予言者『ヨメール=メチャサキ』
「申し遅れました。リリィ=サンミナノと申します。使徒様、この度は助けていただき、本当にありがとうございました」
リリィと名乗る少女は、深々と頭を下げる。ピンク色のふわふわとした髪と碧色の瞳よりも、美少女っぷりの方が現実離れしていた。
大人になったら、とんでもない美女になるだろう。ただ、僕は第一印象として『育ちのよさそうなガキ』だなぁと思った。
僕の前世は、ある程度年を取っていたのだろうか。
「使徒様はやめてくださいよ。おねぇさんの方がたぶん年上だし【神】って名乗る何かと話しただけで、僕は使徒でもなんでもないと思いますよ?」
神の使徒として、丁重に扱われることはメリットでもあるだろうが、この世界の宗教さえわからない。敵対する神と判明して、急に殺されるのも怖かった。
そもそも話したのは、神は神でも【邪神】だし。
「そうはいってもー、命の恩人であることには変わりませんし……」
リリィは考えるように、アゴに手を当てて斜め下を見る。
とりあえず二人で、リリィの街へと歩き出した。荒野は舗装などはされていないが、人が多く通る道は踏みしめられていて、歩きやすい。
「何か、与えられたりはされませんでしたか? 伝承では、スキルや伝説の装備が、神と対面した時には与えられることが多いのですが……」
《異世界言語(全人)》と、世界のことを少しだけ教えてもらったと、嘘ではないことを話した。嘘くらいで罪にされないとは思うが《罰》の大きさから、慎重に動いた方がよさそうだった。
リリィの反応は微妙だ。
「《言語》ですか……。確かに貴重なスキルですが、伝説のような《勇者適正》や《賢者適正》、伝説の剣などとは違いますね」
「うん。だから、森の中で暮らしていたのを憐れまれて言葉と世界の知識をくれた上で、森の外に投げ出したんじゃないかって、思うんです。年上の人には敬語を使うってことどころか、言葉もさっきまで知らなかったから」
リリィは、腑に落ちないような表情をしながらも頷いた。
十歳程度の僕より少し上くらいだろうに、賢いし冷静だ。優秀な家に生まれて、きちんとした教育を受けているのだろう。山賊と比べても仕方ないだろうが、白い衣服もかなり上等なものだった。
そんな『リリィおねぇちゃん』は、歩きながら色々と教えてくれた。
リリィは今向かっているサンミナノ領の小領主の娘で、貴族なのだという。父の爵位は下から二番目の子爵で、下には騎士爵しかいない。
国民はみな、十五歳になると《鑑定》を受けて適正を探し、基本的にはその適正に合ったものに就くのだという。それがこの国では、成人式も兼ねる。
「貴族って、えらいんでしょ? 国民みんなと一緒なの?」
「わたし達は統治に関わるから、商業や生産業に適正があったとしても、それを統治に活かします。武に適正がある方達は、軍に入りますね」
《鑑定》を受ける年齢も、希望すれば十二歳から受けられる。ただし、試練として問題なく神殿へと《鑑定》を受ける旅を終えなければならない。それを受けたとしても、成人するのは十五歳になった時だ。
「わたしは、念願の《僧侶》になれました! それも助けてもらわなきゃ剥奪されていたので、本当に感謝しています」
ふんす、と胸を張る仕草は子どもらしかった。
「リリィおねぇちゃんは《僧侶》になって、やりたいことがあるの?」
呼び方をリリィおねぇちゃんにしてみた。神の使徒として扱われる気はないのだから、下から教えてもらった方がやりやすい。
「えへへぇ。わたしはいつか《勇者》様と、世界を救う旅に出るのです」
そのお陰か、リリィの言葉は少しくだけたものになった。最初に言った時は戸惑っていたけれど、神の使徒ではない理由付けも出来たからだろう。おねぇちゃん呼びも納得してくれ、子どもらしい夢も語ってくれた。
けれど、心を開いてくれたのは嬉しいが意外に思える。さっきまでの賢さからは、夢見がちなことを言うようには思えなかった。
「あ、夢見る乙女みたいなこと言ってるなこの美少女は~って思ってます?」
ふいに並んで歩いていたリリィが、上半身を傾けて顔を寄せて来た。ちょっとドキリとする。やるじゃん小娘、自覚できる程度には心拍数が上がった。
「う、うん」
優しげな目の強い瞳が、面白がっているような表情をしている。確かに、自分で言っても許されるレベルのかわいさではある。
「わたしだって、根拠も無くこんなことを言っているんじゃないんです。『大予言』にあったんですよ」
「大予言?」
「そっか、それも知らないんですね。1世紀前の大予言者『ヨメール=メチャサキ』様の遺した予言書『メッチャサキヨンダ』ですよ」
何その名前。占い芸人のファンブックなの?
「そう、なんだぁ。それにリリィお姉ちゃんのことが書いてあったとか?」
始皇歴400年に北の地にて大魔王が復活する。四人の勇者が北へ向かえー、今が399年なんですけどね? と前置いて、
「『ピンクの髪の癒し手が、白い奴隷の勇者と北へ向かう』っていう伝承があるんですよ!」
リリィは両手を広げて、身体を変な感じに僕に向けた。ノートの漫画の死ぬ直前の夜神さんちの月君を思い出す。
「……その白き奴隷って、僕のこと?」
自分の白髪を撫でながら単純な感想を述べてみると、リリィは目と口を丸くした。
「……あ――!!!」




