表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/126

【閑話ー蜘蛛の少女(1)】




 相棒と別れて、何回星を見たやろうか?


 相変わらず《南の森》の中、美味いモンを探して朝日の左側へ進んでいる。


 知らん間に条件を達成しとったんか、相棒と別れて魔物をもぐもぐしとると、すぐにアルケニー(少)に《存在進化》した。


 顔が丸っこい形から、わずかやが面長になった。胴や手も長くなり、成長したんやと実感する。黒く長い髪も艶を増した気がする。


 胸の辺りが、何故かわずかに柔らかく膨らんだ。弱点になると思ったので《蜘蛛巣》で覆った。


「なぁスカー? どうしたらええと思う?」


 スカー((きず))と名付けた顔に疵跡の残る蜘蛛は、白く丸い目の付いた頭を首斜めにを傾げる。


「はぁ」


 ため息を吐く。いち早く追いついてくれたのは嬉しかったが、無口なのが困りもんや。身体での意思表示で言いたいことはわかるが、蜘蛛語でも念話でも話さない。


「相棒にはフラれてもうたしなぁ。うちの何がアカンかったんやろ?」


 スカーは、わからないというように首を横に振る。


 草むらから、ガサガサと音がした。そちらを見やれば《牙虎》が剣のような牙を剥いて、呻り声を上げた。


 動き出そうとするスカーを、頭の右にある三つの眼で制止し右手を横に振るう。


《牙虎》は跳びかかってきたが《斬》属性の細い《蜘蛛巣》により、コマ切れになった。今のこの細さでこの《斬》の斬れ味なら、相棒も察知さえ出来なかっただろう。


 あの頃の相棒ならば、やが。今の相棒はまた色々な物を喰って、さらに強ぅなっとるやろう。


 スカーは、一番前の手でカチカチと鳴る拍手をする。無口なのに、反応は多い。こいつのキャラいまいちわからへん。


「この姿になってよかったんは、出来ること増えたことやなぁ」


 蛇の相棒は「手と指」と呼んでいた。蜘蛛の爪は二つを使って挟み、持ち上げたり寄せたりしかできなかった。「指」は掴んだり、骨に付いた肉を千切ることも出来る。


 骨の近くの肉は美味い。「舌」も「唇」も便利や。器用に肉を骨から噛み取りつつ、指に滴る虎の血を舐めとる。口の周りの血や体液が不快やったから、腕で拭った。スライムを見つけたら、口をゆすいで腕をすすぎたい。


 森の深さは十二層に入って、魔物の強さも美味さも上がっている。その分、うちも強なっとる。


 しかしそれもわからず、襲ってくる魔物も多い。喰うにも余ってしまう。


 わきまえたように《牙虎》の喰い残しをスカーが《蜘蛛糸》で器用に包んで、背負う。ウチとスカーのおやつになる。


 包むスピードは速く、スカーの《操糸》が高いレベルにあることがわかる。それを見とめて、さらに北へ進む。


 下半身の蜘蛛も大きくなり、六本の脚は頑丈になっている。今や《牙虎》くらい、糸を使わなくとも爪と牙だけでも勝てる。相棒のお陰というか、相棒のせいで強くなりすぎとる。


「……本能、なんかなぁ?」


 相棒と共に、森の外に出ようとは思えんかった。美味いモノが欲しいとは違う理由で、ウチは朝日の左側へ向かわんといけん気がしとった。


 何だかんだ甘い相棒のことやから、ウチも着いて行きたいと言えば困った顔をしても、嫌とは言わんかったやろう。それでもウチは、そうは言えんかった。


 ウチと相棒が珍しいんかと思っとったが、そうでもないらしい。生まれ育った層で強くなった他の魔物たちも朝日の左側へ、森の中心に向かっとった。


 命を一番に考えるウチら魔物が、何故危険に向かうのか。まるで光に向かいたくなるような、抗えん走性のようやった。


 ウチの恋心とは別にしても、相棒は明らかに普通の魔物と違っとった。違うモノを見とった。その結果が、森を出るという選択やったんやろう。


「お前は、どう思う?」


 スカーはいつも通り丸い瞳をこちらに向けて、無言でカチカチと爪を鳴らして首を傾げる。わからないということらしい。ちょっとかわいい。


 何にしろ、ウチが何かに操られて森の中心に導かれとるんなら、気に入らん話や。それさえ解決してしまえば、相棒を追って外に出ることも出来る。それを放って外に出るんは、出来ひん。


 そんなん、ウチの《傲慢》が許さへん。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