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到着

 東部から北部まで対祓滅女のメンバーをねじ伏せながら来ること三時間。北部にある山は一つしかなく、水の言っていた山がどれなのかはすぐに分かった。そして、その山を見ると確かに一目でそれと理解できるほど分かりやすかった。山の中腹にある遊園地に似た巨大なレジャーランド施設。遠目からでも一発で分かる。水の情報が正しければ、あそこに座子がいるのだろう。


「しかし、あんなところにこの村の問題を解決する鍵があるのか?」


 正確には元凶がいると言うべきだが、意味的にはあまり大差はないだろう。それよりも、もし元凶がいるとしたらそれは誰なのか、あるいは何なのかを考える方が重要だ。


「誰かがやってるという前提で考えると、普通に考えればあいつが黒幕なんだろうが……。だけど、なんかしっくりこないんだよなぁ」


 武としてはむしろもう一つの考えの方が正解のように思えた。しかし、そっちの方で考えてもやや違和感がある。

 あまり深く考えない方がいいのかも知れない。武はまだ完全には記憶が戻っていない。おそらく、その抜けている記憶に鍵がある。


「ここでぐたぐだ考えていても仕方がない…… か。とりあえず、行くとするか」


 正直隠れるにはいささか派手なように見えるが、裏をかいたという線も考えられる。あるいは全く隠れる気がないかもしれない。どちらにしても、武には水の情報に縋るより他にない。情報に偽りがあるなどと武は微塵も考えていなかった。

 そんなことはまるでありえないといった顔だった。



 武は大きく身を屈むと、その場で飛ぶ。そのジャンプ力は凄まじく武のいる場所から山の中腹まで直線距離で二キロはあるにもかかわらず平然とレジャー施設の端に着地音を最小にして着地する。


「ん?」


 武の正面に武装した黒スーツの男が五人ほど立っていた。武は口元を歪め、着地した体勢のまま右手の拳を握る。


「まさか。あんなところから一瞬でここまで飛んでくるとはな。飛距離、高さともに人外レベル。ふざけた跳躍力の持ち主だ」


 中央にいたサングラスの男がそう言ってくる。武はその男を見ながら考える。

 今、武が行った侵入方法は決して地味な方法ではない。それどころか、極めて派手な侵入方法だ。一応、音と気配には気を使ったがそれでも早く感づかれるのは間違いない。だから、一見するとこの男が侵入に気付くことに不自然はない。

 だが、この男は明らかに武を待ち受けていた。ここにいたのは偶然ではない。確かに武はこのレジャーランドを見ていた。もし彼がこのレジャーランドの警備員なら視線を感じて警戒していてもおかしくはないだろう。何しろ、この施設にもいろいろと裏がある。機密保持の観点から相応の実力者を雇っているのはなんら不思議ではない。



 だが、仮にこの男が相当な実力者だったとしても武が着地する場所までは分からないはずだ。予知能力でもあれば別かもしれないが、おそらくは今回の件には関係ない。なら、なぜ彼が武の着地場所で待ち構えられたのか。その理由に武はすぐに思い当たった。

 その理由は目の前の男にこそある。この男の名は樋口(ひぐち)(まこと)。他ならぬ座子の側近(・・)だ。


「どうして、てめえが生きてる?」


 だから、武は警戒心を露わにしながらそう尋ねる。だが、その問いに意味がないこともまた分かっていた。樋口は答えない。他の男たちも微動だにしない。これで確信した。

 最初に対祓滅女のアジトに乗り込んだときに、武たちは三方向に別れた。そして、それぞれが側近を倒しあの部屋に行ったものだと思い込んでいたが、それは大きな間違いだった。

 最初から冷静に事態を整理する。まず天成、織珠いずれかが側近を生かしておいた。否、正確に言えば自分の思うがままに洗脳(・・)したのだ。なぜそんなことをしたのか理由までは分からない。だが、何にしても武がやるべき事は一つだった。


