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鋼鉄の勇者 ヴァレッド  作者: 島下 遊姫
大地に聳える紅の城
92/117

仲間

 俺の精神は罪悪感から崩壊寸前まで追い詰められた。

 ドリラを逃したせいでたくさんの人が苦しい思いをして、死んでしまった。

 取り返しのつかないことをしてしまった。犠牲になった人達に俺はどう責任取ればいいのか。

 眠ることなんて到底できなかった。夢に知るはずのない犠牲者が現れては恨みや憎しみの言葉を吐き出し、うなされた。

 恐怖のあまり一睡もすることができなかった。慢性的に寝不足から幻覚や幻聴に悩まされ、精神も安定せず、急に大声を出したり、暴れたりもした。

 食べ物は殆ど喉を通らず、口に入れてもすぐに吐き出してしまう。基本的に鎮静剤を打った後に点滴を打って何とか必要なエネルギーと栄養を摂取していた。

 そんな悲惨な日々を送っていたがカウンセラーやDATのスタッフ全員が俺を励まし、サポートしてくれた。

 失敗した俺なんか見捨ててもよかったはず。だけど、のにあの人達はたかが一度のミスで見捨てるなんて薄情なことはできないとのこと。それに戦える力を持つ俺を期待しているのと大人が子供を見捨てるわけがないという理由もあったらしい。

 そういういい人達に囲まれたおかげで俺は何とか復帰することができた。

 そして、復帰した直後だ。俺の耳にある情報が入った。

 それはヴァレッドを乗りこなした一般人、日登勇気が正式にDATの一員になるということを。

 

♢♢♢


 キャンプ地から少し離れた崖の上。

 街灯など存在しない荒野の夜空は星を綺麗に浮かび上がらせている。

 俺は無数に瞬く星を眺めながらぼんやりと考え込む。

 日登勇気が戦うということ。それは俺の罪だ。

 あの時、ドリラを倒していれば日登勇気は戦うことはなかった。

 ごく普通の生活を続け、普通の幸せを噛み締めながら生きていたはずだ。

 だけど、この戦いに巻き込まれたことで常に死と隣り合わせの環境に身を置くことになり、俺が味わったような苦しみを味わう可能性がある。

 あんな苦しみは誰も味わう必要なんて微塵もない。俺だけが味わっていればいい。

 あいつには戦うことを止めて欲しかった。あいつはまだあの苦しみを知らないからこそ、臆することなく戦えているだけ。

 あいつと俺はよく似ている。

 だからこそ、もし、誰も救えなかった時、あいつがどう狂うのか手に取るようにわかる。

 苦しむのは俺一人でいい。

 しかし、正直な話。一人で戦うことには限界がある。その結果が見えたのがドリラ戦だ。

 共に戦う仲間が嬉しい反面、苦しみもあって……俺はどうすればいいのか全くわからない。


「ここにいたのか」


 ふと、背後から声が聞こえてくる。

 振り返るとそこには日登勇気がいた。


「何の用だ」


 鋭く睨む。

 すると、勇気は気不味そうに視線を逸しながら口を開く。


「白鳥から聞いたよ。あんたがドリラを逃したせいであの街が大変なことになったんだってな」


 ようやくこの時が来たのか。

 俺は深く息を吐く。

 断罪の時間だ。あいつは俺を裁く権利がある。

 暴力なんてなんのその。ナイフに滅多刺しにされても文句なんて言えない。


「憎いか? 恨むか?」


 勇気がどんな形相で責め立てるのかとじっと観察する。

 だが、勇気は深く溜息を吐いた。


「なんで責める必要がある。あんたは戦って負けた。それだけだろ」


 拍子抜けした。

 勇気は怒ることもなく、憎むことなく、たださらっと流した。

 理解できなかった。


「何を言っている! そのせいでたくさんの人が死んだ! お前もここにいる理由になった! 憎くないのか!」


「憎いわけないだろ! だって、あんたが殺したくて殺したわけじゃないだろ!? 殺したのは全部メルフェスだ!」


 勇気は一切の迷いなく、言葉を言放つ。

 そのあまりの強い言葉に思わず俺は何も言えなくなる。


「守ろうとした上での結果だ。責める義理はない。だからと言って同情する気もない」


「……イカれてる」


「あんたもさ。わざわざ俺を苦しませない為に冷たく突き放していたんだろ?」


「お見通し……いや白鳥から聞いたんだな」


「あぁ。俺もあんたと同じになるかもしれない。俺のせいでたくさんの人が死ぬかもしれない。それを受け入れる……覚悟はまだないかもしれない。だけど、あんたに気を遣われるのはごめんだ! 俺はもうあんな地獄を見たくない! だから戦う! 文句……あるか?」


 そうか。

 勇気がここにいる理由はヴァレッドを乗りこなせたからでもない。

 無理矢理連れてこられたわけでもない。

 こいつの確固たる意志に従って来たんだ。

 それなら……俺のやってきたことは全部お節介だな。

 俺にはわかる。だってこいつが戦う理由は俺と全く同じだから。

 止められるわけなんてなかったんだ。


「あるわけ……ないだろ?」


「そうか! あと、最後に一つだけ言いたいことがある」


「何だ?」


「あんたはもう一人じゃない。俺と……ヴァレッドがいる!」


「言ってくれるじゃあないか」


 俺は立ち上がり、勇気を見ながら手を差し出す。


「いいだろ。一緒に戦ってやる。そして、一緒に苦しんでもらうぞ。勇気」


「あぁ!」


 勇気も手を差し出し、俺の手を固く握り締める。

 俺の背後に伸びる地平線から朝日を登る。

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