四人の狩り
「俺たちはいつも通りやってみるかラー、とりあえず見てみてくレ」
そういうヒジカに、僕はうなずいた。
まずは狩れる魔物を全員で探す。危険なのでひと塊になって動く。見つけたら周囲を警戒しつつ散開して、狩りの開始だ。
……この辺りは、木が細いんだね。それにずいぶんと低い。
陽光も普通に枝葉の間から入って来る。僕が生まれた場所よりさらに、木々の弱肉強食は穏やかなのだろう。
さすがに三人の身のこなしは悪くはない。しかし、悪くない止まり。
危険を察知しようとする警戒心と、獲物を探す目線のバランスは悪くない。ただし、能力がどちらも半端だ。
一時の方向に70メートル先、一頭の鹿らしき気配がある。十時の方向には犬、三時の方向に馬が二頭。狩りの対象じゃないだろうけど、七時の方向には鳥が低空飛行している。
認められなければ恩返しもできないし、ヒジカの勇者一行には入れてもらえないだろう。ただ、能力を全部見せて魔物だとバレるのは最悪だ。
悩んだ結果。
前世の知識から、見た目は子どもな彼を引っ張り出した。
「あれれぇー? 左前の方で、何か動かなかったぁー?」
……うん、これ辛い。
気をしっかり持つんだ、僕。
きっとコ〇ン君は、アイちゃんに見られながらこういうことをやってきたんだから……!
「何……!?」
反応する三人。その中で察知能力が高いのはヒジカのようで、最初に気づいた。
「確か二……。あれは、犬か」
鹿や馬は、攻撃性は低そうだった。なら最初に狩るべきは、犬だ。
「始めようカ、いつも通りに」
そう言って、ヒジカは右に、ソージ君は左に分かれた。
「俺の後ろについて来いよ? この中じゃ、俺が一番守りに強い」
さすがにイッサさんも、狩りの最中は小声だった。二人が歩を進めるのに対し、イッサさんはその場に留まった。
……なるほど。追い立てての、挟み撃ちかな。
両脇に進んだ二匹は、歩きながら徐々に獣度を高めていった。
見えなくなるころには、完全な狼と狐。
獣度が上がれば、戦闘力も上がるのだろう。ヒジカは、今まで見た《魔狼》のどれより大きく、強そうだった。
ソージ君も、狐にしては体が大きく爪と牙は殺すのに適した形をしている。正直、二人を低く見積もっていたと反省する。
タイミングを見計らって、獣度の低いままイッサさんは前進する。
僕はその後ろをついていく。
それにしてもこの人本当デカいな。
僕の姿はイッサさんの身体ですんなり隠れて余りある。背中に背負った大剣は僕の身体くらいありそうだ。
「行くぞ」
独り言のように呟いて、イッサさんは走り出した。ガサガサと草の音が鳴るのも気にしない。
巨体の割には、速い。あくまで巨体の割にはで、ヒジカやソージ君に比べるとずっと遅いのだろうけど。
「獣化ぁ……!」
押し殺したようだが圧のある声でイッサさんが言うと、身体が膨張したように筋肉で太くなる。徐々に腰から曲がっていくとともに、圧が大きくなる。
視界に入る段になって、犬はこちらに気づいた。
「動くな」
僕に対してではない。イッサさんは殺気を放った。瞬時に逃げようとするはずの犬が、一瞬背筋を伸ばして動けなくなる。
声は聞こえるはずもない。それでも伝わるものがある。
持続はしない。我に返った犬はこちらを正面から見て、離れようと周囲の様子をまず探る。そこで、また身体が強張った。
右から狼が、左から狐が迫っているのを感じたのだろう。ゴリラを含めた三点が成す三角形の中心に、自分がいることも把握したはずだ。
一瞬立ち止まり、ゴリラと狐の間から逃げようと走り出した。
理想的な逃げ道だったろう。素早い狐から少し遠ざかり、ゴリラの足の遅さを考慮したような進路。
イッサさんとソージ君の二点でできる線を通る直前、犬は最大速度に乗った。
僕が跳んだ。イッサさんを跳び越えて、一っ跳びで犬の元まで。
最大速度に乗ったということは、自分の身体のコントロールがしにくいということだ。
犬は横からそっと押すだけで、派手に転んだ。
そこに狐が追い付いて、転んだ犬の前足に噛みつく。ソージ君は速度は速いが、攻撃力は低いようだ。まだ犬は暴れている。
ずっと走ってきていたのだろう。その時到着したヒジカが首を骨ごと噛み千切った。
……ちょっと驚いた。
僕の蛇としてのの《突貫LV4》は速い。第六層の魔物たちでさえ、避けられないほどに。
僕より近かったとはいえ、跳んで倒した犬にすぐ追いついてきたソージ君。速すぎるだろうよ。
そして鋭利な刃物で斬ったように、一噛みで頭と体を分断したヒジカ。断面を見れば、本当にスパッと平らになっている。
ゴブリンを倒せるくらいの強さと見積もっていたけど、得意分野は第六層の魔物たちにも匹敵しそうだ。
「お、捕まえたみたいだな! しっかし速ぇなぁ!」
一番驚くべきは、今合流したイッサさんだ。さっきイッサさんの背中から、前に跳び出た瞬間に感じたもの。
殺気と、覚悟の圧。歯向かうことは許さない。ここは絶対に抜かせない。
その源は僕たち三人を守ること。相棒が、僕を護ろうとしていた時の気負いに似たものを、制御して発することができる。
僕の知らない何かのスキルを持っていることは、間違いない。きっと高位のもので、勇者を護るためのものだ。
「本当にびっくりしタゼ……。すげぇ跳躍」
とはいえ、僕以上に三人の方が驚いているようだった。拾った蛇亜人の小さな子どもが、高い戦闘力を持つと自負する自分たちより速いとは思っていなかったのだろう。
「僕もびっくりした……。なんか転ばせるくらいはできそうだと思ったから動いちゃったけど」
とりあえずとぼけておいた。パワーは無い短距離のスピードだけの男と、思ってもらうくらいがちょうどよさそうだった。
《あざといLV1》が《あざといLV2》に上がった!
……うるさいなぁ。
「俺より速い人、初めて見ました」
ソージ君も、スピードには自信を持っていただろう。しかし、僕が唯一敵わないものを持っているのもソージ君だ。
ヒジカの、刀で断ち切ったようなスパッとした切り口で噛み千切ることはできないが、殺すだけなら《破砕牙LV4》で僕も出来る。
イッサさんのような特別な圧は持たないが、止めるだけなら《恐怖の邪眼LV2》でも《麻痺の邪眼LV2》でも出来る。
ただ蛇たる僕は、走るのが遅い。飛びつく速さなら自信はあるが、狐の姿で駆けるソジ君に中距離走では負けるだろう。
飛びつくのを繰り返す《稲妻蹴り》も、三回しか方向転換できないし、実はアレすごい疲れる。
しかも、僕の《突貫LV4》に比べても、そこまで遜色ない走りなのだ。早く走るスキルを持っているのかもしれない。
思うにソージ君は、身体の使い方に才能があるのだろう。天才と言っていいくらいに。
僕は浅い森の中でほくそ笑む。
《勇者》と守護者と天才に《勇者適正》を持つ魔物の僕。
このパーティは面白いし、間違いなく強い。




