特殊能力とかじゃないよ?
放心状態の夏希はフランシスにより何とか戻ることが出来たが、未だ信じられずフィナから距離を取って離れた。
だがフランシスが夏希をフィナの前に突き出し、逃げ出そうにも肩を掴まれて動けない状態だがフィナは夏希の顔に近寄り艶然と微笑んだ。
「フィナ改めてフィオーレだ」
「これまで通りフィナでいいわよ」
頬に手を当てられ、夏希の全身は震えて我武者羅に身体を動かしてフランシスの頤に拳を当て、呻いて手を離した隙に今は一番安心する兎さんの腰に掴まってフィナの瞳から逃れながら呟いた。
「うう、イルカっていうのにも驚いたけれど男なんて。それよりも男の人に胸揉まれたぁ」
「フィナ、俺の夏希に何してんの?」
「ええ、僕だって、揉んだことは無いのにぃ」
「2人共黙れ!」
夏希は2人を威嚇して黙らせようとするが、きっと2人はB型だろう。兎と犬にはB型は無いがもし人間だったら、このマイペースさは絶対にそうだと思った。そしてA型である夏希とはウマが合わないだろう。
「もう家に帰るぅ。動物怖いよ」
「そんなこと言わないで。ずっと一緒にいようよ」
「ごめんよ、ジョージ。私には私の生活があるし、もう動物と触れ合いたくない」
「大丈夫、俺が返さない」
「アベル、殴るぞ」
拳を振り上げて脅すがアベルは全く懲りた様子が無く、何を言っても無駄だと理解した。いつになったら飽きるんだと思うが今のところ手放す様子は無いようだ。
「はあ、お前達3人が集まると収集がつかなくなる」
「見てて面白いけどねぇ」
夏希、アベル、ジョージは子供らしい。そしてフランシスとフィナは大人らしい。そんな態度であからさまに上から目線をしなくてもいいじゃないか、と夏希はふてくされる。
「けっ、何だよ。見た目が大人だからって精神年齢はそうじゃないんだぜ」
兎さんの後ろから毒づき舌打ちしていたのでフィナが近くに寄って来ていたことに気付くのに時間がかかった。
そして気付いた時にはフィナに腰を掴まれ、頭に頤が乗せられている状態で、じたばたしていた。
「ぐっ、卑怯な! 離すのだ」
「・・一つ聞きたいんだけどね」
急に真面目な声色になったので夏希は暴れるのを止めてフィナに向き直って見上げた。
「何?」
「どうして私が元の姿だった時に男って分かったの?」
「いや、男っていうか雄?」
「お、と、こ」
「・・・」
一文字ずつ区切られて、心なしか腰に回っている手に力が入った気がした。
何だか、妙な拘りがあるらしい。夏希としては、どちらでもいいのだが、乙女は繊細らしい。
はいはいと返事しながら説明する。
「えーと、なんていうか生殖スリット?」
「生殖スリット?」
「うんと、フィナ達がどう呼んでるかは知らないけど、その生殖スリットと肛門、ていうか、お尻と繋がってるのね。で、その生殖スリットの左右には乳房の小さいスリットが見えるんだよ。雄、じゃなくて男の子は背びれの下のお腹、少し後ろ寄りに小さな膨らみが見えて横から見ると凄く特徴的なんだけど」
「・・・」
簡単にそう説明すると、なんだかフィナ達が黙ってしまった。今回は何も悪いことしてないよな、フィナを窺いながら、じっと覗くが何だか驚いたような顔をされている。
「僕達について何か知っていることは?」
今度はジョージが聞いてきた。
つまり兎の特性とかを説明しろって事か。
「うーん、とジョージ達白い兎はジャバニーズホワイトって言われてて、アルビノっていう色素欠乏症の目の赤い個体が多いみたいだよ。・・・そして」
こんなことは残酷かも、と思いながらつい言ってしまった。
「めっちゃ実験されてるよ」
そう言ったら兎メイドさんとジョージの顔が引き攣った。おっと、言ってはいけないことを言ってしまったようだ。
「・・動物が嫌いと言いながら、物知りではないか」
今まで黙っていたフランシスが口を開いた。そして感慨深げに「実は動物のことが好きではないのか」とか不穏なことを言って下さっている。
「んな訳あるかい。動物は最早、私の天敵や! ・・それに学校で散々学ばされたのだよ」
――――思い出す。
学校で学んだことや友達と馬鹿なことをやって先生に怒られて廊下の片隅で正座させられたこと。
高校生になって今を楽しむことを優先してしまって過去を振り返ることなどしていなかったが、ここに来て改めて考える。
中学生時代、殆どの生徒が小学生の時からの知り合いだったから気後れすることなく過ごした毎日。中学校にはハンドボールなんて部活が無かったので泣く泣く陸上部に入り、顧問と揉めたり。
そして勉強の中で本当に大嫌いだった理科。動物の生態なんて知っても意味が無いと思っていたが、すごく役に立っている。
「ほら、敵を知るには、そいつの弱点を握れって言うしね」
「ふむ、夏希、お前は使えるな」
何だか、物凄~く上からなお言葉を授かったんですけど。これって怒っていいんだよね?