第50章 評判の足音
朝もやの時間。
店はまだ静まり返っている。
「今日は誰か来るかもしれない」
ベアトリクスが窓の外を見つめる。
「地図屋ナルドのレビューが広まり始めたわ」
メアリーがテーブルに新しいメモを置く。
私は新作デザインの端にラフスケッチを描いていた。
手が空くと、いつも新しいモデルのことを考えてしまう。
突然、ドアが三度ノックされた。
優雅ながらも明確な音。
「まさか?」
ベアトリクスがすぐにドアへ向かう。
開いたドアから、長いマントをまとった人物が入ってきた。
短い髪、意志の強い瞳。
「靴職人はここか?」
声は決然として、少し緊張気味。
「私です」
前に出る。
「サルカ。都市探検家ギルド所属。ナルドからあなたのことを聞いた」
彼女の足音はほとんど音を立てない。
「ナルドは、あなたの靴が真の静寂を提供すると言っていた。私にとってそれは決定的に重要だ」
無駄話をする余地などないほど真剣だ。
「どのような地面で使用される予定ですか?」
メアリーが割って入る。
「古代の石畳、湿ったトンネル。時には瓦礫の中、時には寺院の中を歩く」
サルカが軽くうなずく。
「まさにナルドの活動範囲と同じ…」
ベアトリクスが眉を上げた。
「だが私は彼より速い。スピードと静寂の両立が必要だ。そして泥にも強くなければ」
サルカが目を細める。
難しい要求。
しかし胸に火花が散る。
これは新たな挑戦だ。
再び、自分のデザインで注文の枠を超えられる。
「システム経由で注文されますか?」
「いや。直接来たのは、ナルドが『その靴を見ずに注文するな』と言ったからだ」
メアリーとベアトリクスが顔を見合わせる。
目には誇らしげな輝きがあった。
「わかりました。では新たなモデルを設計します。スピード、静寂性、泥耐性を優先的に」
「代金は問題ない。靴は命を救うから」
サルカが微笑む。
手帳に「サルカ - 探検家用靴要望」と記す。
今回はただ作るだけではない。
デザイン帳の最後のページをめくる。
長い間触れていなかった部分だ。
「危険な探査任務用の特別デザイン案」
時は来たのだ。
新たな静寂、新たな鎧が生まれようとしている。




