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7.亡者はお盆に帰れない

 【お盆の狂乱】と地面に名称がついた大事件からしばらくして。


 世間は和井戸テレビに無知をとことん馬鹿にされたあの日から、むしろ冷静さを取り戻し始めていた。

 転売屋たちは、あの日に住所とアドレスを怪奇現象でネットさらされたため、地下に潜って出てこない。

 プロミネンスウイルスは相変わらずに猛威を振るっていたが、パニックも偏見も目に見えて減っていったため、病床があふれることはなくなった。





 そして源次郎の言い残したように、和井戸テレビ社長の奥様は逞しかった。

 自身が次期社長となると、和井戸テレビのワイドショーを正式に「歪度ショー」と華々しく名称変更した。


 <<この商品がプロミネンスウイルス予防に効くって? 五歳時にも騙されるなんて馬鹿じゃない?>>


 次期社長は事故ちゃん(五歳)というキャラクター作り、逆にデマはデマだと明言しながら、騙されそうなタレント馬鹿にしながら炎上商売をするという手法に出たのだ。


 これが当たった。

 世間の人間というものは、他人に馬鹿のされるのは嫌がるが、他人を馬鹿にするのは大好きだ。

 プギャーっと叩かれるタレントを馬鹿にしながら、胸の内で「自分は気をつけなきゃ」とウイルス系の情報を注意して精査して見るようになったのだ。


 そして検査入院をしていた若手政治家は、数か月後に「自分に正直で良い」と世間の評価が360度一回転し、返ってお茶の間のアイドルになった。

 今では<馬鹿正直が売り>で結構票数を稼いでいる。





 数年後――――。

 生者の戦いと亡者のあがきによって、過去最悪の死者数に達しようとしていた、PRVID-19は終息が宣言された。









 さらにその次の――――とある日。

 とある小さな墓に、二人の女性が訪れていた。


「なぜかしらね。あの時初めて、あなたが背中を押してくれた気分になったの。ありがとう。でも、私一人で来るのはこれで終わりね。新しい出会いがあったの。とてもいいひとよ。あなたならきっと笑ってくれると思う」

「きっと笑ってくれるわ。だって、貴方は素敵な人だもの」





 さらに、二日後。


 榎並元太一家が先祖代々の墓地に訪れると、墓地を広げたお寺の屋根が綺麗になっていた。どこかの医者の寄付だと住職が言うが、奇特な人もいるものだなと、信心の薄い元太は思う。

 

「あ、じいじのお墓にお花があるよ」


 息子の秋良が指示すと、確かにガーベラの花束があった。母の好きな花だ。


「親父の好きな花でも菊でもないなんてな。母さんらしい」

「あら、お義母さんも来ているなら連絡してくれればいいのに」

「色々あるんだよ、あの二人も」


 三人でお祈りをした。秋良はスマホが欲しいとじいじに必死にお願いしている。

 親として問題の多かった父親だが、社会人となり、責任のある仕事を担うようになって初めて、生きていたらもっと話したかったなと思うようになった。


「秋良、お盆の初日だぞ。ちゃんとおじいちゃんを迎える精霊馬を置いてな」

「はーい。じいじ、ちゃんと来てね」


 秋良はおじいちゃんのために精一杯作った()()のライダーバイクを墓前に置いていったのだった。


 新しい時代は進む。


 キュウリの馬は行きの便、ナスの牛は帰りの便だと知らない若い世代が増えていく。





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