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蛇に転生しました。勇者か魔王になろうと思います。  作者: 松明ノ音
【駆け出し編】少年は冒険者になった。
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冒険者ギルド『トラノス』





 ――王都の冒険者ギルド『トラノス』――



 入って来たのは、一人の少年だった。


 褐色の肌に白髪の、年の頃でいえば十歳くらいに見える少年。


 ウェーブかかった白髪から覗く赤い瞳の二つの目は大きく、子どもっぽさを助長している。


 よく見れば、褐色の頬にはうっすらと鱗が見える。衣服で隠れて見えないが、全身にもあるのだろう。


 ギルド職員だけでなく、冒険者たち全員の目が集まる。みな知っているのだ。


 亜人が昨日勇者認定を受け、特例としてギルドに登録させるのだと。そして今入ってきたのは、その亜人の少年なのだと。


 おそらく彼を見に来た冒険者たちも多いのだろう。朝のこの時間にしては、いつもより人が多かった。最初から絡もうとして来た者も複数いる。事実、どのようにからかって追い出してやろうかという算段を立てていた者も、さっきまでいたのだ。


 それでも誰も声をかけられないほど、蛇亜人の少年は自然に入って来た。恐れもなく、怯みもせず、向けられる悪意など我関せずというように。


「登録をお願いしたいんですけど!」


 銀髪を後ろで知的にまとめ上げた、細い銀フレーム眼鏡の受付嬢は少し驚きながら、


「あ、はい」


と応えた。あまりにも普通に声をかけられたので、普通に書類とペンを取り出して渡した。


 身長は150センチくらいだろうか? あごが机より少し高い程度なので、背伸びするように身を乗り出して書類を書き出した。


 銀髪の受付嬢ヒナ・シルバは、その様子がかわいらしくクスリと口元を綻ばせた。


 ギルド内の男たちが、騒然とする。クールビューティな外見と性格で、淡々と仕事をこなす彼女は冒険者の中でも高嶺の花だった。何よりお堅いスーツの上衣を大きく膨らませる双丘に、隠されているがゆえに男たちは興味を強くそそられていた。


 数十人の男に口説かれても、決して小さくも笑わなかった彼女の笑顔を見て、男たちはどよめいて我に返った。


 それが気に入らないということもあっただろう。


 書類は簡単なもので、すぐに少年は書き終えて受付嬢ヒナに渡した。


 そのタイミングでドカ、という必要以上に大きな音を立てて、椅子が褐色白髪の少年の方へ蹴られた。


「何?」


 少年は椅子を見もせずに右手で払いのけた。ゴトン、と行き場を失った椅子が床に落ちる。


「ここは弱っちい亜人が、来ていいような場所じゃあねぇんだよ!」


 椅子を蹴った男が、受付へと肩を怒らせながら歩み寄る。


「へぇ? 強い亜人だったらいいの?」


「あぁいいぜ? 俺より強かったらなぁ!?」


 男は2メートル近くあっただろうか。筋骨は隆々として腕は太い木の幹のようだった。頭髪は黒のモヒカンで、人相は世紀末である。


 名はザケ・シンヌ。Cクラスの《重戦士》であり、素手でもその筋力はこのギルドで十指を争う。


 ご自慢の大剣は使わず、裸拳で殴り掛かったのは『喧嘩可、殺害不可』のギルドのルールに則ったからだろう。


「じゃあ僕は、来てもいいんだね」


 そう言って、常人なら当たれば死にそうな拳を避けながら両手を動かした。


 目にも止まらないほど速い動きは、ギルド内の者には一秒ほど褐色の両腕が消えたように見えた。


 ザケが白髪の少年を通り過ぎたあとでも、本人は気付かなかったようで、


「あぁ? 上手く避けるじゃねぇか」


と振り返り、掌と骨しか残っていない両腕を上げて構えなおした。


 自分の腕からの出血で気付いたのか、見たこともない自分の白骨を見て気付いたのかは定かではない。


「へ。は? は!? ぎゃぁぁぁああ!」


 叫び声を上げながら、探し物をするかのように諸手を上げてうろつきだした。


 両手で何をやったのかは分からないが、少年の掌と足元にはザケの肉片が散らばっていた。


「いで、痛ぇ、いでぇよぉ。返せ、がえせよぉぉお!」


 それを見て取ったのか、ザケは再び少年に襲い掛かった。肉のない腕でどうするかも、肉片をどう腕に戻すつもりだったかもわからない。


 結局は足元を蹴りで薙ぎ払われ、顔から前のめりに倒れて意識を失った。痛みのショックだったのか、顔の強打で脳を揺らされたからかはわからない。


「でー、他に認めないっていう人はいるの?」


 それらの疑問はどうでもいいことであるというように、白髪のウェーブがかった髪を揺らしながら、少年は赤い瞳で周囲を見渡す。


 今にもケラケラと笑いそうなくらいには、楽しそうだ。


 亜人に馬鹿にされたからか、それとも少年にコケにされたからなのか、周囲の男たちは顔を赤くして立ち上がった。


「来なよ? 雑魚ども。二度と亜人に喧嘩売りたくないって思わせてあげる」


 ついには顔を上げて哄笑し出し、それを見た男たちは一斉に襲い掛かった。





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