24話「進むべき道」
「……アルビアの狙いは僕自身だ。僕がアルビア軍に入り、秘宝を渡す。そうすればなにもしないと言っていた。もし、入らなければーーーー学園の人間の命全部を使って無理矢理秘宝を錬成するらしい」
アルは小佑が起きたことで、同時に焦りが表面的に出ていた。
自分が戦う理由、そして迷いの謎がアルの中ではわからないのだ。捨てればいい、自分だけ生き残ればいいと思っていたはずの人生に、なにが邪魔しているのかわからなかった。
「なるほどっ、つまり……アルビアとはどの道戦わないといけないってわけですね!」
「まて、それはどういうーーー」
「ーーー『無』の権限者が、頷くとは思えませんから!」
ただ、この少女は青ざめるどころかさらに身を構えたのだ。
エルダはその言葉と共に、剣を鞘に入れ、身だしなみを整えていた。
アルは勢いよく振り向けば、アルの言葉を聞いた一同は、ただ一人を除いて青ざめた顔をした。当然だろう、不安や仲間が殺されると言われているようなものなのだから。
自分の感情にも理解が追いつかない。
「……何に迷ってんだよ、アル。お前まさか、アルビア軍に入るのかよ……?」
「そんなわけないだろ、でも……アルビアは僕の望みはなんでも叶えると言っていた。でもなんで、なんで僕はその提案に頷けないのかわからないんだ……殺す対象としか見てなかった人間を守ること、何でそんなことをしたのか……」
アルには、わからなかった。
強くなるための一つ、自分を理解すること。今まで殺してきた者は、みんな神無月無唯斗を受け入れず、有村望を見殺しにした世界の住人。それはアルにとって恨みでしか無かった。
「有村望が僕に望んだものはなんだ……?僕が進む道はどこにある……?この血塗れた手で守るものは、それを受け入れてくれるのか……?」
でも、有村望が本当に恨んでいるのかも、わからなかった。
誰かを殺そうとする度に疼く胸の内側、そして巡り会えた仲間に、自分と同じ道を進み続けたアルビアの存在。
アルは、このまま秘宝を手に入れ、目の前の存在を守らなくてはならない『理由』が、欲しかった。
理由がないなら、アルビアと進む道というのは変わらない。別に秘宝を手にすぐさまこの場を去ればいいのだ。
「ーーーっ!!アル!!うじうじしてんじゃねぇ!戦う理由なんて!もうはっきりしてんだろうが!」
「……っ!?」
アルが迷いの言葉を並べ、下を向いていれば、目の前から小佑が勢いよく壁にアルを押し付ける。
必死な顔が、アルを理解させようとする小佑が、目の前にいた。
「戦ってる理由!?コロシアムの時も、その前からも、アル!お前は『誰か』のための戦いをしてきたんじゃないのか!血塗れた!?お前は俺の昔を見てるみたいだ!」
「……昔だとっ?」
「俺もな!昔傷つけた奴がいる!そいつは俺に血を塗ったさ!でも、そんとき母ちゃんが言ってくれたんだ!
