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止まるのだ、我が涙





 夏希は女性の化粧品を借りて顔をいじらせてもらう。日本と同じような化粧品が多かったため使い方を聞きながら取り組んだ。


 こってりとした化粧を落として、まずは化粧水をつける。

 夏希は目の前の長身過ぎる女性に岩を背にして座ってもらい、夏希その膝に跨ぎながら座り顔を掴みながら向き合っていた。


「まずは染みこませるように馴染ませます。本当は顔を冷やして毛穴を締めてからがいいんですけど」


 まあ、こんなに近くで顔を見ても毛穴が見つからないのだから必要ないだろう。

 次に保湿クリームを塗る。きめ細やかな肌には別にいらないかもしれんが、まあやっておこう。

 全体に練り込ませて顔も引き上げる。まだ弛んでいないが将来のためだ。

 

 すると猫みたいにゴロゴロと喉を鳴らす。目もうっとりしていて夢心地な気分のようだった。


「気持ちいいわね」


「本当ですかぁ」


 しっかりと下地をしてから、うっすらと肌より少し濃い色のファンデーションを塗って色がない頬に薄いピンク色のチークをする。睫は長いため何もしないが目の周りにラメをつけたりラインを引く。

 本当は化粧なんていらない程に美人だが本人がしたいと言うために素材を活かして全体的に薄く施した。


「少し口を開いて」


 紅は真っ赤にして悪女アピールだ。真っ赤なんて似合わない人が多いがやはり美女は似合っている。こんな目で蔑まれたらゾクゾクしちゃう。


 筆で形作り、うっすらと開いた口に色をつける。

 情欲的だ、男なら人目をはばからずに襲っていたところだな。




「できました、別嬪さん」


「ありがとう。でも別嬪じゃなくてフィナよ」


「ありゃ、名前があるってことはもう野郎の物なんですかい!?」



 そんな、そんな。私がせっかく綺麗にしたって言うのに別の男の唾がついているなんて。

 目の前で絶望ポーズをとっている夏希を綺麗に無視してフィナは夏希の腰を寄せてさらに密着させ、おでこをくっつける。


「で、何で泣いてたの?」


「え?」


「あんた、自分が泣いてたのも忘れてんの?」


「あー」


「・・あんたって」


 いや、忘れてたわけじゃないよ。うん、ただ悲しみを忘れるほどの美女に出会ってしまっただけであって。


「で?」


「いえ、フィナさんのお耳を汚すにははばかられまして」


「いいから早くいいなさい」


 フィナの睨みに1秒も経たずに夏希は屈服した。


「あう・・実はですね。その、赤の他人に知らない国に連れてこられて、しかも嫌がらせとしか思えない恩返しをされまして。最後には罵られ、もう今まで溜まっていた鬱積が出てきてしまった、のです」


 身ぶり手ぶりを使って表そうとするもの、フィナが近くてあまり身動きが取れない。


「で、でもですね。皆さん優しくしてくれて本当に、あの嬉しいんですよ。ただ、暴言を吐いてしまったためにどう戻ればいいか、分からなくて」


「ふーん」


 真剣に悩んでいる夏希の前で、どうでもよさげな声を聞くと先程止まったはずの涙腺は緩む。


「っ、うぅ、な」


 向き合ってるため泣いているのが分かってしまう。なので夏希は顔を伏せてフィナの胸元に顔をつけて肩を震わせる。


「あんた、泣いてんの?」


「先程、猛スピードで、虫が、目にぶつかっ、た」


「・・はいはい。あんたも辛いわね。知っている人が誰もいない場所に連れてこられて大変だったでしょう」


 優しく夏希の短髪を梳いてくれる動作に胸が温まり、次から次へと涙が出る。


「優しく、しな、い、でぇ」






 本当は優しくしてもらうと嬉しい。優しい言葉に仕草。




 でも今はやめて欲しかった。










あづい----

とけるうううう

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