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クリエイター部!   作者: 紫電のチュウニー


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琴宮の怪我

 タイミングが良いのか悪いのか。

 救急車を呼んで到着した頃に、朝霧先生が到着した。

 先生は救急車に同伴し、バーベキューは終了。

 片付けは母さんたちがやっておくとのことで、俺たちはゴミを捨てに行き、家に帰宅することになった。


「なぁ。琴宮の奴どうしたんだ? 具合ずっと悪そうだったけど」

「……本人にまだ話していいか答えをもらってないから言えないんだ」

「何だよ。知らないの、俺だけか?」

「佐々木君。長谷川君には話しておいた方がいいんじゃない? 僕と阿川さんだけ盗み聞きしたみたいだし。全員で話し合おうよ」

「……分かったよ。でも、そのせいで琴宮が傷つくようなことには絶対なりたくない」

「そうね。私も奈々のこと良く知らなかった。私がどなったあのときもそうよね。どうして話してくれなかったのかな」

「あいつ、ずっと悩んでたんだと思う。部活入るのだって本当は嫌だったのかもしれない」

「そうかもね。でも……ううん、何でもない」

「とにかく教えろよ」

「ああ……」


 流駆にも琴宮の状態を説明した。流駆だって琴宮のことを心配してるんだ。

 俺たちは同じ部活仲間として、互いに信頼してるつもりだ。

 誰ひとり欠けたりなんてしたくない。


「親御さん、心配するよな」

「ああ。最悪部活辞めろって言われるかもしれない」

「琴宮さん、きっと自分を責めるよ。何か言える状況じゃ……ごめん」

「今回は俺の責任で俺が悪い。手をつかんで止めてれば、琴宮は怪我しなかった」

「ん? 水を買いに行ったらこけたって聞いたけど」

「あんたは黙ってて。そうじゃないけどその通りなのよ、もう!」

「何だよ。わけ分からねーって。どうして俺はあの場にいなかったんだ……」

「長谷川君がいたら絶対余計なこと言ってたからいなくて本当に良かった気がするなぁ……」

「どういう意味だよ!」

「わわ、怒らないでよ」

「とにかく……俺、琴宮の親御さんに謝るよ。許してもらえるか分からないけど」

「……あんまり思いつめないでね、佐々木君」


 思いつめるなって言われたって。

 朝霧先生がいないあの状況。

 俺が部活の責任者だったんだ。

 だから俺がしっかりしてなきゃいけなかった。

 もっと早く琴宮の具合の悪さに気付いてれば。

 もっと早く……琴宮のことを理解していれば。

 こんなことにはならなかったんだ。


 ――翌日、先生に琴宮が入院したことを聞いた。

 右足首の骨折。全治一か月半。

 そして今日、俺と朝霧先生、櫛切先生はご両親にお詫びを入れに行っている。

 ……先生はあの場にいなかった。

 しかも他の先生の仕事をこなしていたからだ。

 学校も責めることが出来ないし、琴宮のご両親もその場に先生がいなかったことを知って驚いていた。

 櫛切先生はその場にいたが、クラス担任でも部活顧問でもない。

 しかし、同じように謝り、責められたのは櫛切先生。

 それを庇っていたのが朝霧先生だった。

 あんなしょげた顔をした櫛切先生は初めて見た。

 そして今度は俺の番だ。


「あの。部活代表の佐々木凛です。この度はすみませんでした。俺がもっとしっかりしていればこんなことには」

「うちの娘は昔から病弱なんです。やはり部活は難しいかもしれません」

「それは……俺が今後もっとフォローしたいと考えてます。琴宮さんがどうしたいのか。その意思次第では仕方ないと思います。でも俺たちには、琴宮さんが必要なんです」

「佐々木君だったね。うちの娘は将来、海外で学ばせようと考えてるんだ。日本で教育するよりも、その方が娘のためだとも思っている」

「それは琴宮さんが望んでるんですか?」

