カエルの子はおたまじゃくしです
ヒキガエルは無いだろう、しかも潰れたときた、花も恥じらう乙女に対して。
せめてモリアオガエルにしてくれ、あの国指定の天然記念物に。
だけどカエルの肉は人間の肉に似ているというし、いいのか。いやいや自分、妥協はいかんだろう。カエルと言っても所詮はカエル。カエルの子はカエルだ。
何だか自分がおかしくなってきている、それもこれも全てこの男のせいだ。
夏希は倒れて意識を失っている男を肩で息をしながら見つめた。
なんなんだ、この男は。
人をモモンガと言ったりカエル、いやヒキガエルと言ったりして。
ヒキガエルという言葉に根を持った夏希はもう一生カエルなんて見たくないと思った。カエルが悪いわけではない、この男が悪いのだ。しかしもうカエルは見たくない。
しばらく足で男を蹴飛ばしていると廊下からまるで横綱が走って来るような音がして扉が勢いよくあいた。効果音をつけるなら「バーン!!」だ。
「兄様、今の雄たけびは何なの」
これまた整った顔立ちの男の御成りだ。しかも兄弟そろって失礼な奴らだ。
乙女の声を雄たけびだとは甚だしい。
自称国王とやらの意識が戻ったので外でお茶を飲みながら話を聞くこととなった。雲一つない空は青く澄んでいて夏希の心とは違って晴れ晴れとしている。
「で、動物王国だって?」
夏希がローズティをちびちびと飲みながら冷たい目で銀髪の男を見る。男はもじもじとした様子で夏希を窺っている。
きもい、顔でそれを表すと大の大人なのにしゅんとしている。
「ああ、国王のフランシスだ。こっちの弟がアベルだ」
「あの時はどうも」
「あの時?」
はて、こんな茶髪のいかにも外国人風の男と出会っただろうか。こんなに目立つ顔なら会ったら絶対に覚えていると思うのだけれど。
夏希はアベルの顔を凝視する。茶髪で緑黄の瞳の顔は一見すると可愛らしい犬のように見えるが、如何せん、そんなことを言ったら犬に失礼、いやアベルに失礼だろう。
「あれ、分かんない?ほら、車が来た時に助けてくれたでしょ」
「全く、身に覚えがないんですけど」
「えっ、健忘症?」
確かに夏希は授業の内容を忘れてしまうことはあるが、そこまではひどくないはずだ。ちゃんとノートを見れば思いだすし、そんな歳ではない。
まだ高校生なんですけど、心の中で毒を吐くが顔には出さない、それが大人のマナーだ。
「失礼だろ、アベル」
「いや、あんたの方が失礼でしょ」
会話に参入してきたフランシスをじと目で見る。
動物に例えられるくらいなら、まだ人間要素のある「健忘症」の方が嬉しい。
「私のどこがだ?」
「発言全て」
「なっ・・!」
口を開けてぱくぱくさせている阿呆を放っておいてアベルに向き直る。
「どこで会った?」
「今日、学校の前で」
「今日?・・私、犬しか助けてないけど」
こんがりと焼けた大きなクッキーを頬張りながらアベルに問う。
隣で「おお、まるで口いっぱいに物を詰め込んで歩くこともできないシマリスのようだ」とうっとりしている奴はこの際、視界に入れないで空気として扱うことに決めた。てか、表現がいちいち細かすぎる。なんだ、歩くことができないって。
確かに色はアベルに似ているかもしれない、だけど助けたのは人間じゃなくて犬だ。
「あ、そうそう、それが俺」
「・・は?」
食べていたクッキーが夏希の手を滑り地面に落ちた。
カエル愛好家の方々、すみません
こんな言葉を見て不快に思うことでしょう・・・
あの円らな瞳、ぴょんと跳ねる姿がいじらしいと思っていらっしゃることでしょう
だがまだ未熟な虹乃には分かりません
まだまだ精進がたりないようです・・・