノ瀬たちとソフィアさんにも送ってあるが、まだ誰からもリターンは無い。
「なぁなぁ。魔法ってどんな種類あるか教えてくれよ」
「んーと、火、水、風、土なんかの基本属性魔術は大事だよね」
「基本? 基本まであんのか!?」
「元素を意識した魔法が多いわよね。それ以外のものはイメージし辛いから、設定に入れても流行らないんだって」
「流行りまで関係あんの!?」
「後は空を飛んだり、相手の能力を透視したりとか?」
「それは魔法じゃなくてスキルでしょ。一緒にするとこんがらがるわ」
「魔法にスキル……ダメだ。俺ついていけねー」
「長谷川君はゲームとかやったりしないの?」
「そんな暇があったら筋肉を鍛える!」
「あはは……最近だと魔法の代わりに筋肉でどうにかする漫画もあるよね」
「そういう方向でも良いと思ってたんだけどさ。ほら、これ」
「ん? 琴宮から?」
「ええっと……僕が読むよ。外は凄く天気が悪くて雨、一杯降ってるね。魔法でバケツをひっくり返したみたい。雷も鳴って来たよ。魔法ってこういう状況も作れるんだよね? 自然を意識する魔法だと、結び付けやすいんじゃないかな……だって」
「それだわ! 姉が雨を魔法で降らせる。最後は妹が落雷でそれを……」
「直ぐ他の奴にもメッセージ投げてみる。ソフィアさんにも追加で」
「一度に二つとも解決しちゃった。さすが琴宮さん」
「ああ。俺たちが画面の雨を見てる頃、あいつはこの空の雨を見て考えてくれてたんだろうな」
「私、切り上げてお見舞いに行ってきていい? 奈々の顔、見たくなってきちゃった」
「僕も行っていい?」
「ダーメ。女子だけのお話だもん」
「それは見たい気もするけど、遠慮しとこうかな。それじゃ僕たちはやっぱ……」
「はーい嵐君。大好きな物理演算の授業を始めるよ―」
「やっぱり。大変そうだなぁ……」
「何言ってんだ。お前すげー実力上がって来てるんだから出来るって。流駆も手伝ってくれよ」
「おう!」
大まかな魔法演出も決まり、これから三か月は本腰を入れて作り込みだ。
最後の仕上げは冬休みになるだろう。




