第49章 未知の道への第一歩
画面を開くと、真っ先に確認したのは販売リストだった。
「まだ閲覧されていない」
システム画面には灰色のバーが表示されたまま。
待つのは辛い。
だがこの商品は…特定の誰かのためだけに作られたものではない。
「毎日価格チェックするわ。競合商品が出てないか確認するから」
メアリーはノートを持って隅へ移動した。
「客はまずショーウィンドウより運でやってくるものさ。さて、誰が現れるか」
ベアトリクスは店のガラスを拭いていた。
私は何も言わず、
ただインターフェースを閉じて作業台に向かう。
手が空くと…ますますあの靴のことが気になってくる。
「匠の静かな一歩…」
心の中でその名を繰り返す。
突然、画面に小さな警告が表示された。
【新着通知:出品商品が閲覧されました】
「閲覧された…」
私は立ち上がる。
空中で拳をきゅっと握りしめる。
「誰?」
すぐに詳細をクリックした。
【匿名NPC:地図屋ナルド】
「地図屋の…ナルド?」
「地図屋NPCは静寂を重視する傾向がある。彼らは常に移動しているから」
メアリーが振り向いて説明する。
「もし彼が購入したら、間違いなく他の冒険者にも勧めるわ!」
ベアトリクスが興奮する。
画面のデータが更新され始めた。
【閲覧中…】【比較中…】【購入検討中】
私は目を細める。
これはゲーム内のプロセスだが、実際の店舗で客が商品を手に取る様子と変わらない。
数分どころか、秒針さえも遅くなったように感じる。
その時、二つ目の通知が届いた。
【おめでとうございます!「匠の静かな一歩」がNPC「地図屋ナルド」によって購入されました】
「売れた…」
その瞬間、誰も言葉を発しなかった。
「やったぞ!」
ベアトリクスが両手を上げる。
「個人製作。自由販売。初挑戦で成功」
メアリーは即座にノートに記録した。
私はただうつむく。
この喜びは…単なるポイントや報酬以上のものだ。
画面にさらに通知が表示される。
【レビューを受信しました】
「レビュー?こんなに早く?」
タップする。
【「フィールドで何時間歩いても、足音で気づかれたことは一度もない。疲れも感じない。今後も使い続けたい」】
ナルドのコメントは短いが深みがあった。もしかするとNPCにとって時間の流れは早いのかもしれない。
「本当に役立ったんだ…」
胸に安堵が広がる。
これは注文品ではない。
義務でもない。
それでも誰かを満足させた。
私にとってこれは…
静かながらも力強い始まりだった。




