近親・・おっとこの先は言えねえぜ
「油断も隙もねぇ」
くいっと腰をかっさらわれジョージと引き離された。
「俺の夏希なんだけど」
「いやいや、おかしいだろ」
「俺が連れてきたんだけど」
「連れてこられた、だけど」
腰に回された手をひねって呆れ顔で見る。
快く連れて来られた訳ではない。無理矢理、だ。もしかしたら車に轢かれてしまっていかもしれないのを助けたのに落とされて、こんなとこに連れて来られるし。
「むしろ俺の婚約者でしょ」
「いやいや、突発的すぎだから」
夏希は手を振ってうんざりとする。いい加減、自分の主張も聞いて欲しいものだ。
「てか何でそんなに冷静なの。キスされたんだよ」
「え?挨拶じゃん」
「・・・」
唖然とするアベルと兎さん。
夏希はその理由が分からずに大きな目をぱちくりとする。
だって外国はキスするものだし、友達とくっついたりするし一緒の物を食べたり、ペットボトルを回し飲みする。
だからキスとか、ぶっちゃけ平気じゃね、という夏希の持論がある。むしろキスで騒いでいたら女優さんや俳優さんは大変だ。一回キスされる事に「私の純潔があ」と騒ぎ立てることになるのだ。
というか今のキスはバードではないか。ちゅっとして離れていくなんて可愛いものだ。
だから平気だ、むしろカモン。
夏希の許せる範囲は人より広かったこともあり、またジョージを弟と捉えていることもあり嘆いたりしなかった。
しかも、私は知っているのだ。成績優秀な夏希をなめるなよ。
得意げなポーズを決めて、更に斜め45度という角度からアベルを見る。
「ふぎゃっ」
ふふんとしてると鼻を摘まれた。
う、う、可愛いお鼻が。
「何、その顔」
「はっはっは、アベル君よ。僕は全てお見通しさ」
腕を組んでエアーパイプを加えて口から空気を出す。
「はい?」
「僕の優秀な頭にかかれば難解な問題も一発さ。君には婚約者がいるだろう」
「は?」
「君は先程言った。名前を捧げることで結婚を意味すると。つまり君、アベルという名がある君には婚約者がいるのだ。婚約者がいる身でありながらの愛の語らいは倫理に反すると思わんかね」
「違います」
「そう、違っ・・えぇー!!」
ずっと側で控えていた兎さんの静かな声に夏希は叫んだ。
「なな、何でっ!?」
何故だ、完璧な推理だった筈だ。
「いえ、アベル様は王族ですから。王族の方は王直々に名を賜るのです」
「え、近親・・ふがっ」
「口塞ぐぞ」
ドスの利いた声に確実に天に召されるのを覚悟した。
あぁ、写真でしか見たことがないお婆ちゃんが目に浮かぶ。
今、行くね。
「いい、王族は先に名前を貰うの。婚約者云々の前に」
「い、今聞きましたが」
「この小さな脳に入らないと思って繰り返してあげているんだよ」
「寛大な処置、有り難く存じます」
丁寧な口調の裏側に威圧を感じ、こちらも丁寧に答えてしまった。