夏休み開始。行き詰まりを覚える女子
合宿の説明をすると、母さんは自分もついていくと言い出すに決まっていた。
丁重にお断りすると、すっとお金を出してこういう。
「無料でいけるわけないじゃないの。ほんと朝霧先生って人が良いんだから」
「どゆこと?」
「自腹切ろうとしてるんでしょ。ダメなんだからね絶対」
「ああ、部費が降りないからか。でも宿泊場所は先生の実家みたいだし……でもさ、どん
な部活でも初年度は合宿とか出来ないってこと?」
「理由があれば出来るんだろうけど。その教頭先生ってのが認めないんじゃないの?」
「直接校長先生に言えばいいんじゃないの?」
「真面目な先生だからきっと校長先生には話を通してるわ。でも費用は下りないと思う。だ
から、これ。凛の分の食費。断られてもちゃんと渡しなさいよ?」
「分かった。無理やりにでも渡すよ」
「はぁ。もー、お母さんも行-きーたーいー!」
「駄々をこねてもダメです。父さんと仲良く待ってなさい」
「はぁ。あの人のことだから絶対水着着て何処か海にでも行こう? とか言うのよ、あのはげ
親父」
「ひっでぇ。父さんいたら落ち込んで三日は立ち上がれないぞ」
「昔はもう少しだけ恰好良かったのよねえ」
「もう少しだけなんだ……何で結婚したんだか」
「んー、だって。他に母さん構ってくれる男なんていなかったんだもん」
「女子ってそういうもんなの?」
「自分から良い男に声掛けるなんて恥ずかしいでしょ? 男は違うの?」
「知らねーよ。俺そういうの良く分からないし」
「はぁ。我が息子ながら女っ気ゼロね。でもね。私に優しくしてくれる男が一番よね」
「冷たくする男の方が少ないと思うけど」
「もー! そうやって母さんを惑わさないの! お父さんが一番! 良いわね!」
「だから俺は父さん好きだって。優しいし、頼り甲斐もあるし」
「そ、そうよね。分かってるじゃない。うふふ……」
「はぁ。やっぱ母さんって良く分からねーわ。ひな先生みたいな感じするし」
「なになにー? あんた先生に惚れてるの? ねえねえ詳しく教えて?」
「何でだよ。確かにひな先生可愛いけど、さっきも言ったように俺そういうの良く分から
ねーから」
「えー!? 可愛い先生? 本当に? 会いたい! 会わせて! お小遣いアップするか
ら!」
「まじ? んじゃ前に話してた嵐とのバーベキューに呼んでみるよ。だから合宿中は大人
しく待ってろ。いいな?」
「はーいかしこまりました佐々木凛先生!」
「本当、母さんって母さんだよなぁ」
「何それ。当たり前じゃない。あんたを産んだのは私しかいないんだから」
つくづくこういうところも母さんだった。
――それから数日の間は嵐と阿川に連絡を取りつつ、着実に自宅で制作をした。
問題としては家のパソコンだと物理演算処理が出来ず、演出制作……つまり雨を作ったり
風を演出したりといったモノづくりが出来ない。
とはいえ俺としては本格的にキャラ作りをしたいので、阿川とのやり取りが増えている。
しかし……あまりにも上手くやり取りが出来ず、阿川の機嫌も悪いので電話を掛けた。
「ダメだ。チャットツールって意見伝えあうのむずい。テレワークとか良く出来るな」
「そうね。私も分かり辛いからこうやって電話してるんだけど」
「電話しながらだと今度は作業が止まる……」
「そうね。通話しながら絵は描けないわ。合宿、早く行きたいわね。はぁ……」
「そうだな。お前も行き詰まってるんじゃないのか」
「……何でそう思うの?」
「絵の傾向がどっちも別人みたいだから」
「やっぱ気付くんだ、あんたも。全然ダメな絵でしょ」
「琴宮も気にしてたのか?」
「そうね。ソフィアさんが作ってくれた台本に思い切り感情移入したいみたい。強めにダ
