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第二章:忘れられし祝福

 都ファルセリアの神殿で、祝福を拒まれた者として扱われたヴェリタスは、儀式の直後から冷たい視線に晒されていた。


 「神に選ばれなかった者に、都に留まる資格はない」


 そう言い放ったのは神殿の高位司祭、アルグレアだった。  彼は一見して穏やかな佇まいだが、その瞳には揺るがぬ信仰と硬質な断罪の色が宿っている。  人を裁くことが正義だと信じるその姿に、ヴェリタスは強い違和感を抱いた。


 神の祝福を得られなかった者は"穢れ"とみなされ、都に住まうことも許されない――それが表向きの掟。  だが、ヴェリタスには腑に落ちないものがあった。  晶核は沈黙していたのに、なぜか彼の胸の奥では今も熱のようなものが脈動しているのだ。


 「君……」


 神殿の裏手、ひとけのない回廊で、声をかけてきたのはあの金髪の少女――ノイラだった。  神殿付きの見習い巫女として名を知られていたが、彼女の瞳は他の巫女たちとはまるで違う。


 「あなた、何も“起きなかった”んじゃない。起きたけど、誰にも見えなかったのよ」


 ヴェリタスは目を見開いた。  ノイラの瞳は黒く染まっていた。神の力を感知する際にだけ現れる色――それは本来、高位の巫女しか持たない能力だった。


 「私には見えた。あなたの背後に……光の奔流と、神殿の者たちを縛る黒い鎖が」


 彼女は言葉を選びながら語った。  神の祝福が本来の形で行われなかったのは、ヴェリタスが拒絶されたからではなく、神殿そのものが歪んでいるからだと。    「ねぇ、ヴェリタス。どうして祝福を拒まれた者が“力”を宿しているのか。考えたことある?」


 ノイラの問いに、ヴェリタスは言葉を失った。


 「あなたに宿ったのは、本来の神の力……もしくは、それ以上の“何か”よ」


 その時、回廊の奥から足音が聞こえた。  神殿の守衛たちがこちらに向かってくる。


 「探されてる。私が引きつけるから、すぐに南門から出て」


 「ノイラ、君は……」


 「あなたは真実を見つける人だって、直感が言ってるの」


 ノイラは微笑むと、振り返って足早に廊下を走り去った。  その背に感謝の言葉を言う暇もなく、ヴェリタスは神殿を後にした。


 都の喧騒から外れた道を辿り、南門を抜けた彼を待っていたのは、薄明かりの中に立つ一人の男だった。  壮年にして堂々たる体格、背に大剣を背負い、鋭い眼光を放つ騎士――彼こそ、後にヴェリタスの護衛となる男、ドゥラニエルである。


 「神に見放された少年か。面白いな」


 男は笑った。だが、その笑みには憐れみも侮りもなかった。


 「俺も、似たようなものさ。……少し遠回りになるが、付いてこい」


 ヴェリタスは迷わず頷いた。  自らの足で真実を見つけるために。


 そしてこの出会いが、後に神々と魔族、そして人の世界を揺るがす旅の始まりとなることを、まだ彼は知らなかった。

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