「親は子供に従った方が良い。その方が幸せになれる」

「……琴宮さん。そのお話は三者面談のときにお話ししたかと思います。ご本人の意志を尊重するのが大事かと」

「朝霧先生。申し訳ないがね。声優などと大して金にもならん仕事につかせるより、もっと立派な証券会社にでも入れたいんだよ。うちの娘は優秀でね」

「それは否定しません。クラスでも全教科高得点を取れるだけの実力が、あの子にはあります。ですが、本人が望まないことを押し付ければ、命に関わるかもしれません」

「うちの娘が自殺でもすると?」

「いいえ。過呼吸症候群と診断されていることを存じています。体に感じない程度のストレスを強く感じてしまう、精神的な症状。それもかなり重い症状です。このままご両親がストレスを与えれば、もっと酷い症状が出てもおかしくありません」

「……しかしね。声優などと……」

「あの、お言葉ですが……声優でもトップの人が幾ら稼いでいるかご存知でしょうか?」

「いや? どうせ二束三文だろう」

「トップクラスで七千万程です」

「なんだと? 七千万?」

「はい。そして琴宮はその中でトップを取れる才能があると俺は思ってます」

「……何故そう思うのかね」

「俺たちはあいつの声、好きですから。そしてあいつも俺たちのことが好きだと。この耳ではっきりと聴きました」

「佐々木……」

「今回怪我をしてしまったのは俺の責任です。今後そのようなことがあれば俺を断じてくれて構いません。ですからこの通りです。琴宮をこのまま、部活に置いて下さい!」


 土下座して謝った。それくらい自分にいらついていた。

 俺は何をしてたんだ。

 俺がやりたいと言い出した部活だ。

 それを俺が壊そうとしてどうするんだ。


「頭を上げてくれ。佐々木君だったね。十四歳、まだまだ頼りない時期だろう。君の誠意は受け取ったよ。私だって娘が可愛いと思っているし、怪我をして少し焦りを感じていたのかもしれない。いいだろう。君たちがどれほどのものを作るのか。今しばらくは見守ることにするよ」

「はい、有難うございます!」

「娘の顔も見てやってくれ。娘が……そうか。皆を好きか」

「あなた……」


 その帰り道に、三人で琴宮の病院を訪れた。

 五〇二号室。綺麗な一人部屋だ。


「先生。俺ちょっとトイレ行ってからいきます」

「……分かった。準備出来たら入って来い」


 ……ダメだ。直ぐには顔を出せそうにない。

 コンコンというノック音だけを聴き、俺はトイレへと向かい、水道の蛇口から水を出した。


「朝霧だ。失礼する」

「……どうぞ」

「琴宮。遅くなってすまない。花はここで良いか?」

「朝霧先生。お見舞いに来て下さって有難うございます。ひな先生も」

「ううん。ご免ね奈々っち。私いたのに」

「そんな。私が勝手に転んで怪我を。謝らなければならないのは私です……」

「先生の監督不行き届きだ。申し訳なかった」

「朝っちは悪くない。悪いのはひななの。教師失格だから」

「そう自分を責めるな。俺が仕事を断っていれば良かっただけの話なんだから」

「そーやって甘やかすから、ひなはおっきくなれないの」

「先生、お父さんは……?」

「此処へ入れずに待ってる奴が、説得してくれたよ」

「……えっ?」

「佐々木。そろそろ入って来い」

「……もう少しだけ、もう少しだけ待ってください」


 病室の前まで来て、悔しくて涙が止まらなくなった。

 どの面下げて琴宮に話せばいいのか。

 情けない顔を見せるな。

 それでも、男か俺は。

 下っ腹に力を入れ、顔を叩いて琴宮の病室へと入る。


「佐々木君……ご免なさい!」

「ご免! 俺、もっと気を付けるから」

「違うの。私のせいで」

「違わない。朝霧先生は俺を信頼してたから。だから仕事を引き受けて遅れたんだ。佐々木がいるから大丈夫だって。俺はそれに応えられなかった。俺がお前を傷つけたんだ。お前が俺たちのこと好きって言ったとき、直ぐ答えるべきだったのに」


