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第三章《神々の影を踏みし者》

 都ファルセリアの空は、灰色に濁っていた。神々の祝福が宿るとされたこの地も、いまや信仰という名の鉄鎖に縛られ、真理から目を背けている。


追放の刻印を受けたヴェリタスは、かつて夢見た都の中央広場を静かに見つめていた。広場を囲むように並ぶ神殿の柱は、美しく装飾されながらもどこか冷たく、彼を拒むようにそびえ立つ。


「……これが、神々の“祝福”か」


ノイラがそっと隣に立った。彼女の瞳は黒く染まり、鋭く世界を見据えている。


「あなたには、見えていないのね。縛る鎖が」


その声は、確信と悲しみに満ちていた。儀式の場で何も起こらなかったヴェリタス。その“空白”が、むしろ最も強い力の存在を意味していた。


彼の存在を恐れた神殿は、異端として彼を追放した。


「……行こう。ここにいても、答えは得られない」


振り返ると、漆黒の鎧に身を包んだ騎士・ドゥラニエルが控えていた。


「貴殿には、まだ知らぬ真実がある。我が剣は、それを守るためにある」


こうして三人は、都を離れた。



---


旅の初日は、黙々と歩くことに費やされた。都を出た途端、道は荒れ、草は伸び放題で、人の気配は急に薄くなっていた。風が冷たく、どこか重い。


「……この辺り、昔は農地だったはずだけど」


ノイラが呟いた。今は干上がった用水路と、朽ちた祠が残るだけ。


「神の名を語る者たちの“祝福”が、民を見捨てた証だ」


ドゥラニエルが静かに言った。


その夜、三人は廃村の片隅で野営をした。焚き火を囲みながら、ようやく心の内を言葉にし始める。


「……ノイラ。あのとき、俺には何も起きなかった。なのに、君は……」


「“何も起きなかった”のではないわ。私には、見えたの。あなたを縛る巨大な鎖が、神殿の柱を貫いていた。まるで神そのものが、あなたを封じ込めようとしているように」


ヴェリタスは黙り込んだ。


「恐ろしかった。でも、同時に美しかった。あなたは祝福を受ける器じゃない。神を超えていく存在……そう思ったの」


その言葉に、ドゥラニエルがわずかに頷いた。


「神が恐れる人間。ならば、我らはその先に進まねばなるまい」



---


次の日、街道で一団の男たちに遭遇する。彼らは巡礼者のふりをしていたが、内実は野盗だった。神の名を騙り、旅人から金品を奪っていたのだ。


「我らは聖堂騎士の代理。神への捧げ物をお渡し願いたい」


「……なら、神が直接取りに来るといい」


ヴェリタスの言葉に、男たちは剣を抜いた。戦闘が始まる。ドゥラニエルの剣が雷のように閃き、ノイラの術が風のように敵を吹き飛ばす。


だがその最中、ヴェリタスの目が赤く染まり始めた。自分でも制御できない力が、周囲に波紋のように広がる。祠の石像がひび割れ、木々が軋む。


「ヴェリタス!」


ノイラが手を取って力を抑える。


「……また、見えたの。あの鎖が」


彼女は怯えながらも、目をそらさなかった。



---


その夜、彼らは廃寺院に立ち寄った。天井の抜けた古びた祠に、ひとつの碑文が残されていた。


『神を拒みし者よ、聖域へ至れ』


「……これが、“隠された聖域”の手がかり?」


ノイラが呟いた。ヴェリタスは手で碑文の割れ目をなぞりながら、小さく息を吐いた。


「神を拒む道が、俺たちの行く先にあるのか……」


「その道がたとえ、奈落でも構わん。私はお前たちと共に行く」


ドゥラニエルの言葉に、ヴェリタスとノイラも力強く頷いた。


こうして、三人は未知の地へ歩み始めた。


神の影に抗い、真の自由を求めて。



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