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最終.5話 決着

 まだ目を覚まさない配下くんの胸で、新人さんは泣き続けている。


 それを親切屋さんと、受付さんと、騎士さんと、バーンズおじさんと、回収人さん、そして狩人さんや冒険者たちまでもが見守っていた。


 もう誰にも敵意はない。


 全てが丸く収まるように時が過ぎていく。


 だが、こういうときに台無しにするのが狩人さんなのだ。“実際にこれから台無しになる”。


 厳密には、狩人さんの隣で死人ほどに顔が真っ青になっている執事くん(若い方の執事)がやらかしたのだが。


「……あ……あの……ティア様…………」


 狩人さんは、ただならぬ雰囲気の執事くんを見た。執事くんは、もう泣き出しながら言葉を続けた。


「あの……ですね。勇者が……魔王に寝返ったって……そう……そう思ってですね……?」


御託ごたくは結構ですの。結論を言ってくださる?」


「…………例のアレ…………起動させちゃい……ましたぁ…………!」


「………………」


 狩人さんはその報告を受け、執事くんが例のアレを起動させてからどれくらい経ったか指を折って数え、5を数えて作った拳で執事くんの顔面を殴り抜けた。


「何をしやがってございますのッ!? すかぽんたん! おたんこなす! ピンボケ!」


 やたら古い罵倒やその取り乱しように、全員が狩人さんへ注目した。


「か、火薬馬鹿。おい。なんだ。そいつが何をしたって?」


「疑似EX[]システムを応用した、“この町をぶっ飛ばせる爆弾”ですわ! あと30秒で皆死にます! こん畜……お家畜!」


 あと30秒。


 もはや冷静さの欠片もない狩人さんの言動。それはその場にいた人間をパニックへ陥れるにはあまりにも効果的だった。


「どぇええええええっ!? なにやらかしてんですかぁあああっ!!?」


 回収人さんが叫ぶのと同時に人々の感情が爆発した。


「誰か止めろ! 止められるだろ馬鹿姫ッ!」


「死にたくなぁい! 死にたくなぁあああああい!」


「うるせぇえええ!」


 あと25秒。


 受付さんは子供たちがパニックになった冒険者たちに巻き込まれないようにと走りだした。


 騎士さんはどうにか止められないかと狩人さんと執事くんと協力して爆弾を見始めた。


 回収人さんは親切屋さんが生き残った安心感と絶望のやけくそに身を任せ、親切屋さんへありったけのキスをした。


 親切屋さんは回収人さんにキスされながらも使えるものがないか探し始めた。


 一方、バーンズおじさんはおろおろしていた。


「なんっ、なんか、なんかできねえの!?」


 何をし始めればいいか分からなくてあたふたするバーンズおじさん。


「んむ……オレのEX[]システムでどうにかできるかもしれません!」


 親切屋さんはキスを回避しながら説明する。


 あと20秒。


「EX[]システムってなぁに!?」


「武器や道具を強烈に強化する魔法です、ミスター・バーンズ!」


 騎士さんが早口で答える。10秒弱見ただけでも爆弾が解除できなさそうだと分かり、かなり焦っていた。


 焦っているのは親切屋さんもだった。“周りに使えそうな道具がない”のだ。


 あと15秒。


 たったそれだけ後で、皆が死ぬ。


 そんな絶望と焦燥の中。


 皆が生き残るアイデアをふと思い浮かべたのはあの男。




 そう――――バーンズおじさんだ。




「それ、おれに使え! 投げるっ!」


「え――」


 親切屋さんが呆気に取られる。


 この技術は人間に使うことを想定されていないし、実際に人間にEX[]システムを使ったことなどない。


 だが、迷っている暇さえなかった。


「――分かりました!」


 猛烈に抱き付いてくる回収人さんをそっと避け、バーンズおじさんへ向かった。


 それと同時に話を聞いていた騎士さんが爆弾を持って駆け出した。


 あと10秒。


「システム! EX[バーンズ]、起動ッ!」


 親切屋さんの掛け声と共に、親切屋さんとバーンズおじさんが金色に輝き始めた。


 あと5秒。


「で、どうすんの!? これでいける!?」


「もう投げてください早く!」


 あと3秒。


 ちょうど来た騎士さんがバーンズおじさんへ爆弾をパスした。


 キャッチしたバーンズおじさんは、天井の穴に狙いを済ませる。


「――――必殺・爆弾投げだドリャァああああッ!」


 あと1秒。


 バーンズおじさん史上かつてない気合い。全身の使える筋肉という筋肉を強烈に収縮させて放つ渾身の投げが、伝説のエンチャントによって強化された。


 その投げ。


 まさに、必殺。


 爆弾はライフルさえ比にならない加速度で急激に加速し、音速を遥かに超える亜光速で放たれた弾丸だった。


 その衝撃で爆発するより早く、爆弾は空の彼方へ消えた。


 爆発は、それだけ離れてなお二つ目の太陽として輝いて、消えた。


 親切屋さんとバーンズおじさんの輝きも消え、親切屋さんが床へと倒れた。


「うおっ!? 親切屋クンどうした!?」


「ご安心をミスター・バーンズ。EX[]システムの使用後は三日間、眠ってしまうのです」


「え? あ! ……じゃああんとき寝てたのも。……そー……いうことだったのねぇ~……」


 どっと来た疲れに、バーンズおじさんがへたれこんだ。それを合図にしたように、周囲の人たちはみん

な床に沈んだ。


 一方、回収人さんは勢いでしてしまったことの恥ずかしさと、生き残ってしまったという不都合で誰よりも早く轟沈していた。


「なんだよ火薬馬鹿。慌てて損したじゃねえか」


 子ども二人を担いで受付さんも来た。


「ごめんあそばせ。爆弾の一件に関しては私どもの不遜が招いたことですの」


「一件、か。色々とやらかしちゃいるが、オレが言いてえのは一つだけだ」


 受付さんは子どもたちを下ろし、狩人さんに向かい合う。


「“もう一度、この場で投票をやりやがれ”。親切屋をどうするかのな。ここにいるのは親切屋がどういう奴かを見た連中だ。何も知らねえような奴らに任せるよりフェアだろ、お姫様よ」


 狩人さんさんはただ、頷いた。

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