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第24章 メアリーの涙、師匠の最期

 これは、ほんの始まりに過ぎなかった。まるで城が今にも崩れ落ちそうな錯覚に襲われる中、メアリーは全守衛に対して城の完全退避を命じていた。


 俺たちは城の中から脱出しようとしていたが、周囲には負傷した兵士たちが多く、俺も自然と彼らの搬送を手伝っていた。正直なところ、これほど多くの人を次々に運ぶのは想像以上に大変だった。


 そして、自分が助けられなかった重傷のNPCたちが、目の前で静かに光の粒となって消えていくのを見届けるしかない……それが一番、心に突き刺さる。


 この現実に慣れたい。でも、慣れる自信はまるでなかった。


 ようやく軽傷の者たちを城外の庭まで搬送したが、明らかに治癒師の数が足りていない。――グレイスを呼べば、来てくれるだろうか?


 額の汗を拭って初めて、城の外の様子を見てみようと思った。そして――俺は絶句した。


 街の光景は、城よりもさらにひどい惨状だった。先ほどまで歩いていた店の大半が瓦礫と化している。


 そして思い出す。……グレイスの店も、この破壊に巻き込まれてしまったのでは? 彼女ももう、存在しないのかもしれない。


「……街が……壊滅してる……。みんな、どうか無事でいて……」


 メアリーが俺の隣に立ち、街の姿を見た瞬間、大粒の涙を流しながら嗚咽を漏らした。どう慰めていいかわからない。だが――


 ――ドォン!!


 突然、遠くから再び爆発音が響き、叫び声がこちらまで届いた。メアリーは背負っていた剣を抜き、涙を拭って怒りの表情で歩き出す。


「落ち着け。よく考えてから動くべきだ」


 俺は慌てて彼女の腕を掴むが、その瞳の奥に燃える怒りは、まるで俺の皮膚を突き刺すように伝わってきた。


「落ち着けって? 見なさいよ、街のほとんどが灰になったのよ。今動かなきゃ、私は一生後悔する……お願い、行かせて」


「じゃあ聞くけど、誰がこの攻撃を仕掛けたか知ってるのか? ……知らないなら考えてくれ。これは明らかに計画的な犯行だって、わからないのか?」


「……わかってる。でも……」


 彼女の瞳から再び涙が流れ出し、俺の胸に顔を埋めて泣き出した。


「報告に参りました」


 その時、背後から声がした。振り返ると、手に破れた書類を持つ黒髪と黒い口髭のNPC兵士が立っていた。彼の服も泥まみれで、俺たちと同じく戦火に巻き込まれたのだろう。


「聞こう」


「……残念ながら、王族は全員消失しました」


「な……王様も?」


「はい。報告によれば、最初に消失が確認されたのは王その人です」


「……そう、だったのね」


 メアリーは手にしていた剣を、絶望と共に地面に落とした。金属音が静寂の中に響く。


 俺は未熟な職人、ただの靴職人だ。レベルもまだ2になったばかり。……だが、VRMMOの中でこんなことが本当に起こるなんて、想像もしていなかった。


 ――あれ? NPCといえば、何かを忘れている気がする。


 まるで雷が脳内に落ちたかのように、一つの名前が浮かび上がる。


 トーマス師匠……。


 まさか、彼の店もこの攻撃に巻き込まれたのか? もしや、もう――


 俺はその場を離れようと決意した。さっきはメアリーを止めたばかりだが、今度は俺が動かなくては。


 その時、城の方角から、ふらふらと足を引きずりながら近づいてくる人物がいた。


 ……トーマス師匠?


 怪我を負っているようだった。メアリーと一緒に彼のもとへ駆け寄る。


 もう少しで辿り着くというところで、彼の体が崩れ落ちた。


「誰か、助けてくれ!」


 俺は必死に声を上げたが、師匠の傷を見た瞬間、その願いが虚しいことに気づいた。


 トーマス師匠の頭を俺の膝の上に乗せる。彼の身体には無数の傷――おそらく爆風による破片が突き刺さった痕跡だった。


 彼は咳き込みながらも、口から血をこぼす。


「……ハハハ……心配するな……もう歳だ……」


「でも……でもさ……」


 なぜだ。たかがNPCのはずなのに、俺の目からは涙が止まらない。まだこのゲームを始めて間もない、ただの初心者なのに、胸が痛い。


「誰がやったか……見たのか?」


 メアリーは彼が答えにくいことを承知の上で、食いしばるように問いかける。


「……いや、爆発音ばかりだった……外に出てみたら……その瞬間、また爆発が起きて、俺は吹き飛ばされた……」


 そう答えた師匠の身体に、またあの――黄色い光の泡が舞い始めた。


 ……そんな……まさか……。


 ――彼も、消えてしまうのか。







***







【ダークギルド専用チャットルーム】


【No Name 1】

ハハハハ! 計画通り、王族は全滅だ!


【No Name 8】

街中が火の海だぜ!


【No Name 7】

見ろよ! 一般チャットもSNSも、俺たちの襲撃の話で持ち切りだ! アハハハ!


【No Name 9】

今やゲーム界の主役は、俺たちだ!


【No Name 10】

でも……メアリーはどうなった?


【No Name 9】

メアリーのことはもう気にするな。城に仕掛けた爆弾も全部爆発した。どうせ、奴も消えただろう。


【No Name 5】

他のプレイヤーたちは?


【No Name 4】

今は混乱の真っ只中だよ。誰が襲撃を仕掛けたのか、まだ誰もわかっちゃいない。


【No Name 6】

ウケるわこれ!


【No Name 1】

ハハハハハハ!

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