今日から冒険者!
夜の宿。王城で抜いた一本の髪だった白蛇が、戻って来た。
色々と食べて来たのだろう。髪の毛程度の細さだったものが、体長40センチくらいの、僕が生まれた頃くらいの大きさになっている。
「……おかえり。どうだった?」
蛇はチロチロと舌を出して、僕に報告する。蛇語、といえるものかはわからないが、意思疎通は出来る。
「そう。これから先、情報は得られそう?」
またチロチロと伝える。
「……わかった。じゃあもう殺してきて? 君は大きくなりすぎたから、一匹潜伏で連れて行ってほしい」
そう言って僕は、髪の毛を一本抜いて絡ませた。蛇は頷きつつ、窓から出て行った。
ヒジカが死んでから――僕がヒジカ・トージスになってから、僕は髪を短くした。僕の白髪は全て蛇なので、切ったりはしない。
短くなってくれるよう頼めば、短くなってくれる。ウェーブがかったようになってくれるように頼めば波打ってくれるので、パーマいらずだ。
便利だが、今日の式のように感情が抑えきれない時は、勝手に蠢きだす。
今僕の白髪は、肘まであったストレートだったものが、首筋までの短髪でウェーブをかけた髪になっている。いつでも《邪眼》が使えるよう、前髪は左に流して額は出している。
ゴーゴンの少年に《存在進化》して《蛇の支配者》の称号を得ても、相棒のように蜘蛛が集まってくることはなかった。代わりに、髪の蛇を操れるようになった。
頭から離れて色々と食べて大きくなった蛇は、髪の毛には戻せない。出回って有益な情報があれば、伝えにくるように指示して野放しにしている。
絡ませた新しい蛇には、式でうるさかった貴族の家に潜んでもらう。死後、何か情報が得られることもあるだろう。すでに大きくなった蛇では潜みにくい。
色々働いているからと、僕はベッドに寝させてもらっている。ソージはソファ、3メートル近いイッサは体が入らないので床で寝ている。
早く稼いでイッサも寝れるベッドを確保した、しっかりした拠点を作りたい。
そのためにも、明日からはギルドで稼がなきゃいけない。
しっかり働くために眠らなきゃと、横になって意識を手放した。
「おはよー」
「おぅ! おはよう!」
「おはようです」
一番朝が早いのは、イッサだ。
僕とソージはいつも、イッサの朝の準備で目を覚ます。
「今日から冒険者ギルドだな! 実は、けっこう楽しみにしてんだ!」
まだ寝起きで頭が働かない僕は、うん、と曖昧に返事をする。
「……ま、イッサさんと同じく俺も楽しみにはしてるんですが――、色々面倒もあるんでしょ?」
僕よりもソージの方が、寝起きはいい。僕はまだ、そだねーとしか答えられない。
王都までの町でギルドを数件見て来て、そこで隠れて何人かに《鑑定》もしてきた。僕たちが歓迎されることはないことは、わかっている。
原則として亜人は本来、ギルドに登録さえできないのだ。ヒジカ・トージスが勇者だから僕達のパーティは特別に登録できている。
「どうするつもりなんだ?」
「んー。殺しはしないけど、何人かには冒険者は引退してもらうねー」
少しイッサは怯む。この人は、元々が善良すぎる。ソージは何となく、そうなるでしょうねと理解している様子だ。
とりあえず、ベッドから降りて顔を洗い、三人で宿屋の一階の食堂に向かった。無課金ユーザー服では舐められるだろうから、水色の軍服に着替えている。そろそろ服も買いたいところだ。
店主は僕が勇者だとは知っているし、別の町から来る亜人も、少ないだろうがいるはずだ。慣れているのだろう。
客の何人かが嫌な目線を送るが、無視する。見せしめに残虐行為をするにしても、被害は最小限に止めたい。
「「「ごちそうさま」」」
食事を終え、三人で席を立つ。長居したい場所でもない。
「このイヤ~な視線も、いつかは無くなるんですかねぇ?」
「無くさせるさ。そのために、俺たちは頑張っていくんだろ?」
イッサさんは、身体の大きさだけでなく心も言葉も英雄らしい。この人が勇者でいいんじゃないかと時に思うし、その方が上手く回る気さえする。
もちろんこの人柄は、使わせてもらうつもりだけど。
「そうだね。じゃあ僕たちの第一歩として、ギルドに登録しにいこう」
出来るだけ、流血が少ない一歩目になるよう祈りながら。




