《空手LV1》
早朝、たまたま大剣を背負ったイッサを見かけた。
昨夜は天誅も何もしていなかったので、早めにヒナの家から宿へ向かっていた。その宿から、出てきていたのだ。
何となく声がかけづらく、イッサの後をつけた。
イッサが立ち止まったのは、北門の外だった。門の兵士たちも、巨体のイッサにちょっかいを出さないようだった。
城壁に近いほど、魔物も出にくい。何かと思えば、素振りを始めた。
縦に上から叩き潰すように、横にかっ飛ばすように薙ぎ払うように。
声をかけようか迷ったが、一段落したのを見て《隠密》を解いた。
「……何だ、見てたのか」
黒い顔から滴り落ちる汗を黒く太い腕で拭い、僕を見やる。
「うん、頑張ってるね」
見れば、イッサの掌は豆が破れて血が出ている。皮がズレても振り続け、豆が出来ても振り続け、出血しても振り続けたのだろう。
「俺だけ、天才じゃないからな」
自嘲のような言葉を吐きながら、精悍な顔に卑屈な様子はない。
「まぁ、僕もだよ。天才じゃないなりに、頑張ろうか」
そう言って笑うと、イッサは苦笑いのような顔で僕を見て肯いた。
それぞれ、剣と、拳足を振るう。
僕は身体に聞く――わけではないのだろう。魂に訊いているのか。
右腕は腰を入れながら、こう振るう物だと理解できる。
スキル《中段外受けLV1》を獲得した!
こうした後は『いつもこうしていた』気がする動きで、振った腕を肘から上げ、腰を逆方向に入れながら内に下ろす。
スキル《中段内受けLV1》を獲得した!
身体が魂に導かれて動く。受けはここから上げるものもあったはずだ。
スキル《上段受けLV1》を獲得した!
上げた手は、いつもどうしていたかしら? そう問うと、魂は身体を動かして応える。
スキル《手刀打ち(側)LV1》を獲得した!
これだけじゃなかった。そうでしょ? 問えば、魂は応と応えて左腕で《上段受けLV1》を繰り出し、その手を頭まで上げて――あぁ背中が心地よい――振り下ろした。
スキル《手刀打ち(上)LV1》を獲得した!
――ねぇ? 僕でも我でもオレでもない、さらに昔の僕? 君はなぜ、ここまで――記憶を失ってまで、魂に刻まれるほどにこの動きをしていたの?
何故、身体が勝手に動くの?
何故、動きをなぞると心地よさと一緒に、心がきゅうっと切なくなるの?
何故、僕は涙を流しているの?
スキル《下段受けLV1》を獲得した!
何故、踊るように楽しいこの動きが戦闘に特化した動きだとわかるのだろう。
何故、一つ一つの動きの意味合いまでわかるのだろう。
何故、右腕で《中段外受けLV1》をした後、勝手に左拳が《中段突きLV1》を出すのだろう。
何故、左腕で《下段受けLV1》をした後、勝手に左拳が《中段突きLV1》を出すのだろう。
型《平安》を習得した!
条件達成によりスキル《空手LV1》を獲得した!
各《空手系スキル》は《空手LV1》に統合される!
《空手LV1》は《空手LV3》に上がった!
「……押忍」
魂に導かれるままに、十字を切った。イッサが剣を振るう手を止めて、呆然とした顔でこちらを見つめていた。
未だ涙が止まらない顔で笑うと、ただ頷いた。イッサは、聞かれると困る質問はしないでくれるからありがたい。
聞かれても、僕にもわからないので答えられない。
「一緒にしよっか?」
褐色の腕で涙を拭って言うと、
「ああ」
とただ頷いた。
しばらく、組み手のような真似を続けた。
僕が攻め、イッサが大剣で受け止めつつ攻撃を流しながら、反撃する。受け止めるのは得意だが、攻撃を流すことは不得手のようだ。
こちらが多勢か同数の時は、イッサが受け止めている間にソージや僕が攻撃すればいい。しかし、こちらが少数ならば盾に徹するだけでは厳しい。
僕は素手だ。拳や脚で連撃を出す。
それをイッサはぶ厚い大剣の腹で受ける。
「おラァ!!」
体重を乗せた拳を受けた後、イッサが横薙ぎに振るった。
跳んで避ける。大剣に体が流される隙に、着地して即攻撃するため踏み込んだ。
「おっと」
イッサは体こそ流れているが、頭はこちらを見ていた。僕が踏み込むタイミングで、脚で蹴り上げてくる。
カウンターを喰らいそうになるが、さすがに速くはない。出された足を掴んで背負い、大剣ごと投げた。
《背負い投げLV1》を獲得した!
あ、スキル出た。
イッサは大剣に導かれるように、地面に叩きつけられた。
「くっ。さすがにお前相手じゃ厳しいな」
「昨日見た感じ、D級の魔物じゃそもそも横薙ぎも避けられないだろうけどね」
ただ、上にいけば、不用意に出した足には噛みつかれるだろう。ハジメも言っていた通り、安全に行くべきだ。
「ハジメもぼっちだったから、大剣の扱い方は知らないしねぇ」
調整した《虚弱化》で、ハジメくらいの体格になって、普通の剣を使うことも考えはしたが、折角の《恵体》とステータスを無駄にするのはもったいないと、やめておいた。
「大剣使いって、珍しいのか?」
「らしいねぇ。一撃は重いけど、そもそも恵まれた体格が必要条件だし、トラノスのギルドでも一人しかいなかったらしいよ」
「……人族でも、教えは乞えないか?」
「んー」
困った。
実は、初めてギルドに行った時に不幸な事故で引退してしまった、ザケとかいう雑魚だった。怒られそうなので言わないでおく。
「……あ、頼めば何とかなるかも」
一度行ったあの部屋に飾ってあったのは、確かに重戦士の装備だった。
ごめんなさい。予約投稿忘れてました汗
仕事やらが忙しく、正直書き溜めを浪費している日々ですというか、ほぼもう書き溜めないです汗
開いてないうちに感想もいただいてて、ありがとうございます!
近々毎日投稿途絶えるかもですが、出来る限りしていきます。




