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1:神は沈黙を貫く偶像でした

 溺愛とか、執着とか、そういったジャンルが好きだった。異世界で悪役令嬢に転生、とか、ありがちな展開を夢に見ていた。いい年のおばさんが馬鹿みたいに現実逃避して、実際にはいない架空の恋人を妄想して。生ぬるい羊水に使っていた頃から、私はなにも変わっていない。矮小な人間、愚かで脳たりんのモブA。

 でも、それも今日で終わった。死んだのだ。呆気ない最期だった。死因はトラックに轢かれたから、とかいう転生展開に繋がりそうなものではなく、通り魔に刺されたとかいう劇的なものでもなく、子供を助けたとかいう英雄的なものでもない。

 飛び降り自殺に巻き込まれて、死んだ。自殺した人がどんな人間だったのかは、全く知らない。赤の他人だ。ビルから落ちた重量のあるそれは、見事に下を歩いていた私に直撃。呆気にとられて、ひどい痛みを感じていたら、いつの間にか体が浮いていた。いや、幽体離脱したのだ。魂だけの状態で、私は死体となった自分の体を見つめた。それからまもなく、ぴゅーっと大きな力に引っ張られるようにして、私は空に吸い込まれていった。


 次に意識が戻った時には、五歳の子供になっていた。トラックに轢かれてもいないのに、転生してしまった。嬉しいというよりも、実感がわかない。さっきまで自分の死体を眺めていたのに、数秒であまりにも多くが変わりすぎた。

 絶句するほどの美少女でもなければ、笑っちゃうほどの不細工でもない。平々凡々。前の自分よりかはマシかな、くらい。中の中。日本人……というよりかは、フィリピンとかインドネシアとかの、東南アジア系の顔だ。


 でも、異世界だった。超能力者がいる世界だった。この世界は、大多数の超能力者のためにできている、非超能力者を奴隷とする世界だった。

 私はなんの力も持っていなかった。美人でもなく、能力者でもなく、平凡な脳みその子供。両親は私を疎んだ。あからさまだったけど、二人は弱小ながら超能力者であったので、当然である。この世界の常識から考えたら、むしろ殺されないだけマシだといえる。

 これが平時の転生物であれば、私はそのうちイケメンハイスペ男に昔助けられたとかこじつけじみた理由で好かれ、ざまあ展開と共に幸せをゲットできるのだが、あいにくこれは現実的なアブノーマル転生物であった。私にはイケメンとの出会いも突如覚醒する超能力もなかった。無であった。

 いっそ笑いとばしたいほどの悲劇だ。前の自分に言ってやりたい。死んで運良く転生できたとしても、現実なんてこんなもんですよ、と。


 前世の記憶がある分、他の奴隷の子供たちよりつらいことは少なかった。だけど前世必死に得た知識なんて、ここでは全く役立たない。法治国家だけど、その法はあくまで超能力者の為のもの。

 故に奴隷たちは人権フル無視倫理死滅弱肉強食暴力パラダイスの中を生き抜くしかなかった。そんな場所で、知識なんてあっても無駄である。

 知恵があるならまだしも、知識なんてあったって、腹の足しにもならない。ただしんどさが増すだけだ。良い暮らしをしていた経験があるせいで、他の子たちより現状をよりひどく感じてしまうという難点もある。


 昔は良かった……なんて思ったって、どうせもう戻れない過去の話だ。今更縋っても、腹の足しにもならない。うん、ホントに。お腹すいた。

 私はこの世界で特別美女ということもなく、体も貧弱で貧相。いたって普通の脳みそを持ち、更には非能力者。カースト的には野犬と同等といっていいだろう。

 奴隷として売り飛ばされ、今はヒステリック超能力女に飼われている。これでもそこそこ優秀な能力者らしく、灼熱を生み出せるそうだ。私もよく焼かれる。機嫌が悪いというだけの理由で。クソだ。

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