美人に化粧はいりません
夏希は足をつつくのが動物と分かった途端、悲鳴をあげる。
「ふっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
まるで蛙のような素早さで水から足を出して飛び上がり後ろへ下がる。
イルカも驚いたように一瞬で湖の中に戻って身体を震わせていたが夏希が慄いて放心していると労るようにまた水面から顔を出して夏希を心配そうに見守っている。
夏希はビクビクしながらもイルカと向き合う。まあ、3メートル以上離れていたが。
「なぁ、ぬ、へ、へ、見てるよ、見てる。あぅ、ギザギザの歯で私を食べるんだ」
虚ろな瞳でブツブツと言う。
しかしイルカは食べるだなんて心外だと言うように鳴く。
「はわわ、怒られた。男の子に怒られるなんて・・あ、この間ぶりだ」
そういえば、クラスメートの男子が楽しみにとっておいたデザートのプリンを食べてマジ切れされたな。いやはや食べ物の怨みは怖いと身をもって味わった日だった。
うんうんと頷いている夏希を先程まで騒いでいたイルカが静かに見つめているのに夏希は気がつかなかった。
ふと夏希はジョージという兎を克服できたのだからもしかしたらイルカもできると思い一歩一歩擦り足で近寄る。
だが、はたと首を傾げる。
「でもイルカって海の生き物だよね?なんか生臭そうなイメージしかない」
生臭い、と言った瞬間、イルカが奇声をあげて勢いよく湖から飛び出して夏希に体当たりした。
「キシャァァァァ」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
あ、臭くない。
頭の片隅で思いながら意識がなくなるのを感じた。
頬がじんと痛む感じがして覚醒した。
「あら、起きた?」
「・・ほっぺが痛い」
どうやら夏希は湖際にイルカに激突され意識を失っていたようだった。お腹部分が濡れているため突撃された荒々しさを物語っていた。
「起きなかったから叩いちゃった」
お茶目な声に振り向くと美女がいた。切れ長の石榴色の瞳に通った鼻筋は先がつんと上を向いている。卵系のラインに腰まであるカールしている灰色の髪。すらりとした長身の体型は物凄く羨ましい。
だが、惜しい。いや、勿体無い。色白の肌は化粧がいらない程きめ細やかなのに肌より白い顔があってチークは凄く濃くて目の上はパンダみたいに黒い。口にはベージュの紅をひいていて顔に合っていないメイクがしてあった。
夏希は頬が痛むのも忘れてガン見してしまった。
「・・わーお、勿体無い」
「なんですって?」
美人に睨まれた夏希は身体を小さくして土下座した。
「すみません。生まれてきてごめんなさい」
美人の怒った顔に心を打ち砕かれ半べそをかきながら平社員の気持ちが分かった気がした。
「そんなに怒ってないわよ、あんた失礼だけど」
「ふみぃ、返す言葉もございません」
謝りながら大きな胸を見る。ゆったりな服を着ているというのに2つの存在感あるものが誇張している。
「でかぁ」
「あんた、思ったこと全部口から出てるわよ」
「あわわ」
こ、こんな美女とぜひ親しい仲になりたい。
夏希は同性にドキドキしながらこみ上げてくる唾を飲み込み、手の平をジャージで拭いて手を出す。
「あ、あの」
「な、何よ」
夏希の険悪に押されながら後ずさっているが夏希はその距離を埋めようと更に詰め寄る。
「ぜひ、あなたのお顔に化粧させて下さい」
「はあ?」




