終いの会話4
第四章最終話です
有宝村東部。対祓滅女の台頭で多少衰退したとはいえ、有宝村でもっとも栄えているといってもいいこの地は昼過ぎだというにもかかわらず人気はまるでなかった。武と案内人、クルイの三人によって村にいた者全てが皆殺しにされてしまったからだ。
ゴーストタウンと化してしまった街でワライは静かに佇んでいた。仮面を被っているため表情はうかがい知ることはできなかったが、感傷に浸っているわけではないのは明らかだった。
そんなワライに足音も立てずに近付く三人の人物がいた。
「ひとまず、準備は全て終わったとみていいのかな?」
振り返りもせずに尋ねてくるワライに右端にいた男――座子が答える。
「ああ。あの異空間に入った時点であの馬鹿も全てを取り戻したらしいし、こっちはもういつでもいける」
自信満々にそう言い放つ座子にワライは仮面の奥で小さく笑う。
「そうか。それは何よりだ」
「これから一ヶ月も待たねえとダメってのは若干イラつくがな」
「ごめんごめん。でも、向こうにも都合ってのがあるからね。仕方のない話だよ」
ワライは一つ間を置いて話を続ける。
「でも、ある意味一月休めるってのはいいんじゃない? もうわざわざ面倒な芝居をする必要はないんだし」
「それはそうなんだがな」
「まぁ、どっちにしてもご苦労様。本当にごめんね。面倒な悪役やらせちゃって」
「いいさ。どのみち誰かがやらねえと始まらねえからな」
彼らの目的は対祓滅女をこの街のトップに据え置くことでも村人を皆殺しにすることでもなかった。その程度のことなら、別にこんな時にやらなくてもいくらでもやれるからだ。
彼らの真の目的は武に全てを取り戻させることと彼女を目覚めさせることだった。
ワライは真ん中に立つ少女に目を向ける。サケビやワライ同様黒いマントにフードを被り、赤文字で目が大きく開かれ口元が大きく歪められた顔が描かれた仮面を被った少女。
この少女こそが彼らの目的の鍵にして切り札。『クルイ』だ。
「やぁ、調子はどう? クルイ」
「悪くない。奴を目覚めさせてくれたこと、感謝する」
奴とは武のことだ。武もまた理由があって深い眠りに落ちていた。それをワライの力によって復活させることに成功したのだ。
「まぁ、最初はアレだったけど、もう大丈夫。これなら、多少過程は変わるかもしれないけどまず間違いなく上手くいくと思うよ」
ワライは小さく笑う。左端に立っていたサケビはどこか呆れたように嘆息する。
「不安だな。大丈夫か?」
「大丈夫だよ。どうせ、僕の思惑を崩すなんて誰にも不可能さ。何しろ、僕より強い奴なんてこの世のどこにもいないんだからね」
ワライは自信に満ちあふれた声で断言する。荒唐無稽な言葉のように聞こえるが、強がりでもはったりでもなく紛れもない事実だった。彼に勝てる者はいない。いるとすれば――。
「いずれにしても、しばらくは休息期間だ。この間に僕もやれるだけやっておこうかな。クルイは英気を養ってもらわないといけないし、サケビにはやってもらわないといけないことがあるから、座子手伝ってくれないかな?」
「それは構わないが、一つだけ聞かせてくれ」
「何?」
「何で、対祓滅女なんて物を作らせた上に俺にそれを乗っ取らせたんだ?」
座子は尋ねつつもワライの答えは分かっていた。二人の付き合いはかなり長い。もう答えなど容易に想像がついた。
だが、それでも聞いておきたかった。自分自身のために。
それを察してか、ワライは一拍置いてから答える。
「そんなもの決まってる。差別をしてもいいのは全ての頂点に立つ者だけ。それしか能のない弱者が偉そうに吠えたところで踏み潰されるだけだということを伝えたかっただけだよ。もっとも、伝える相手なんていやしないだろうけど」
もうワライに正面きって逆らえる者などこの世界にはいない。いたとしても、それはワライにとって織り込み済みでしかない。
だから、今回の一件に意味などまるでない。そもそも、ワライに差別に関して思うことなど何もない。
要はこれは彼なりの無意味なメッセージなのだ。そこに込められた意味などない。
「さあて、それじゃあそろそろ解散といこうか。八月になったら忙しくなるよ」
ワライはそれだけ言うと歩きはじめる。だが、歩きながらも話すことをやめない。
「何しろ、次こそが真の最終決戦なんだからね」
ワライは言い終えると同時に姿を消す。三人はその後ろ姿をただ見ていた。
これから一月の間。多少の出来事はあったものの表面上は大きく動くことはなかった。しかし、それは嵐の前の静けさにすぎなかった……。
これにて、第四章は終了です
次回から、第五章『ひとまずの終結』に入っていきます
この第五章は第一部最終章でもあり、第六章より第二部に入る予定です