メ出しされたわ」
「そっか……俺もそれ位の気持ちで作らねーとな」
「……あのさ。何で責めないの?」
「責める? 責めるって何を」
「私がちっとも絵を描き終わらないから、あんたの作業が進まない。そうでしょ」
「違う。俺だってまだ上手く作れな……」
「嘘よ! 私がいけないのに。どうして誰も私を責めないの?」
「落ち着けって。前にも言っただろ。キャラ絵無くても動かす部分とかは多少作っておけ
るからって」
「だって……私、私……もう上手く描けない!」
「……阿川、お前」
「きっとこの程度の絵だったら、他の人にだって描ける、私じゃない方が、きっと……」
「おい。俺はお前の描いた絵を見てキャラを作ろうって思ったんだぞ」
「えっ?」
「お前の絵を初めて見たときだ」
「視聴覚室で……」
「それより前だよ。ちらっと見ちまったときだ。動き出すような絵。それも大事だけど。
その絵、好きだったから」
「……分かった。もう一度、その絵見て描いてみる」
「おう。それとな。今更降りるなんて言わないでくれ。頼む。琴宮だってお前の絵が好き
で妥協してないんじゃないのか」
「分からないの。琴宮さん、最近少し冷たくて」
「ん。それじゃ俺から琴宮にも連絡してみるから」
「うん。ぐすっ」
「はぁ……泣くなよな。それじゃ」
「あっ。佐々木」
「何だよまだ何かあんのか」
「……ありがと。それじゃ」
「? 何だあいつ。全く、夏休みだってのに思い詰めるなよなぁ……って人のこと言えね。
俺もだった。今度は琴宮琴宮……ちっとも自分の作業が進まん」
琴宮に連絡をしようとしたら、逆に琴宮からタイミング良く掛かって来た。
掛かって来たが掛かって来て切れた。
そして電話を掛けても出ない。
何かあったのか!? まさか事件にでも巻き込まれて……と思ったらまた掛かって来た。
「もしもし、琴宮? 大丈夫かお前」
「……ご免なさい」
「分からねーって。突然切れたからびっくりした。事件に巻き込まれたとかじゃないよな?」
「うん。その、勇気が出せなくて」
「勇気? 勇気って何だ。電話掛けるのに必要か? 心配でこっちから掛けようとしたわ」
「えっ? 電話しようとしてくれてたの?」
「ああ。阿川から聞いて」
「……そう、なんだ」
「大丈夫か? 元気無いようだけど」
「もしかしたら私、阿川さんに酷いこと言っちゃったかも。その相談をしたくて……でも」
「阿川なら平気だ。フォローしておいた。でも琴宮、お前阿川のこと嫌いなのか?」
「そんな! 私、阿川さんのこと尊敬してるし、凄く好きだよ。でも……ううん」
「それじゃ、阿川に謝れそうか?」
「うん。さっきメール送ったから。話してたなら、見てないかもしれないね」
「そっか。ホッとした。琴宮の態度、少し冷たいって受け止めてたみたいであいつも悩ん
でた」
「全部、私のせい。本当にご免なさい」
「何か悩みがあるなら話聞くから。ソフィアさんから新しいメッセージも届いてる。気に
なるならメールで……」
「あの、佐々木君。少しだけ、会えない……かな?」
「ああ直接見るか? それなら駅前のジョーサンでいい?」
「う、うん! 私、でも今日は」
「俺も塾あるから。合宿用に前倒しで塾攻めだわ。明日なら少し時間取れると思う」
「わ、私も明日なら空いてるから。十二時で、良い?」
「分かった。三時から塾だしあんま長くいられないけど」
「た、楽しみにしてるから! また明日!」
「お、おー? ……切れた。ソフィアさんのメッセージって言ってもそんな凄い内容じゃ
ないんだけどな」
この時俺は気付いてなかった。
これがデートの誘いだったということを。
「嵐も一応誘ってみるかぁ……」
いいところで終わりましたが、明日もまた投稿します!




