初めてのデート
俺は琴宮の電話を切った後、嵐に電話をして一緒に来ないか尋ねてみた。
すると、直ぐ俺の家に行くと電話を切った嵐が、あっという間に駆けつけてきて、部屋
に招き入れる。
すると……嵐は眼鏡を掛けているのだが、その眼鏡の位置を調整して……「佐々木君!」
「はい!? びっくりした。お前そんな大きな声出せるんだな」
「僕のことはいいの。君ね! 女の子にデートへ誘われて僕を呼び出すってどういう神経
してるの!?」
「えっ? デート? 俺はただ落ち込んでる琴宮を励まそうと、ソフィアさんのメッセー
ジをだな」
「君は女性に誘われて時間を合わせてジョーサンに二人きりで会おうとしていた! そし
てそれを琴宮さんは承諾したんだよ!? それは立派なデート!」
「はぁ……」
「はぁじゃないよ! そんなところに僕が行ったらどうなると思う? 琴宮さんに、何で
私のデートを邪魔するモブがいるの? このお邪魔虫って思われちゃうでしょ!」
「あ、あの。ご免なさい嵐様」
「全くもう。どうして僕や長谷川君には上手く意図を汲んでやれて、女性の意図を汲んでや
れないんだ君は!」
「か、母さんのせいかなー……なんて」
「あらあら。せーっかく美味しいお茶菓子を持って来たのにそういうこと言うのね」
と、扉を開けた母さんがとても怖い笑顔で茶菓子とお茶を持って来てくれていた。
そう、今日に限って休みな母さん。
俺もこの後に塾があるからあまり長居は出来ないんだけど。
「ご免なさい、急にお邪魔しちゃって。どうしても直接一言伝えたくて」
「いらっしゃい伊吹君。いつでも来てね? それに言ってやってよ。この子全然恋愛のこ
ととか分かってないの」
「全く同感です。佐々木君のお母さんはこんなにもお綺麗な人なのに」
「あら凛ったら素敵な目をお持ちのお友達じゃない。大事にするのよ。うふふっ」
……何だこの見事な連帯感は。
これではまるでこっちがお客さんみたいじゃないか。
それに嵐って恋愛事にはうるさかったんだな。
だが俺には好きとか嫌いとか、ホレタハレタに関してはさっぱり分からない。
可愛いとかの基準は分かるつもりだが……。
「お母さんこれから……凛のデート用の服を買いに行ってくるわね」
「僕はデート用の挨拶を考えておくから、後でニームズで送っておくね。お母さん
お茶菓子美味しかったです」
「え、ちょ、二人とも?」
『塾、頑張ってね』
茶菓子を食べ終えた二人は、俺一人だけ部屋に残して出て行く。
その茶菓子って、俺のは無かったわけ!?
――そして翌日の昼頃。
ジョーサン前に一足早く到着した俺は、ある場所をじーっと見ていた。
「あいつら、あれで変装して隠れてるつもりか……」
明らかにおかしな恰好をしている母と、サングラスと付け髭をしていると思われる嵐が
いる。
その若さで付け髭なんかしてみろ。
変装ではなく変態になり果てる。
ちょっと行って追い返してくるか……「お、お待たせ。ご免ね待たせちゃった……かな?」
「……あ、いや。ううん。今来たところ、です」
そして俺が見ていた方向から草が茂ってるところに移動したのだろう。
そこから小声でちゃんと褒めろだのと笑い声まじりな雑音が聞こえる。
「ど、どうかした?」
「いや、何でもないよ。たぬきかブタだろう、きっと」
「ブタ? 豚って茂みにいたりするのかな?」
「いるよきっと。もう何年かしたら丸々肥えそうな子豚ちゃんが」
「そっか……えっと。その、どう……かな?」
「どうってえーと……」
頭の中は空っぽだったので急いで頭を振り……昨日の夜、嵐からの文章を思い返す。
「デートっていうのはね。ちゃんと女性をフォローしないといけないんだよ! 上手く
やらなければ僕たちの部活、ばらばらになっちゃうからね。いーね!」
「え、ええっと。丈が短いスカートって、可愛いん、だな。良く似合ってるよ」
「本当!? ちょっと怖くて恥ずかしかったけど、その……履いてみたくて」
「んじゃお店行こうか。ソフィアさんのメッセージもあるし」
「バカ! 女の前で他の女の名前出すんじゃ……ムグッ」
「あれ? 今何か聞こえなかった?」
「ぶ、ブーブー」
「ほら、豚だ。きっと家畜用の車でも直ぐ近くにあるんじゃないかなー」
「そっか。それじゃ、行こ」
「ああ」
そして二人の背中を目線で追う、佐々木母と伊吹嵐。
「佐々木君のお母さん。ここまでの佐々木君の行動、何点でしょうか?」
「三点ね」
「点数の振り分けをお願いします」
「まず先に来ていたのは一点。お母さんの服を着て行ったのでもう一点」
「ほうほう。後一点は?」
「照れながらも一応褒めたところで一点」
「では次にダメだしをお願いします」
「まず褒めたところよ。あれはね、今年流行りの上下セットの色合い。乙女がキュンッ!
