命の価値
「ふざけんな!! あの場面でどうして直撃を狙った!?」
シミュレーションを終え、コックピットから出た俺はヴァレッドに激しい怒りをぶつける。
「私ハ七十八パーセントノ確率デ動ケナイト判断シタ。ソシテ、ソノ確率ハ的中シタ。問題ハナイハズダ」
「馬鹿野郎! あそこでメルフェスが爆発したら周囲に被害が行くだろ!」
「ナルホド。ソレハ気ヅカナカッタ」
「それにこっちが敢えて偏差撃ちをしてるのに勝手に修整するな! そして、俺の指示には従え! やりにくいんだよ!」
「シカシ、私ノ計算ノ結果、君ノ指示ハ最適解デハナカッタ。確カニ間違ッタ動キデハナイガ非効率的ダ」
「勝手に動かれるとやりづらいんだよ!」
「サレハ悪カッタ。ダガ、君ノ行動ヲリスクヲ承知トイウヨリ、敢エテリスクヲ踏ミニイッテイルヨウニ考エル」
案の定、俺とヴァレッドの相性は最悪だった。
俺のやること為すことに対し、ヴァレッドは理論や確率で否定してくる。
確かにヴァレッドの計算や予測は正解が多い。しかし、こっちのやり方や思惑を察して動くことができない。何をするにもヴァレッドへの指示出しというワンクッションが必要になり、テンポが悪い。
また、俺が動きを予測して偏差撃ちや回り込もうなら、別の選択肢を提示し、勝手に修整。少しばかり危険な行動をすれば、リスクを回避した動きに変更する。
リスクを背負わずして、倒せる敵なんていない。持てる手を全て使わないとメルフェスは倒せないだろ。
「これは予想以上の関係だな」
俺達の言い合いに見かねた白鳥がやってくる。
俺は白鳥に感情のままに言葉を放つ。
「博士、俺はあいつとやっていけない! 例え、訓練だとしてもだ! 俺の動きに合わせない機械なんざに命を預けられない!!」
「……そうだな。そこまで言うならいいいだろ。やはり、甲太にヴァレッドは合わんようだな」
命を預けられない。その言葉を聞いて、白鳥は仕方がないと首を縦に振った。
人間だろうと物であろうと信頼というのは至極重要だ。そして、信頼は安心に繋がる。
嘘や逃げ出すような人間は信頼なんてできず、安心して、重要な仕事は頼めない。
いくら性能の高い車でも一定の確率で爆発するなんて危険性があれば信頼できず、安心して乗り込むことすらない。
ヴァレッドもそうだ。どんなに性能が良くてもパイロットの言う事を聞かないようであれば信頼できず、安心して戦うことはできない。ましてや命をかける戦場ではなおさらだ。
「俺はグランドタンクで十分だ」
「それは構わない。お前をグランドタンクから乗り換えさせるつもりは一切ない。だが、一つだけ言わせてくれ」
「なんだ?」
「少し生き急いでるだろ?」
「命をかけて戦うんだ。そう見えても仕方ないだろ」
「世界や人々を守る。その使命があるのは結構。しかし、少しは自分の命を大切にしろ。何も自己犠牲が正義ではない」
「……親父を愚弄してんのか!!」
白鳥の言葉が親父の死を馬鹿にしているように聞こえ、気が立っていた俺は思わず胸倉を掴む。
ガタイのいい俺と細身の白鳥との体格差はかなりあるが、白鳥は眉の一つも動かさず、ただ俺を凝視していた。
「その意味は一切ない。だが、生きるのに越したことはない。それは君が一番わかっているだろ?」
俺は黙って白鳥を下ろす。
残された人間の苦しみと悲しみはわかる。だけど、俺の周辺だけの人間が苦しむのと全体を比べてしまえばどちらを優先するかは明白だ。
命は平等だ。だからこそ、数で判断できてしまう。
俺の命と全体の命ならどちらが優先すべきか。一目瞭然だろ?




