27話「魂の悲鳴」
「どうですか?開きそうですか……?私もやっぱり協力します!」
「いや!明梨さんにはたくさんお世話になったのでっ!このくらいはしないとぉぉ……」
アルが結界を破り入った後すぐ、結界の扉は閉じてしまった。なんとか外側から出入り口を作らなくてはと、明梨、エルダ、ミミは奮闘するがどうにも開きそうにない。
ミミは若干飽きているのか、しばらく日陰で休んでいるが、二人がかりで同時攻撃しても開くどころか透明な壁がうっすらと見えるようになるだけである。
エルダはとりあえず継続して力を入れ続けて開くか試しているが、やはり開きそうにない。
「ミミ……もう出れないのかな……」
「そんなことないですよ。大丈夫です。この先にきっと、アルさんが見つけてくれますよ。私たちはいち早くここを開かないとって……」
「ふんんん……!!ってうわぁっ!?」
ミミが呟く声に、優しく言葉をかける明梨。顔を上げてはやはり心配そうな顔をするミミに頭を撫でたその時だった。
障壁に、裂け目ができたのだ。
「わぁ!エルダ!すごいー!!」
「やりましたね!ここに力を込めれば……!」
「はぁ……えっへんですよ!これが衛兵の底力!!って……あれ?」
ミミや明梨が手を叩き、歓声をあげる中胸を張って誇らしげるに立つエルダ。穏やかな空気が流れる。
しかし、想像通りではなかった。その割れ目は少しづつ大きくなり、エルダが思わず苦笑いになってしまうほど、アルが開いた時よりも大きくなっていく。
「え、エルダ!こんなにおっきくなくていい!」
「わ!わ!わ!ど、どうしましょうこれ〜!まずい、まずいですよ……!」
その裂け目はどんどん広がり、それは見えないほど高くまで割れていけば、なんと空までも切り裂くように開いていった。
三人が空を見つめて、その光景に口を閉じれないまま、どうすることもできないのが現状だ。閉じることは、この大きさになれば不可能なのは明梨にもわかる。
「これ……エルダさんが込めた力じゃない……!こんなに開くはずが……教会にまで広がってます……!」
その大きさが、エルダが開いたものでもないことも明らかだ。だったら、その原因は間違いなくーーー
「ーーー内側……!アルさん達に何かあったのかもしれません!このままじゃ……」
「わわわ!!光ってるよこれ!!」
裂け目が広がり、空には亀裂しか見えなくなるほどになってくれば、目の前が輝きが生まれたのだ。
「ーーーっ!!!」
地面まで輝き出せば、一同は立っていたはずの土の感覚が無くなるのを感じた。
ーーー落ちたのだ、地面が割れ、光り輝く世界が崩壊していくのを感じる。
「わぁぁ!!なにこれぇぇ!!」
「ミミちゃん!落ち着いてください!!……あ!あれは!!」
どうやら明梨だけが落ちたわけじゃないらしく、ミミやエルダも落ちていくのを視線で理解する。エルダはなんとかミミを掴んで、抱きしめながら落下していく。
浮遊感に包まれて、気持ち悪い感覚から逃れたい気持ちが大きいが、それよりも目の前に映る男に安堵が先に生まれた。
ーーーアルが、同じく輝きの中で落ちていたのだ。
「神無月無唯斗!私たちはここです!!聞こえてますか!!!」
今出せる精一杯の声で、アルに向けて声を上げる。どうやって戻るのか……このまま進めば戻れるのか、保証は無いものの今はアルと合流することを考えたのだ。
だが、アルに向けていくら声を上げても、その視線は明梨達には向かなかった。その反応に明梨は違和感と、怪しい視線を向けた。
だが、明梨に返ってきたのは想像とは違うものでーーー
「ーーーっ!?」
ーーーアルの頬には、涙が流れていた。
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「どうすれば良かったのかな、なんて考えてる?正解はなかったよ」
ーーー僕にやれることは、なんなんだ。進んできた道が、間違えだったのか。
「ううん、違う。僕らは僕らだ。君の進むべきと思った道を、進むんだろ」
ーーーお前はずっと、心の中で否定していたじゃないか。僕の闘士と、殺意を。
「僕だって、間違えることがある。有村望を救うには、もっと簡単なことがあるんじゃないかと思ってたんだ」
ーーーそんなもの、存在するわけが無いだろ。あっても、僕にはわからない。
「戦う理由が、見つかったね。託されたもの、応えなきゃね」
ーーー夢を壊したのは、僕じゃないのか。きっと、僕の選択が正しければ……
「有村望も、死んでなかったのかな。正解なんてないよ。進んだ道が、そうなっていただけなんだ。道の隣に、僕らはいくつもの別の道……人生を、共にしている」
ーーーそれを、僕は壊さないようにしなきゃいけない。
「その気持ちが、僕が伝えたかったこと。でも僕もまた、君を少し理解したかもしれない。君と同じ感情が、僕の心に生まれたかもしれない」
ーーーお前は、誰なんだ。
「ーーー僕は、」
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「ーーーくっ!!」
輝きの空間から放出されたアルはなんとか体を回転させながら受け身をとり、その空間の裂け目が急スピードで閉じたのを確認した。
なんだったのかわからず、目を見開いたまま、周りの仲間の存在に視線が元に戻る。
「けほっ、どうやら現実に帰れたみたいですね……ミミさん、エルダさんも怪我は無いですか?」
