湖
まるで短距離走並みに全速力で走った。どこも似たような壁しかなかったが夏希は我武者羅に走り続けて何とか城門を見ることができた。
顔を真っ赤にしながらも瞳と鼻から涙を流して脇目も振らずに走る城門を守っているゴリラさんは驚いていたが夏希を止めようと声をかける。
「あ、あの」
実は口下手だが必死の形相で声をかけるが夏希はそんなゴリラさんに目もくれずに慌てふためく門番兵たちの横を走り抜け、城下へと向かった。
どれくらい走っただろうか、夏希は暫く走っていなかったために筋肉が落ちた足が痙攣するのを感じてやっと止まった。
荒い呼吸を整えながら、その場で仰向けになる。そして強張った足をさすりながら辺りを見回すと目前に大きな湖がある。それを囲むように木々が生い茂り静けさが広がる。
どうやら街から離れた場所に来てしまったらしい。道も分からず、途方に暮れる。ここはどこだろう、早く帰らなくては。そう思うも自分が幼児のように駄々をこねて叫んだことを思い出して戻るのが憚られた。
「・・戻る?」
自分が考えたことに気付いて腕を抱く。
「何で、あそこは私の家じゃないのに」
『戻る』なんて可笑しい。あの城は夏希の家ではないのに、他人の住む場所なのに。どうして『戻る』なんて言葉が出てきたんだろう。訳も分からず笑いが込み上げてきた。
目尻から幾つも涙が落ちることを気にも止めず腹を捩って乾いた笑い声を出した。
だがそれも長く続かず、すぐに噎せて前髪をかきあげた。
瞼が痛むのを感じて湖に顔を映す。綺麗な湖は澄んでいて水面下も見ることができた。
「酷い顔だあ」
腫れぼったい目は真っ赤に充血していて小さな鼻も赤い。そんな目を擦って、自分の頬を摘んで一気に顔を水面に突っ込んだ。息の続く限り入れて苦しくなって顔を出す。何度も同じことを繰り返して、そしてジャージの袖で乱暴に拭く。
冷たい水が顔を冷やして大分ましになったようだ。
次いでに未だ筋肉が強張っている足を水につけた。ジャージをまくりあげ、水に入れながら揉む。本当は足を温めた方がいいのだろうけれど冷たい水は気分も落ち着かせる。
「気持ちいい」
ほうっと溜め息をついて、目を閉じながら頬を撫でる風により、かさかさと揺れる木の葉の音を感じながら一定の間隔で揺れる水面が夏希の足を揺らすのを楽しんでいた。
近くの岩に身体を押しつけ、暫くそのままでいるとキューキューと声が聞こえる。
「・・ジョージ?」
この長閑な雰囲気にまだ身を預けていたくて、開けたくない目を嫌々ながら開けるとそこにいたのは黒い目を輝かせている賢そうな顔をしたイルカがいた。
ちょっとシリアスでしたかね?
基本コメディーにしたいので、そろそろお笑い要素を入れていきます




