《?蜘蛛?》
頭を前にやろうにも動かず、後ろにわずかにしか動かない。左右も。
目をこらす。視覚も《第三の目》も、舌も。舌が直接、糸に触れた。
「あぁ、蜘蛛の巣か」
さすがに魔物の巣だ。大きくなった俺の力でも、やすやすと抜けない。
『おっほー! 大物がかかっとるやんけ! 今日はご馳走やぁぁあ!』
甲高い声が聞こえてきた。何かと思ったが《第三の目》で上から蜘蛛が降りてきているのが見えた。
おそらく《念話》でこの巣の主の声が聞こえたのだろう。体長は体感50センチくらい。
デケぇ。
近づいてきている。視力の弱い目と蜘蛛の複眼が合うほどに、距離を縮めていた。
《威圧LV1》《眼力LV2》《念話》
『ブチ殺すぞ』
見つめ合う蛇と蜘蛛、もう言葉は不要だった。
『…………』
『…………』
『キェェェェェェアァァァァァ! シャベッタァァァアア!?』
カサカサと顔まで近づいてきたそれは、近づく速度の3倍以上で去っていった。
ほぅ、と安堵のため息を吐く。わずかであっても、生きながら食われるなんて想像だけでもぞっとする。
ぐいぐいと前後左右に頭を振る。
「お? これマジで頑丈だな」
全然壊れない。蜘蛛の臆病さというか、慎重さのおかげですぐ去ってくれたが、ちょっと食われるどころか、完食される可能性もあったかもしれない。
さすがは野性。武器と慎重さ、重要なものを合わせ持っている。
去ってしまったが、蜘蛛を称賛した。
「そういえば、この姿になって初めてナニカと喋ったな」
殺すぞ、喋った! では、会話とはとても言えないけれど。
ちょっと焦る。蜘蛛が気まぐれに戻って来てしまえば、食われてしまうし、もうすぐ夜が来る。
この状況で夜の強者たちを出迎えるなんて、ごめんだ。今日はひっそり木の下で隠れるつもりなのだから。
「ふんっ!」
渾身の力で頭を引き抜き、ようやく蜘蛛の巣から逃れられた。
「あぁー、しんどかった」
《粘着》を克服した!
《粘着耐性LV2》を獲得した!
『耐性』の概念を発見した!
すでに体験している耐性を得る!
《恐怖耐性LV4》を獲得した!
生まれ持った耐性を得る!
《毒耐性LV2》を獲得した!
「おぉ?」
なんか倒してもいないのに。天の声の言葉数が多い。
耐性。《粘着》性の蜘蛛の巣を突破できたからか。そもそも今まで俺は耐性の概念を知らなかったらしい。
にしても恐怖耐性が上がりすぎ。蜘蛛の巣は怖かったが、そこまで? 毒耐性は、蛇だから持ってるんだろうけど。
そう考えたが、あー、昨日の夜小便漏らしそうになりながら一睡もせず、ビビり倒してたからかと納得する。
まぁ夜には間に合ったし、目を付けていた木の下には近いので、蜘蛛には感謝しよう。次見つけたら食ってやってもいい。
水たまりがあったので糸を濡らして取り、寝床予定の木の根へ向かった。