第13章 騎士のエルフとピンクの靴
エルフといえば、これまで読んできた多くのファンタジー小説や観てきたファンタジー映画では、必ず森に住んでいて弓や魔法を使う存在だった。だが、今目の前に立っているエルフは…騎士なのか?
街を歩いていると、プレイヤーやNPC以外にも時折、他の種族を見かけることはあったが、エルフとこうして面と向かって話すのは今回が初めてだ。近くで見ると本当に美しいと素直に思ってしまう。
「メアリーの時と同じように、私にも靴を作っていただけませんか?」
「もちろん。できる限り最高のものを作ります。気に入ってもらえるといいのですが」
「絶対気に入ります!本当にありがとうございます!」
嬉しそうに心からの笑顔を浮かべた。でも…まだこのNPCエルフの名前が見えない。たぶん、メアリーの時と同じで、靴を渡すまで表示されない仕組みなんだろう。
その時、トーマス師匠が奥の部屋から出てきた。メアリーとエルフのNPCは彼に対して、敬意を込めて軽く頭を下げた。
「おお、メアリー。ようこそ。あの靴、任務に役立ったかい?」
「こんにちは、トーマス師匠。靴は理想通りでした。快適だったおかげで任務中も素早く動けて…直接お礼が言いたくて来たんです」
「それは嬉しいね。ところで、隣の方は初めて見る顔だが…?」
「こんにちは、トーマス師匠。私はベアトリクスと申します。お会いできて光栄です」
ベアトリクス…それが彼女の名前か。でもまだ名前は頭上に表示されていない。どうやら、NPCの名前を知っても、直接的な関わりがない限り表示されないようだ。これも新たな発見だな。
彼女はまだ何か話したそうだった。きっとさっき私に言ったことを、今度はトーマス師匠に伝えようとしていたのだろう。でも、また恥ずかしがらせて無理をさせたくなかったから、代わりに私が要点をまとめて伝えた。
「ベアトリクスが信頼して靴を頼んでくれたのは嬉しいことだね。ただ、サイズが分からないなら、少しだけ待っていてくれるかい?」
そう言ってトーマス師匠は再び奥の部屋へ行き、しばらくして紙とペン、そしてメジャーを手に戻ってきた。
「しまった、忘れてた。悪いけど、奥の椅子を一脚取ってきてくれないか?」
「わかりました、トーマス師匠」
私は製作室から椅子を持ってきた。ベアトリクスはその椅子に座り、トーマス師匠は計測のためにしゃがみ込んだ。
彼は、泥と埃にまみれ、ところどころ破けた靴を脱ぐようベアトリクスに伝えた。彼女は少し恥ずかしがったが、素直に靴を脱いだ。
……ハート模様のピンクの靴下!? ベアトリクスをデザインした開発者、明らかに特別扱いしてるでしょ。
さらにベアトリクスは恥ずかしがりながらも、靴下まで脱いだ。トーマス師匠は床に紙を置き、両足をその上に乗せるよう指示した。
彼女は素早く言われた通りに動き、トーマス師匠はすぐさま計測を始めた。
普段は温厚で笑顔を絶やさないトーマス師匠だが、今は異常なまでに真剣な表情をしている。ミスを一つもしないよう、神経を尖らせているのが伝わってくる。
彼はベアトリクスの足を丁寧にトレースし、指の形まで細かく紙に描き、計測していく。
そして紙の上部に記録を書きながら、今度はメジャーを使って足の長さと幅を計測し、また記録。これを何度も繰り返していた。
おそらく、少しの誤差でも履き心地に影響するのを避けたいのだろう。まさに職人魂だ。
「よし、これで計測は終わりだ。次は…ベアトリクス、どんな靴が欲しい?」
彼はようやく安堵の表情を浮かべ、紙の裏側をめくって、要望を書き込む準備をした。
「ねえメアリー、どんなのがいいと思う?」
ベアトリクスはすぐに答えられず、子猫のような目でメアリーを見つめた。
「それは私が決めることじゃないわ。大事なのはあなたの好みよ?」
「……あ、そうだよね」
そう言って、彼女は右手を頭の後ろにやって頭をかきながら言った。
「決めた!ピンク色の靴に、ハートの模様を入れてほしい!それに、前の靴みたいにすぐ破けないように丈夫なのがいい。そして…走ってると靴の重さを感じることがあるから、軽めの素材で作ってほしいな!」
ハート模様のピンクの靴…?興奮しすぎて一気に喋ったせいで、何か聞き逃してないか心配になるくらいだった。
……まぁ、私が聞き逃してもトーマス師匠はすでに話しながらしっかりメモを取っていた。
「ありがとう、ベアトリクス。情報はこれで十分だ。二週間後、私と弟子で特別にデザインした靴を取りに来てくれ」
「ありがとうございます、トーマス師匠!」
ベアトリクスは脱いでいた靴下を履こうとしながら、二週間後に靴が完成すると聞いて大はしゃぎしていた。
【おめでとうございます![Shoemaker]
NPC『ベアトリクス』との交流が発生しました!
トーマス師匠と協力して、彼女が望む靴を製作してください。
そしてNPCたちを幸せにし続けましょう!】
──やっと来た!と思っていたタイミングで、期待していた通知が表示された。またNPCとの交流を促してくる。
でも、まだゲームを始めたばかりのはずなのに…なぜだろう。まるで、大きな謎のブラックホールに吸い込まれているような感覚がする——。