ーーー強いやつは!弱いやつを守る使命がある!!それは自分も!全く知らねぇ誰かでもだ!『誰か』のための戦いをしなくちゃいけねぇんだよ!」
「…………っ」
小佑は、自分が自殺まで追い込んだクラスメイト、そして母親の姿を写しながら壁に押付けたアルに必死に言葉を向ける。
小佑の母親が、小佑に教えてくれたこと、それは強者の責任なのだ。
後ろにいるエルダも、はっとしながら、アルは言葉を並べることが出来ない。
「その力がたとえ血濡れてても、人はやり直せる!その血だって、誰かに拭いてもらえるんだよ!俺はお前の気持ちはわかんねぇけどその『誰か』に俺たちがなったから、アルは俺たちが大切になったんじゃないのか!そうだろ!」
小佑は、アルを押し付けながらも、睨むようにアルへ視線を尖らせていた。
アルにとって、目の前の人間というのは有村望と同じ、大切なものになったのだ。
だから、捨てられなかった。殺せなかった。戦う理由ーーーそれは、自分にしかできない目の前の者たちを『守ること』だ。
「誰彼構わず殺すんじゃなくて、権限者にも悪くない奴もいるって……教えてくれたのはお前だろ、エルデ・アナストラル……」
小佑の手はゆっくりと、力が抜けていき、同時に震えながら手を離していく。
アルは、見開いた目が元に戻らない。それは、目の前の者たちが自分にとっての戦う理由になっていたと初めて自覚したからだ。
「……君たちは、有村望じゃない……」
「ーーー私にも、学園に守って欲しい少女がいます。私のことを救ってくれた、女の子が」
「ミミも嫌だよ!アカリも!コスケも!エルダも大切!!」
「わ、私にも、学園に同級生がいます……私一人じゃどうにもなりません……」
それぞれの者が、守りたいものと戦う理由があった。それに加えて、皆がアルへと向ける視線は救いの手を求めるような目線であった。
「はぁ……あなたにお願いなんてする時が来ると思いませんでした。私の大切なもののために、アルビアに一緒に抗ってくれませんか。私たちも、あなたに頼りきりではなく、もちろん抗います。でも、どうしても必要なんです。これを理由にすれば、あなたが納得いく結果が生まれますよね?お願いします……
ーーー私を助けてください、エルデ・アナストラル」
それは、明梨が伸ばす手。涙目と共に、心から伸ばす手は、アルビアに抗うためには必要なアルという少年を求める手であった。
片手を心臓の位置に置き、今まで無かったアルを正面に見つめる明梨。だがそれだけではなく、ミミやエルダも抵抗はありながらもやはりアルに頭を下げていた。
こんなことは初めてで、動揺でアルは後ろに一歩引きながらも、
「俺らからはこの通りだよ。アル、逃げないで俺らと一緒に戦ってくれ!」
「……っ!?き、貴様らが死んでも僕は関係ない……こともないかもしれない。確かに……小佑の言う通りかもな。僕なりの道か……」
小佑も頼むように頭を下げていけば、アルはその前に手を取る。
自分が進む道ーーーそれがこの瞬間に決まったのだ。
「……というか取るしかないだろ……」
「ーーー!アルー!」
「ぐあっ!ちょ、ミミっ!やめろバカが!」
手を取った瞬間にぱっと明るくなったミミがアルの足に飛びつけば、その音と共にみんなも頭を上げ始めた。
「ひひっ、アルー!」
「いいから離せ!くそっ、こんな奴を守るなんて……」
「まぁいいじゃねーかよ!なっ?」
小佑が肩に手を添えて、にっこりとすれば、アルは嫌な顔をしながらも、ミミを払うことはなかった。
なぜなら、『誰か』のための戦いが今決まったのだから。
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「で、どうすれば現実に帰れそうですか?ヒント、ありましたよね」
なんとかみんなが落ち着いて、教会から離れたアル一行は、来た道を引き返していた。
それはもちろん、あの黒服の男ーーージェノスの言っていた言葉の通りだ。
「あぁ、『入ってきたことの逆』だ。つまりーーーこの一本道を引き返すこと」
「と言ってもなんにもありませんよ!私たちはここに飛ばされて〜」
エルダの言う通り変化はない。でも、アルが飛ばされたのはさらに先だ。止まることなくその一本道を歩いていく。
「アルはこの先から来たよな?病み上がりに歩かされるなんて思ってもなかっーーー痛っ!?」
「小佑さん!?って……なにしてるんですか?」
「違ぇんだよこれ……おい」
小佑が先頭で揚々と歩いていれば、唐突になにかに追突した。ぶつかった小佑は、後ろに倒れるが、それはどうやら演技じゃないらしい。
「まて、僕が触れるーーー」
アルが触れてみればそこには、
ーーー見えない壁が、ゆっくりとアルの手を止めた。
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