 そうだ。そうすればそんなことにはならなかった。


「俺たちだってお前のこと好きだ。一緒に作ろう。俺たちの作品を!」

「佐々木君……うん。私ね。ずっと怖かった。みんなと上手く話せているようで、実は自分から避けてるんじゃないかって。また苦しくなったらきっと迷惑かけるって。だから、だから、怖かった、怖かったよ……」


 ひな先生が強く琴宮を抱き締めてくれた。

 もっと早く言ってやれば良かった。

 安心させてやれば良かった。

 後悔しても仕方が無い。

 だからこそ、今から始めよう。

 何も抱えてない奴なんていないんだ。

 流駆は姉への劣等感を、阿川は上手く描けない自分自身への苛立ちを。

 嵐は片手によるコンプレックスを。琴宮は病弱な自分自身を。

 そして俺は……リーダーとして上手くやっていけないという自信の無さを。

 全員で共有して分かち合えばいい。

 きっと出来るはずだ。


 ――その後、落ち着いた琴宮と俺だけを残し、先生たちは食事を取りに行った。

 そして……「佐々木君。あのね」

「えーっと……はい」

「私は佐々木君が好き。でも佐々木君て阿川さんのことが好きなんだよね」

「いや……良く分からないんだ。恋愛って。多分恋愛とか興味あるのって嵐だけじゃないかな?」

「そっか。男の子って皆そうなの?」

「んーと。そうでもねーと思うんだけど。今はまだ、かな。三Dモデル作ってるのが楽しくて」

「そっか。じゃあ私もまだ、佐々木君を振り向かせられるかもしれないんだね……」

「えーっと……」


 本当に良く分からないんだよな。これは母さんのせいだと思ってる。

 琴宮は可愛いと思う。阿川だって可愛いと思うし、ひな先生や成香さんだって可愛いと思う。

 でも、好きってやつがいまいち分からないままだ。

 勿論嫌いなわけじゃない。強いて言うなら流駆や嵐、一ノ瀬たちにしろ全員好き……か?

 なんかこう……クリエイター部にしろ、教養推進同好会の奴らにしろ……あれだ。


「なんつーか。皆家族みたいな感覚……なんだよ。変、かな?」

「ふふっ。佐々木君らしいね。きっと皆大切なんだと思う。私ね。大勢の知らない人がいる場所だと、そこに強いストレスを感じちゃってるみたいなの。でもね。クリエイター部に入って、佐々木君たちと一緒にいるだけならね。その症状、全然出なかったんだ。ううん。出そうになったこともある。でも、佐々木君がフォローしてくれて。そうするとね。すっと治まるの。びっくりしちゃった。一緒にいるだけで魔法の薬だよ? その優しさが……その。好き、何だと思う……」

「ははっ。うちの父さんってさ。すげー尻に敷かれてるんだよ」

「うふふっ。佐々木君のお母さん、素敵だもんね」

「そんでさ。いっつも言うんだよ。凛よ、男子たるもの常に女性に優しくして、尻に敷かれておけ! それが家族円満の秘訣だー! って。部活も一緒。家族だと思ってる。だから俺はさ。全員に尻に敷かれてるくらいでいいなじゃねーかなって思ってるんだ」

「うん。佐々木君らしい。私、頑張るから……Until you turn around」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん。何でもない。早く治して元気な姿見せるから!」

「ああ。メッセージは送るから。それじゃな」


 琴宮は元気に笑顔を見せてくれた。

 あいつが戻って来る間に、もっと作業を進めなければ。

琴宮さんは成績も優秀過ぎました……

怪我にお詫び、例えその場に自分がいなくてもきっちりとお詫びを入れる朝霧先生。

こういった素敵な教員の話、とんと聞かなくなってしまいましたね……。

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