【罰の首輪】
少女視点
〇
少年視点
誰もが静止している中、男の子の右手だけが動いていた。
水を切ったように、血が荒野の土を点々と汚す。
「……変に目立ちたくもないんだよね。かかって来ないなら、殺さないであげるよ?」
山賊たちの視線は、指示を――逃げる許可を求めるように親方へと集まった。親方と呼ばれた男は、迷いながらも剣を腰の鞘に納めた。開きそうになった口を閉じて肘から手を上げて『撤収』と言うように、振り向いて腕を降ろした。
数歩歩いて走り出し、追うように二つの死体を残して山賊全員が去っていった。
「たす、かったの……?」
急に全身の力が抜けて、わたしは膝から崩れ落ちた。
生きている。死ぬかもしれなかった。穢されるかもしれなかった。その窮地から、救われたんだ。
荒野も男の子も、ぼやけて見えた。涙が流れているのか、目にさえ力が入らずに焦点が合っていないのかもわからない。気付けば、両手を合わせて握っていた。
「――主よ、感謝致します」
目を閉じて、神の慈悲に感謝する。命も救われた。誇りも救われた。僧侶としての《職業》も救われたんだ。山賊たちに捕まっていれば試練は失敗とされ、僧侶も剥奪されたに違いない。
――これが、神の思し召しであるなら、救ってくれた、空から飛んできた男の子は、神の使いなのかもしれない。
〇
初めて人間と会ったかと思えば、殺してしまった。
一人は【邪神】に飛ばされた着地のままに踏み潰し、一人は牙ではなく掌で《握撃LV4》をやる要領で握り潰した。
前世も含めて、人を殺したのは初めてだろう。それでも、大した感傷の情はなかった。
こんなものか。こんなものでいいのか。
そう思うほどに、僕の心は平静だった。
そう思ったのに、息が苦しくなった。まるで首が絞められているように。
《罪の一 殺人》を一度犯しました。彼我の戦力差から《正当防衛》は認められません。
【罰の首輪】が絞首の罰を与えます。
罰として、殺害に用いた《握撃LV4》を剥奪します。
罰としてステータスの一部を徴収します。
「……! ……っ!」
首に触れると、実際に絞められていた。いつの間にか着けられていた首輪に。
苦しいが、何とか息は出来る。金属なんて僕のステータスで《スキル》を使えば、簡単に握り潰せる。
《握撃LV4》
――このスキルは使えない!
――発動しない!?
初めての経験に、今聞こえた《天の声》を思い出す。剥奪とは、使えなくなることなのか。
《破砕牙LV4》
【罰の首輪】はびくともしない……。
《突き刺すLV4》
【罰の首輪】はびくともしない……。
《毒爪LV6》
【罰の首輪】はびくともしない……。
「くっ。クッ、ソがぁあ! あれ?」
声が出せる。首輪の締め付けが緩んでいる。苦しみながら聞いていた、さっきの《天の声》を思い出す。
――罰。絞首の罰。《握撃LV4》を剥奪。ステータスの一部を徴収。
慌てて自分自身を《鑑定LV1》を自分に使って見た。気が遠くなりそうなステータスになっていた。
「あっの、邪神ヤロウぅ……!」
唸るような声が出る。
首輪の右には、鎖の輪が五つだけ連結されていた。錆びた、鈍いような黒だった。首輪自体は見えない。
褒美の一つは、どうやらこの首輪らしい。




