表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

交錯

夜。

街は静かに眠っているはずだった。

だが、その静寂は一瞬で破られた。

――ゴォォォン!!

遠くで爆発音が響く。

ビルの窓が一斉に揺れ、街灯が激しく明滅する。

黒纏はソファからゆっくりと目を開けた。

膝の上ではロクが気持ちよさそうに眠っていた。

(……うるせぇな。)

ロクの耳がピクリと動く。

(ニャ……。)

(起きるな。寝てろ。)

黒纏は優しくロクを撫でる。

ロクは安心したように目を閉じた。

その時、通信機が震える。

(黒纏、聞こえるか。)

夜叉丸の声だった。

(聞こえてる。)

(出るぞ。場所は湾岸地区。)

(またか。)

(今回は少し違う。)

夜叉丸の声色がいつもより低い。

(虚獣が妙な動きをしてる。急げ。)

黒纏は立ち上がり、黒いコートを羽織る。

玄関へ向かう途中、ロクが小さく鳴いた。

(ニャ。)

黒纏は足を止める。

しゃがみ込み、ロクの額を軽く指で弾いた。

(すぐ帰る。)

(ニャ。)

(いい子で待ってろ。)

黒纏は窓を開ける。

夜風が部屋へ流れ込む。

次の瞬間、その姿は蜃気楼のように揺らぎ、夜の街へ消えていった。

数分後。

湾岸地区。

巨大な倉庫街は無残にも破壊されていた。

コンテナは吹き飛び、地面には巨大な亀裂が走っている。

瓦礫の上には夜叉丸が立っていた。

黒い雷が腕にまとわりついている。

(遅ぇよ。)

(寝てた。)

(知ってる。)

夜叉丸は苦笑する。

(今回は少し面倒だぞ。)

黒纏は辺りを見回した。

妙な静けさだった。

(虚獣は?)

(あそこだ。)

夜叉丸が指を差す。

倉庫の奥。

巨大な黒い影がゆっくりと立ち上がる。

四本の腕。

全身を覆う黒い結晶。

赤く光る六つの瞳。

その姿を見ても黒纏の表情は変わらない。

(でかいな。)

(サイズだけじゃねぇ。)

夜叉丸が低く呟く。

(あいつ、人を狙ってない。)

(じゃあ何を狙ってる。)

(何かを探してる。)

その瞬間、虚獣が咆哮を上げた。

――グオォォォォッ!!

衝撃波が周囲を吹き飛ばす。

夜叉丸が前へ飛び出す。

(黒雷・穿牙!!)

黒い雷が一直線に走る。

しかし虚獣は腕一本で受け止めた。

(硬ぇな…。)

夜叉丸が舌打ちする。

黒纏はゆっくり歩き出す。

(俺が行く。)

(任せた。)

虚獣が黒纏へ突進する。

巨大な拳が振り下ろされる。

轟音。

地面が砕け散る。

だが、そこに黒纏はいない。

虚獣は周囲を見回す。

右。

誰もいない。

左。

誰もいない。

後ろ。

(こっち。)

振り返る。

黒纏が立っている。

虚獣が再び襲いかかる。

しかし、その姿は陽炎のように消える。

(遅い。)

今度は頭上。

虚獣が空を見上げる。

そこには数十人の黒纏が浮かんでいた。

全員が同じ顔。

同じ声。

(どれが本物だ?)

虚獣は叫びながら暴れ回る。

拳を振るうたび、黒纏は消えては現れる。

一撃も当たらない。

夜叉丸は腕を組みながら笑った。

(相変わらず性格悪ぃ能力だな。)

(効率がいいだけ。)

黒纏の声が四方八方から響く。

虚獣は完全に混乱していた。

その時だった。

離れたビルの屋上。

白いコートを羽織った青年が静かに戦いを見つめていた。

白燼。

白界機関最強と呼ばれる能力者。

その瞳が淡く光る。

(これが……黒纏。)

彼の視界には、他の者には見えない光景が映っていた。

無数の幻影。

だが、その中でたった一つだけ、わずかに空気の流れが違う場所がある。

(そこか。)

白燼は小さく呟く。

その瞬間、黒纏は何かを感じ取った。

(……?)

初めてだった。

誰かに見られている感覚。

黒纏はゆっくりと屋上へ視線を向ける。

そこには白いコートの青年が立っていた。

二人の視線が夜空を挟んで交わる。

ほんの数秒。

それだけだった。

白燼は静かに踵を返し、その場を去る。

黒纏は小さく笑う。

(……面白い奴、見つけた。)

次の瞬間。

黒い閃光が走る。

虚獣の身体は音もなく崩れ落ちた。

戦いは終わった。

夜叉丸が近寄ってくる。

(終わったか。)

(ああ。)

(どうした?)

黒纏は白燼が立っていた屋上を見つめたまま答える。

(いや。)

(久しぶりに、少しだけワクワクした。)

夜風が静かに吹き抜ける。

その頃、白燼は白界機関本部へ戻る車の中で、黒纏の資料を見つめていた。

(幻ではない……。)

(認識そのものを書き換える能力か。)

静かに資料を閉じる。

(次は、必ずこの手で確かめる。)

車は夜の街へ消えていく。

まだ誰も知らない。

この一度のすれ違いが、世界の運命を大きく変えていくことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