ときてしまうのは、例えば! その服の色、今日の君にとても似合ってるよ、とか! こ
の時期にぴったりの色でとても綺麗だよ……とか! そういったさりげなさに乙女が喜ぶ
演出が必要なの! それが何? スカートの丈が短いのも似合う? 下しか見てないじゃ
ない! どんだけ照れてたらそうなるのよ!」
「うわぁ……」
「それに何? あんな可愛い子が凛を好きだっていうの? 嘘よね? お父さん全然モテ
なかったのに?」
「お父さんのことは知りませんが、佐々木君はどうみてもお母さん似かなー、あははー……」
「それはまぁそうね? お母さんモテてたわけだし? でも立場逆でもああはならなそうよ?」
「佐々木君、優しいしフォローしてくれるし。それに何より制作に打ち込んでる姿、凄く恰
好良いんですよ」
「そうだったの。私は止めないわ伊吹君。あなたも凛を狙ってるのね! これが禁断の愛!」
「……どうしてそうなるんですか……っとああ、お水こぼした!」
「あーもう見てられないわ。何あの慌てぶり……でもあの子、凄く嬉しそうで幸せそう。本
当に凛が好きなのね……」
「僕、何だか凄く罪悪感が……」
「……帰りましょうか」
「そ、そうですね。でもお母さん。凛君ってもしかして好きな人いるんじゃないですか?」
「ええっ!? このタイミングでそういうこと言う? 詳しく!」
「わわっ。多分本人は無自覚なんでしょうけど、阿川さんて子が好きなのかなって」
「えっ? 阿川さんて絵を描く子よね。見たいみたい―!」
「そんな可愛く言われましても……余程恋愛物語がお好きなんですね」
「ふふっ。あなたもでしょう?」
「はい。僕も小説や漫画、アニメは欠かせず恋愛ものも読んでおりますから」
「今サングラス光ったわ……それでそれで、写真とか無いの?」
「ありませんよ。学校では禁止ですから」
「ちぇーっ。そっちもバーベキューまでお預けかぁ。早くやりたいなぁ」
「その前に合宿がありますからね。あ、佐々木君だけ席を立った。トイレかな」
「でもでも、そうするとうちのバーベキューで三角関係の修羅場!? ねえねえ。その阿
川さんは好きな子いないの? ねぇ、ね……」
『かー、えー、れーー!』
『うわああああああああ!』
「ったく。母さん仕事は?」
「や、休みですー。おほほほほほ……偶然通り掛かったら偶然伊吹さんとここで、ねぇ?」
「おほほほほー。その通りですわ奥様」
「はい回れ右。全く」
一体何してるんだあの二人は。
そんな面白いことなんて何もないってのに。
席に戻ると大分元気に見えた琴宮が少しまた考え込んでいた。
「ご免お待たせ」
「ううん。大丈夫。この後は忙しいん、だよね」
「悪い。今日も塾なんだ。はぁ、勉強詰めまくってるからパンクしそうだよ」
「でも偉いね。成績も落とさず三Dモデリングもずっとやってて」
「三Dモデリングは楽しくてしょうがないから苦じゃない。強いて言うなら目が辛いかな」
「あんまり酷使すると良くないって言うから気を付けてね」
「その言葉、そっくり返すゼ琴宮。お前今日、喉痛めてるだろ」
「……気付いてたんだ」
「当たり前だろ? ほぼ毎日聞いてるんだから」
「……うん。嬉しい」
「でもさ。面白いと思わないか? あの流駆の動きに合わせて琴宮が喋るんだぜ?」
「うふふっ。練習が本格的になったらそうなるんだよね」
「ってその流駆からメッセージ来てたな。読んでみてもいいか?」
「うん。きっと部活のことだよね?」
「ああ。ええと……合宿先に俺の姉ちゃんが行くって言って断れないから連れてくしかな
さそうだが平気かどうか全員に聞いてる。凛はどう思う? ……これ、琴宮にも来てる
んじゃね?」
「あっ、本当だ。私、通知切ってるから。親がうるさくて」
「そっか。そーすっと阿川が冷たいって感じるのもソレが絡んでるかもな」
「あっ……私の連絡、遅いから?」
「あいつ、結構短気な性格だろ? だからさ」
「……うん。佐々木君は阿川さんのことも良く見てるよね」
「当たり前だろ。あいつとも毎日会ってるんだぜ。俺たちクラスメート! だろ?」
「……うん。そうだよね。ご免、これ以上引き止めたら塾に遅刻しちゃう」
「やべ、もうこんな時間か。ここ、出しとくから」
「えっ? でも……」
「これは母さんからの命令なの。払っておくから。それじゃな、琴宮」
「あっ……うん。やっぱり私、本当ダメだなぁ……」
伊吹君とお母さんの連携が光る!
女性とは心に秘めるマインドがとても高いものです。
そして男性とは繊細さが微妙に無い、察する能力が高く無い方が多い。
そんな場面を書いております。