「ミミ、だいじょぶ!アカリもエルダもだいじょぶ?」
「私も大丈夫そうです。それにしてもな、なんだったんですかあの空間……」
有村明梨、ミミ、そして衛兵のエルダ。三人とも埃を多少被ってはいるものの無事のようで、皆自分についた埃を払っている。
ここは校庭の中心らしい。自分達がワープゲートをくぐった後からかなりの時間が経過しているようで、空は暗く星を輝かせていた。
「みんな無事でよかったです。神無月無唯斗、あなたも無事で何より。小佑さんはどこですか?まさかワープゲートの中……」
「アル、なんで泣いてるの?」
ーーーその瞬間にそっと頬に感じる感覚、それに手を添えれば涙だった。
有村明梨の言葉に返事をしたかった。でも、その言葉へなんと言えばいい。今は目元に残る涙を拭くことしか、アルには思いつかない。
ただ、自分の感情の行き場は無かった。悔しさ、悲しさ、辛さ、全てが混ざったような感覚に自分は浸かってしまっている。
抜け出せない穴にハマったような感覚が、心臓を締め付けるのだ。
「……神無月無唯斗、答えてください。小佑さんは、最後にどこで見ましたか?あの先で何がーーー」
「ーーー死んだ」
「ーーーっ!?」
自分の口から出た言葉が、現実だった。俯くことしか出来ない自分が情けなくも、怒りが、自然と湧き出てくるような気がした。そんな震えた声が、今の彼の手一杯だ。
驚く三人、目を見開く明梨に、ミミは汗を流す。関係が浅いエルダすら、「そんな……」とつぶやくほどだ。
「……神無月無唯斗、もう一度聞きます……あの中で何があったんですか。アルビアですか?アルビアがなにを彼に……」
「ーーーアルビアが、僕の先にいた。奥義だ、先に全てを読んでいたアルビアが、そこに居て、僕を庇ったんだ。もう僕は、わからない……この感情すら、アルビアの範疇か?」
「アル……」
自分の感情の行き場は、どこなんだ。
庇った彼への冒涜になってしまうと、全ての行動が言っていた。今下を向くこの瞬間すら、アルビアの読みなのなら、アル自身はどうするべきなのだろうか。
思考は、止まっていた。時間の流れが長く感じるほどに、その世界は暗く染っていたんだ。
「ーーー前を向いてください、神無月無唯斗。あなたには下を向く権利も、時間もないです。それが例え、権限者でも」
「この感情はなんだ?有村明梨、あんたもこの感情が…………っ!」
前を向いた瞬間に見えたのは、月明かりに照らされた明梨だ。望のように、希望のように照らされた金髪が、風に乗って解けていけば、握り拳をこれでもかと力を入れて、噛み締める明梨が目の前にいた。
「立ってください、神無月無唯斗。…………私も悔しいです。悔しいに決まってるじゃないですか!さっきまで目の前にいた人、ましてや私に諦めるなと声をかけてくれた人が!殺されたのなら!悔しいに決まってます!!」
振り返る明梨は、怒りと共に涙を流して、必死にアルにその感情を投げ打つ。
その言葉に、アルは目を見開くことしかできない。
「でも私だって下を向く暇なんかないです!ミミさんも、エルダさんもです!私たちの感情の行き場がないなら、小佑さんの言葉を思い出して…………託されたじゃないですか!彼の無念を!夢を!」
「アカリ……そうだよ、ミミたちも……戦わなきゃ。悔しいまま、やだもん」
託されたもの、それは……
(ーーー全部頼んだぜ、アル)
その全てだ。何をしたらいいのかわからないのなら、彼がやりたかったことをすればいいじゃないか。そう、明梨は言うのだ。
「託されたなら、それを果たすのが私たちにできる小佑さんへの感謝です!だから下を向かないでください!立って……エルデ・アナストラル!!」
「ーーーーー」
そうか、そうなんだ。
彼への感情だったのだ、自分がなんなのかすらわからないこの感情は。どこへ向ければいいのか、アルビアだけか自分もなのか分からない気持ちは。
なら、果たすべきは自分の運命と……そんな道の隣にいる、彼の運命。
アルは、その場からゆっくりと立ち上がった。涙を拭いた明梨やミミが心配そうに見つめる中、アルは口を開けば、
「ーーーミミや明梨は休んだ方がいい。明日は戦だ。何がなんでも戦わなきゃいけない。だから、学園の配給やらで食事を済ませて休め。エルダはできるだけ教員たちに明日のことを伝えろ、いいな」
「神無月……無唯斗……あなたはやっぱり、権限者です。どこまでも、あなたは想像を超えてくる」
アルは一歩一歩足を進めて、ゆっくりと前を向く。背中姿を三人に見せては、明梨は微笑む。アルの今の感情と、意味を理解したから。
「アル……大丈夫なのかな?なんか、さっきとまた変わっちゃった……」
震えるミミの手を握る明梨と、心配しながらアルの背中を見つめるミミ。
一瞬で自分のやるべきことを同時に理解した明梨は強くミミの手を握りしめる。
「大丈夫ですよ。私たちがするべきことはしました。それにあの人は、また立ち上がれます。妹の話は……本当でしたから」
「はなし?」
「望、彼が人のために立ち上がれるから……その夢も託したんですよね」
その暗く染まった世界で、明るい光に背中を押されたアルは、
「ーーー絶対に無に導いてやる、アルビア」
決意へと、変わっていた。
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