27:長い二日間の終わり
かなり短いです。すみません……。
カグヤにとっては一瞬だったが、工藤たちは落ち着かない時間を過ごしたようだった。
ポケットベルがけたたましく鳴り、三人は手術室へと向かった。
手術室の隣の小さな部屋に案内され、緑の術衣を着た医師がやってくる。
「お待たせしました。元々が大きめの腫瘍だったのもあって、癒着をはがすのに時間がかかりましたが、予定通り手術は終わりました。もうすぐ麻酔も覚めて、ICUに移動になります。もういちどポケットベルに連絡があると思うので、もうしばらくお待ちください」
「あ、ありがとうございます」
皆で挨拶をすると、医師は一礼して、再び手術室の中へ戻っていった。
「良かったな……」
保坂が呟く。
工藤も、そして父親も涙ぐんでいるようだった。
「本当に、良かった」
保坂の言葉に二人はただ、頷くだけだった。
その後、再びポケットベルが鳴り、ICUに向かう。
通された部屋では、母親がうつらうつらとしていた。
「大丈夫か」
父親が側に寄ると、声をかける。
母親はゆっくりと目を開いた。
「ええ……少し痛いけれど大丈夫よ」
そうして微笑む。
「手術は無事に終わったのかしら? 先生が何か話してくれたんだけど、全然覚えてなくて……」
「予定通り終わったそうだ。心配しなくていい」
「そうなの……それは良かったわ」
そうして再び目を閉じる。
男三人は部屋の外へ出た。
看護師に状況を確認すると、全身麻酔は醒めているが、術後は体力を使っているのと痛み止めの影響もあるだろう、とのことだった。明日になれば歩く訓練をするから、今日はゆっくり休んでもらう、と言っている。
「そんな、明日から歩くなんてできるのか」
父親が心配そうに尋ねている。看護師は笑顔で答えた。
「昔は安静に、というのが基本でしたが、現在では手術後、医師の許可が出次第どんどん歩いてもらう、というのも治療の一環となっています。寝てばかりだと傷の治りも遅くなりますし、最悪寝たきりの可能性も出てきます。もちろん状態は確認して安全には気を付けながら行いますよ」
「そうなのか……」
今は昔とは違うんだな、といいながら父親は頷いた。
三人で話し合い、母親は寝ているし、看護師が付き添っているような状態のため、工藤と保坂は帰るという結論になったようだ。
「俺は、次にいつ来れるのかわからん……」
「そうか……わかったら連絡をくれ。何かあればすぐに知らせる。連絡先を、これに入れてくれ」
父親が差し出してきたのはガラケーだった。
細かい操作の仕方がよくわからん、とぼやいているので、工藤は苦笑しながら自分の番号を登録した。
父親はもう少しだけ残ると言う。本当は工藤も残りたいようだった。
だが、工藤はともかく保坂は明日仕事だ。
休日をつぶして足になってもらっている以上、無理は言えない。
それに工藤自体も、店を閉めたままにするわけにはいかなかった。
「それじゃあ、また来る」
母親の顔を覗き込んで、目に焼き付けてから、病室の入り口で父親と別れた。
工藤と保坂はICUを出て外に出る。
外はもう、夕暮れを通り過ぎて暗い。二人して無言で車へ向かった。
車に乗り込んでから、工藤が口を開く。
保坂に向かって、深く頭を下げた。
「保坂、何から何まで付き合ってもらってすまなかった……だが、本当に助かった。ありがとう」
またおまえ、改まって、と保坂は笑った。
「昨日今日のことは、おまえが昨日『みたけ』奢ってくれたからぜんぶちゃらだ。ああ、だけど」
保坂はそこで神妙な顔をして口を閉じた。
工藤はごくりと唾を飲みこんだ。
「今まで俺に迷惑かけた、と思ってるなら、一回俺の奥さんに会ってくれ」
「おく、さん……?」
拍子抜けしたような、不可解な言葉を聞いたような、そんな顔で工藤が言葉を口にする。
「そう、奥さん。あれ、言ってなかったっけ? 俺結婚してるんだわ」
おまえとは、昔話とかおまえに関係する話しかしてなかったかー、と保坂が笑った。
「うちの奥さんがおまえにすっごい怒ってるから、とりあえず一発殴られてやってくれ」
そうして再びあはは、と笑った。
工藤は笑い事じゃない、と頭を抱えている。そうこうしながら車が発進した。
「今日は店に送り届けるけど、今度はうちにも来てくれな」
工藤はただ、頷くことしかできないようだった。
カグヤは再び後部座席に座ってそれを聞いていた。
自分で飛べば一瞬だけれど、ヒトのように動くのも悪くはない。
それに、この車の後部座席は心地がいい。
保坂の記憶の中で見た家族が、幸せそうに座っていたからかもしれない。
そうして喫茶店のある町に着き工藤を降ろすと、保坂はまた来る、と去っていった。
工藤は喫茶店を通り過ぎて、近くにある自分の家へと歩き始める。
その顔は、一つ仕事をやり終えたような、長年のしこりが取れたような、そんな顔だった。
そうして工藤の長い二日間が終わった。




