エピローグ
バスは、まだ興奮冷めやらない一同を乗せて、高速を走って倫子達が住む町へと入った。
途中、それぞれの家の最寄り駅で停まっては、次々と下ろして行く。
みんな、とても幸せそうな顔で、いつまでも名残惜しそうに手を振っているのがとても印象的だった。
倫子は、それでも険しい顔をしていた。
洋子と要が気遣わしげにしていたが、そんなことは気にならなかった。
何しろ、自分は思い出してしまったのだ…みんな死んだのに。
そう、要の死体を、確かに見た。
洋子は、包丁を手にまるで死んだ魚のように何も映さない瞳をそのままに、部屋の床へと倒れて死んだ。
ただの夢かと思った。
だが、要の首筋に薄っすらと残る細い線に、あれは間違いなく傷跡だという確信があった。
美沙達は、きっと覚えているはずだ。
何もかも、美沙達が企んで自分達を巻き込んだのだ。
そして、どうやってのか知らないが、すっかり皆はそんなことは忘れて、楽しい記憶だけを持って楽し気にしているのだ。
だが、倫子は馬鹿では無かった。
ここでそれを言ってしまっては、恐らく自分は消されてしまう。
こんなことをこともなげに行うような組織があって、それに美沙達が従っているのだとしたら、そんなものに自分が立ち向かえるはずなどないのだ。
ならば、黙っているのがいい…決して、美沙のことは許さないが、それは自分が何か復讐の方法を考えつくまで、この胸にしまっておく方がいいのだ。
そんなことを思いながら窓の外を過ぎる景色を眺めていると、自分達が降りる見覚えのある駅が見えて来た。
要が、荷物を網棚から降ろし始めた。
「さ、もう到着だ。ここからまた歩きだけど、大丈夫だよね。」
洋子が、それに応えている。
「えーお母さんに電話して迎えに来てもらおうよ。暑いし歩くの面倒だわ。」と、倫子の荷物も下ろして、膝へと置いた。「さ、倫子も。一緒に送ってもらうようにするよ。」
倫子は、頷いてカバンを肩に背負った。
バスは、ロータリーへと入って行く。前に座っている、慎一郎が言った。
「この駅で降りる三人、前へ来てくれ。」
要が、先に立って通路を前へと揺れる車内をもろともせずに歩いて行く。洋子が後に続き、倫子は最後尾を進んだ。
ここで自分達三人が降りたら、残りは美沙と慎一郎だけだ。二人は、この三つ先の駅なのだと言っていた。
バスが停車し、先頭の要が慎一郎の手を握った。
「ありがとうございました、慎一郎さん。いろいろ勉強になりました。」
慎一郎は、微笑んでその手を握り返した。
「こちらこそ、要。君は本当に頭がいい。いろいろ助かったよ。」
洋子は、美沙に微笑みかけている。
「美沙さん、来年は美沙さんの大学へ行きます!すっかり美沙さんのファンになっちゃった。」
美沙は、困ったように笑った。
「洋子ちゃんが後輩になるのは嬉しいけど、私なんて大したこと教えられないわよ?でも、待ってるわ。」
要が降りて行く。洋子がそれに続こうとしていて、倫子は必然的に美沙と慎一郎の間へと立った。
慎一郎が手を差し出した。
「倫子ちゃんも、よく頑張ったね。」
倫子は、その手を警戒気味に見たが、前の二人の手前、邪険にも出来ない。なので、慎重にその手を握った。
「お疲れさまでした。」
慎一郎は、そのぶっきらぼうな声に、苦笑した。
「なんだ、疲れてるのか?」と、倫子の手を引いて引き寄せると、耳元に言った。「残念だよ。君はこっち側から出られないんだな。」
倫子は、背筋が凍るのを感じた。
「え…」
一瞬で目の前が真っ暗になる。
まただ!
倫子は、してやられた、と思ったがもう遅かった。
脇腹に刺さった針を感じて身を退こうとしたが、慎一郎の力は予想以上に強い。
一気に力が抜けて体がまるで丸太のように転がるのを感じたが、どうすることも出来なかった。
「倫子?!どうしたんだ!」
要の声が言っている。
「急に倒れたんだ。どうしたんだろう、少し過酷だったかな。でも元気そうだったのに。」
慎一郎が本当に心配そうに言う。美沙が言った。
「ああ、一度健康診断を受けさせないと。このまま帰したら私が叱責されるわ。体調不良のまま返しちゃいけない決まりなのよ。病院へ連れて行かなきゃ。」
要が言った。
「じゃあオレ達も付き添います。」
「いいえ、あなたたちはもう帰宅させることになっているから。親御さんにはこちらから連絡を入れて置くわ。」
「でも…」
そこで、倫子の意識は完全に途絶えた。
自分が、どこか得体も知れない所へと、引きずり込まれて行くのだけは分かった。
そこは暗く、黒い、希望もない場所のように感じて、自分がその黒い淵へと飲み込まれて行く様を夢に見ながら、果ての無い絶望の中へと沈んで行ったのだった。
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人狼:京介、匠、純
狂人:洋子
占い師:結
霊能者:満
狩人:大悟
共有者:要、政孝
村人:倫子、杏子、靖
妖狐:美沙
背徳者:慎一郎
長い間ありがとうございました。
と言っても一気に駆け抜けたのでどこかしら欠落があるし、先を急ぐあまり稚拙な表現や反復した表現が多かったかもしれません。未熟で短気な私のせいでございますが、道楽で書いておりますので許してやってくださいませ。ここまでありがとうございました!8/18