「がはっ!」


 武は一秒とかからずに男五人をまとめて殺す。武は冷めた目で崩れ落ちる五人を一瞥し、再び前を見る。


「どうせ大した意味はないんだろうな。あるとしたら、せいぜい記憶を取り戻させるためにけしかけたくらいか。確かに肝心なところの記憶は戻ってはいないが、こんな奴ら殺したところで戻るはずもない。俺が不完全な状態で思い出したことを知らないのか。まぁいい。ひとまずは(座子)を探すか」


 正直、武にはまだ分かっていないことが山ほどある。おそらくは、武がまだ取り戻せていない記憶の中に全ての鍵があるのだろう。その内容についてある程度の予想はついてはいるが、現状まだまだ何も分かっていない状態だ。だから、最初は何かを知っている座子を探すことにする。彼を見つけ出して聞けば、もう少し何か分かるかもしれない。

 そう考えて足に力が入るが、その足を止めたのは武の背後から聞こえてくる声だった。


「ほう。まさか、こんなところで会うとはな」


「!」


 武は後ろを振り返る。そこには見覚えのある顔が三人いた。中村、黄、そしてボレだ。


「あんたらはあの時の……」


 武は三人を見て思わずぽつりと呟いていた。中村と黄に思うところは特にない。だが、ボレは別だ。彼は武に祓己術の重要性を教えた人物だ。

 今、話しかけてきたのは中村なのだろう。こちらを興味深そうに見ている。逆に黄は敵意むき出しの目でこちらを睨みつけている。ボレはよく分からない。表情から感情を読み取ることができなかった。

 そんなことを考えていると黄が突然飛び出してくる。


「この時を待ってたんだよ! 灯様の唇を奪った不届き者め! 死にやがれ!」


 黄は巨大な斧を武に振り下ろしてくる。武は左手一本で受け止めると、白い呪力を右手のみに放出し腹にパンチを入れる。たったそれだけで黄の腹に大穴があく。


「がはっ……」


 黄は上半身と下半身が分裂する形で地面にくずおれる。地面に倒れて動かなくなった黄を見て、武は地味に上級悪霊を殺したのは初めてだななどと思う。人に取り憑いていなければ、悪霊の死体は残る。それは上級においてもどうやら同じらしい。

 一瞬で黄を殺した武の手際に中村はほぉと感心した声を上げる。


「随分と腕を上げたな。ほんの二月前までとはまるで別人だ」


 武は中村の言葉には答えずにボレの方を見る。ボレは生気のない表情をしながらも武を見る。


「一応…… 久しぶりと言っておこうか。あんたのおかげで俺は祓己術を手に入れられたよ」


「それは何よりだ」


「それで? あんたらはここに何をしに来たんだ?」


 武は白い呪力を右手に纏ったままそう尋ねる。返答如何では戦闘も辞さないという構えだが、二人から戦意が感じ取れないためおそらくそれはないだろうと武は内心思う。だが、油断はできないため警戒は解かない。


「何。ここに我々の目的を達する物があると聞いてね。それを取りに来たのさ」


 中村は先ほど無視されたことなど知らないといった様子で言う。武は小さくため息をつく。


「目的…… ねぇ。一体、それは何だ?」


「おや? 知らないのか? 我々の目的は…… がっ!」


 中村はそこまで言いかけたところで悲痛な声を上げ白目を剥く。その胸には右手が生えていた。


「お前の知る必要のないことだ。そもそも、敵に目的を聞かれて素直に答えるとでも思うのか?」


「き、きさま…… !」


 中村を殺害したのはボレだった。中村は凄まじい憎悪を込めた目でボレを睨みつけながら地面に倒れる。仲間割れのように見えるその光景に武は動じない。それどころか、薄笑いを浮かべてボレを見る。


