それは恋なんかじゃなくて ⑧
夏休みにサッカー部は山中湖に合宿に行く、て聞いてから私はイライラしている。
理由はもちろん純也との野口君が24時間一緒にいることになるからだ。
部と言っても同好会に近く、顧問の先生も出ないことが多くて、選手権の予選なんかも毎年一回戦負けというチームだけれど、それでも夏休みの合宿はあるみたいだった。
申し訳程に2泊3日だけど。
付近の強豪校は1週間という噂で、2泊3日なんてかなり短い方なのだが、朝から夕方までの練習&試合はきついらしい。
「この夏の一番の山だよ」といつもはお気楽な純也も憂鬱そうにしている。野口君は感情を表に出さないからどう思っているかわからない。でもずっと純也と一緒にいることができて嬉しいはずだ。
私からすれば野口君がうらやましい。
だから
「いいねー。頑張ってね」
と野口君に言うときの私の目は言葉と裏腹に冷たかったと思う。
「俺は?」
純也がそう言ってくる。
「純也もね」
「うぇい」
自分が2番みたいに思って拗ねているところが可愛い。今も私は純也への気持ちを隠すことに精いっぱいだ。
純也が家に来てくれてから、友達みたいな関係になり、だんだんと呼び捨で呼ぶようになった。ほかの女子に差をつけたみたいで嬉しい。それからなぜか野口君も近づいてくるようになって、、、。
クラスメートは最初、私たち3人が話すのを不思議そうに見るコもいたけど、すぐに関心がなくなったみたいだ。由利はときどき遠慮がちに近づいてくる。
最初は顔面のせいでか雲の上のアイドルを見るような目で見られている二人だったけど、愛想はいいが天然なところもある純也に対し、「なんだうちらと変わらないじゃん」みたいな評価になった。
野口君の方は不愛想過ぎて、「うん」とか「いや」とかしか言わないから、「会話にならなくてつまらない」とみんなの興味は急速になくなってしまったみたいだ。
だから私たちがかたまっても別に注目もされない。ありがたいことだ。
山中湖の合宿の話しも昼休みに私たちがなんとなくかたまっているときに出た話だ。
聞いたときは冷静を装っても、次の授業が上の空になるほど私は頭がいっぱいになってしまった。
24時間一緒の純也と野口君。一緒に食事して練習してお風呂にも入っる。一緒の部屋で寝るのかな。
夕食後はきっと自由行動もあだろう。星空の下、散歩に出たりする2人を妄想してしまう。
彼らは17歳の健康な男子なわけだで、少なくとも野口君にはその欲望があるわけだし、、、、
でも確か嫌われるのが怖いから自制すると言っていたはず。いや、純也は「引かないで受け入れてくれるやつ」とも言っていた。気持ちの面でなのか?それとも?
二人のキスシーンが浮かんでしまった。
もしそんなことになったら飛んで行って引き離したい気分になる。
待て。
その前に野口君は気持ちを伝えてないみたいだから告白が先か。
純也も彼を好きとかあるかな。ないような気もするけど、思いがけないことが起こるのが人生だとよく言うし。
たとえ純也がノーマルでも、相手が野口君だったらアリってこともあるんだろうか。
両方、ってタイプもいるし。
私から純也に野口君の気持ちを伝えるなんて全く考えてなかった。野口君を裏切ることはできなし、そんなことを言ったら純也から嫌われるに決まっている。
つらい。
思い切って告白して玉砕しろ。
野口君に対し、そう思ったときチャイムがなった。
授業は何も頭に入っていなかった。
6時間目もそんな風にしてやり過ごした。夏休み直前で授業が進まないのが幸いだった。
帰りのHRが終わった途端、部活のことで用事がある由利を残し、超スピードで荷物をまとめて出口に向かった。速足で廊下を行き、下履きに履き替えて、のんびりと歩く、生徒たちの間を縫うように走って校門に向かった。
何となく早く学校から離れたかったのだ。
校門からの緩い坂をほぼジョギングの速さで下る。
もう前に他の生徒の姿は見えなくなった。
ああ、それなのに。
「篠田さーん」と背後で声がする。野口君の声だ。
なんで? 私が早く学校から離れたかったのは純也と野口君の顔を見たくなかったというのもある。
私は振り返らずに走るスピードを速めた。カバンが邪魔になって、胸のところに抱えるようにして走る。
横断歩道の青信号が点滅している。私はダッシュで道を渡った。
純也がアイドルのスカウトから逃れようとして走ったという話しを思い出す。私の場合、スカウトなんて絶対起こりえないんだけどね。
「ちょっと待ってよ」
道路の反対側で野口君が叫ぶ。
野口君は当然私が走るのを止めて待つと思ってかもしれない。でも止まってやらない。野口君に意地悪してやりたかった。
私はいつも偽善的かもしれないけど人に優しくしているし、故意に意地悪もしない。
しかし今は別だ。
何の話があるか知らないけどこまればいいと思った。
疲れてきたのでスピードを落とした。しかし走るのは止めなかった。
もうじき商店街だ。どこかのお店に入ればもう安心だろうと思い振り返えろうとしたとき、グッと肩をつかまれた。ワッと声に出してしまう。足、速いな、さすがサッカー部だ。
「なんで逃げるんだよ」
野口君は申し訳なさそうに腕を下ろす。
「話しなんてないんだけど」
「なんで怒っているんだよ」
「怒ってないし。ところで何か用事?」
きつく言ってしまう。合宿のことで野口君にイライラをぶつけるのは間違っているとわかっていた。でも野口君に優しい態度をとるなんて今は無理。
「緊急の用事でもないんだけどね。来月の花火大会、みんなでどうかなって純也とも話していたから。それで前に篠田さんがいたからさ」
「ほんと緊急じゃないよね」
「ごめん。ていうか何で今日は不機嫌なの?」
「べつに。ところで純也は一緒じゃないんだね」
「美術部の用事だって。コンクールの話しとか」
「ふーん」
純也は美術部もかけもちしていて、週一回顔を出していた。
「それにしても呼んでいるのにダッシュで逃げるのはないわ」
私は言い訳を思いついた。
「本当はね、野口君と歩くと水かけられると思って」
「水?」
野口君はわけがわからないという感じ。
「前に純也と歩いていたらファンクラブのコから水をかけられた。背中半分びっしょりで、下着の線もくっきりで腹立ったわ」
「まじ?ありえないでしょ」
「純也は野口君に言わなかった?」
「そういえばだいぶ前に篠田さんに悪いことをしたとは言っていたな」
噂にもならなかったのか。いや、野口君だったらそんな噂があっても目にも耳にも留めないだろう。
それに私のために3年の女子のところに行ったということは言わなかったのだと思った。野口君には知らない私と純也の秘密になる。
私はちょっと気分がよくなる。だから、野口君が
「そこのコンビニのイートインにでも寄ってく? 暑いしさ。大丈夫、俺、ファンクラブなんてないからさ」
と誘ってきたときOKしたのだった。