「そうだと思ったよ。やっぱり、てめえも変わってねえな」


「! お前、まさか……」


「不完全ながら、記憶は戻ったよ。もっとも、一番大事なところを忘れちまってるせいで未だにこの世界(・・・・)が何なのかよく分かってないんだけどな」


 ボレはうっすらと目を細める。武の言っていることが本当かどうか見定めようとしている。武はただ動くことなく力強い目でボレを見返すだけに留める。だが、それだけでボレにとっては十分だったらしい。


「なるほど。確かに戻っているようだな。あの救いようのないエゴイストに」


「ああ、そうだ。お前にとっては腹立たしい事か?」


「いや…… お前の記憶が戻ったことは素直に喜ぼう。ただあまりにも悲しすぎる……」


「哀れみか? それとも、俺のようなクズが再び動き出して犠牲が生まれることに悲しんでるのか?」


 武の問いにボレは答えない。武は口元に凄絶な笑みを浮かべる。


「どうした? 難しい問いだったか? それとも…… これで語り合うか?」


 武は全身に絶大な白い呪力を放出する。ボレはそれを見て構えをとる。腰を落として足を開き両足の間に左手を下ろす。そして、右手は拳を握ったまま肩まで上げるという独特の構え。武は笑みを浮かべながら瞬時に理解した。前回とは違う。完全な本気モードだ。

 武は迷いなくボレへと突進する。武の拳はボレにあっさりと受け止められる。だが、武は笑みを崩さずに拳に力を込めて押し切ろうとする。


「ぐ…… っ」


 とてつもない力に圧倒され、たまらず身を反らしてその場から離れる。武は止まらない。ボレが着地した瞬間を狙って飛び蹴りをする。ボレは右腕を盾にして受けるが、受けきれずに吹き飛ばされてしまう。


「どうした? この前と比べて結構弱くなったんじゃないか?」


「お前が強くなりすぎてるんだよ。というより、落ち着け。俺はお前と戦うつもりはない」


「らしいな。お前からは全く戦意を感じられない。さっきの攻防でわざわざ隙作ってやったのに、まるで仕掛けてこないんだもんなぁ」


 武は拍子抜けしたといった表情でため息をつく。そして、武は内心で焦りすぎたかと自分を戒める。元の世界に戻るという願いは叶わなくなってしまったが、それでも何があったのかということは知りたかった。知らなければ何も始まらない。そのため、少しでも知っていそうな人物に当たってみようと考えた。だが、一筋縄ではいかないことは武にも分かっていた。そこで少し工夫を凝らしてみようと思ったのだ。

 とはいえ、それで戦闘を仕掛ける武はやはり異常だろう。戦いのさなかにうっかりと話してしまうということを期待しての算段だったが、普通に考えてそんな方法で話す人間はいない。ゆえに、ボレは呆れたような声を上げる。


「お前は変わらないな」


「そうか?」


「自分が正しいと思ったらどんなことでも平気でやってしまう。ある意味、あいつ以上に危うい正義だ」


「はっ。正義? そんなもんが俺にあるわけないだろ。俺にあるのはただの独善(エゴ)だけだ」


「そうかよ」


 武は静かにそう言い放つ。ボレは心底呆れたといった顔で武を見る。そんな二人にゆっくりと近付いてくる人影があった。

 武は反射的にそちらを見る。ボレはその人物の正体に心当たりがあったのかゆっくりとそちらに顔を向ける。

 武の視界に入ってきたのは青い文字で目と口が大きく見開かれた顔が描かれた仮面を被った人物だった。仮面に加えて、黒いマントとフードを被っているためその人物の正確な人相は分からない。

 武はその人物のあまりの怪しさに身構える。だが、仮面の人物は右手をこちらに突き出してくる。


「そう警戒するな。今、お前に危害を加えるつもりはない。俺は『サケビ』。悪霊たちの王だ」


「何だと?」


 悪霊の王。予想だにしなかった人物の登場に武の目が驚愕で大きく見開かれた。

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