思春期ソージ・オキ
「えーっと? 何ですこの女?」
ソージは頭を痛そうに抱えて、朝食のテーブルで言う。
昨夜はヒナの家に泊まったが、朝食はイッサとソージが泊まっている昨日の宿で取ることにした。
「昨日会ったでしょ? 碧い瞳に銀の髪、細いシルバーの眼鏡美人。冒険者ギルドの看板受付嬢、ヒナだよ?」
そういうことを言いたいんじゃないんですけどね、と言ってソージは頭をガシガシとかく。
イッサは気にしていないように、朝食を摘みながら美味ぇなコレと笑っている。
「まぁまぁ、色々と教えてもらわなきゃでしょ?」
僕は左腕をヒナに抱かれながら、右手でフォークを使っている。ヒナはにこにこ笑っている。
「そうよー。ソージくん! お姉さんが色々わから、教えてあげるんだからぁー」
昨夜は自分がわから、教えられたにも関わらずヒナはお姉さんぶるヒナに、ソージはため息を吐く。
「……酔ってるんですか? まぁ俺達は知らないことも多いでしょうから、助かりはしますが」
「まぁ。正直今のところ教えられることなんて、ないんだけど」
「いやないんですかい」
ソージが持っていたフォークを落とす。
「ないわよ。ヒジカがギルドにせよ門兵にせよ、力を認めさせてわからせたでしょ? あれで、大抵の冒険者はあなた達に手を出さないわ」
どんな職業よりも、命や安全を大事にする人たちだものと、片手で口に飯を運びながら言う。
「にしても、クエストの助言とか――」
「今は必要ないでしょう? 昨日の《草原兎》の討伐した量からして、Dランクまでは余裕な実力を持ってるわ」
まぁもうちょっときれいに倒せたら、買取の料金は上げられるけどね、とヒナは付け足す。
ソージは、ヒナに所謂きれいな倒し方、必要以上に傷つけない倒し方や解体について聞いていた。真面目なのだ。
僕はそのうちに、イッサと話しておく。
「……言う必要はないだろうけど、クエスト中に喧嘩を売られても人とは、出来るだけでいいから戦わないでほしい。勇者の僕なら見過ごされることも、護り手なら気付かない振りをされることもある」
「あぁ」
イッサはおかわりを頼みながら、相槌を打つ。
「イッサが負けるとは思ってないけれど、大義名分を取られて精鋭に囲まれると怖いから」
「わかっている。お前の足を引っ張りはしないさ」
んー難しい。『出来るだけ』であって、許されない場合ならやっちゃってもいいのだと伝えたかったのだけれど。
「ねぇイッサ。責任感は信頼してるけど、無理はしないでね?」
いずれは、仲間は増えていく。その時に部下が誰が頭なのか混乱しないようにと、呼び捨てにしろと言ったのはイッサだ。
それでも、組織のトップにはイッサのような男が合っていると思うし、いずれはそうするつもりだ。だからすべてを細々と話すべきでもない。間違えたらそこから学んでいくべきだろう。
ヒナもソージに説明しているから、僕の腕を離している。その内に食事を進めることにした。
ヒナがいることで、昨日とはまた違う奇異の視線を感じるが、ここの食事は美味い。やっぱ調理されたものって美味しいや。こればっかりは、魔物では味わえなかった。
「なぁ。……アンタ」
説明が終わったのか、ソージの声に僕は向き直る。心なしか、いつもの子どもらしい幼い肌が赤い。
「アンタら二人はー、えっと……」
らしくなく、言いよどんでいる。いつもの生意気おしゃまなソージには珍しい。何? と言って促すと、
「エッチなこと、したんですか?」
……答えづらい質問が飛んできた。
イッサが飲み物を吹き出し、僕とヒナはフリーズした。
その状況に、さらにソージの顔は赤くなる。どうしよ。いじってもいいけど、十二歳の子どもに対して性教育をするのは僕じゃ荷が重い。
「……さぁ? どうかしらー?」
そう言って、ヒナが僕の腕を再び両腕で抱いて引く。
「……!」
ソージは切れ長の目を見開いて口を三角(△)にし、さらに顔を赤くした。
「ちょっと! やめなよヒナ、子どもの前なんだから」
「あら? ヒジカだって顔はソージ君より幼いわよ?」
ソージが、アンタ本当は俺より年下だろうとか言わないか心配したが、当の本人は、
「……大人って、大人って……!」
と机を拳で叩いていた。
えぇーっと、悪いことじゃないだろう。つい最近まで閉じていた心が女で開くならいい。あいにく、自分の女をあてがうような悪い趣味はないけど。
「……とりあえず、今日の方針だけど。ヒナ? 今日はどんなクエストを受けるべき?」
ヒナは僕に顔と腕を離して、真面目な表情になって話し始めた。
「昨日の実力から言って、イッサ君とソージ君の二人でEランクのクエストを受けていいはずよ。ヒジカは昨日冒険者との喧嘩でCランクの人たちも複数倒しているから、今日ギルド長と面談があるわ」
「面談ってー、何か処罰があるのか?」
イッサの問いに、ヒナは首を振る。
「いいえ。私たち職員含めて、あちらから売った喧嘩だって証言は多いし、処罰はまずないわ。いい事ではあるはずよ」
「いいことってー、またエッチなことですか!?」
バッと肘ごと上げた腕で顔の下を隠したソージが言う。何でもそれかよ、この思春期め。
「……違うわ。冒険者の中でも、実力を示せば上のランクのクエストを受けることが出来るの。クエストは戦闘だけじゃないからそのままCランクのクエストを受けることは出来ないだろうけど、Dランクくらいは受けられるようになるんじゃないかしら?」
「そうか」
イッサがほっとしたように息を吐く。まだまだ弱いけれど、この人は世界で僕を心配するたった一人の男だ。ありがたいと思うべきだろう。
「僕も想定外だったけどね。利用しない手はないけど、僕一人でクエストを受けるわけじゃないから」
「……俺とソージも、それに見合う実力をつけなきゃいけないってことだな」
イッサの言葉に、僕はうなずく。
「それに、苦戦した状況で何が必要かっていうのを調べてきて欲しいんだ。ヒナの見立てでは、二人はEランクまでは何のアイテムも必要ないくらい強いっていう見立てらしいけど、上のランクに行けば準備も必要になってくると思う」
「……こういうものがあったら俺たちは助かる、てモノを調べてこいってことですね?」
思春期モードから立ち直ったのか、ソージからまともな質問がくる。
「そういうこと。傷を癒す《ポーション》や魔力回復の《エーテル》は基本らしいけど、他にどんなものが要るか。まだまだ資金はあるから、装備もちゃんとできるしね」
タマソン村に兵を差し向けたクソ貴族から奪った財宝が、かなり余っている。それなりの装備が揃えられるだろう。
「ヒナ。とりあえず今日は《ポーション》だけでも欲しいんだけど、どこの商人がいいとかある?」
「そうねぇー。三店舗くらい後でメモしてあげるわ。いずれ、武器屋や防具屋もいるんでしょう?」
仕事のデキるヒナに任せておけば、問題ないだろう。
「ありがとう。じゃあまずは、今日のクエストを受けに行こうか」
そう言って、四人で宿屋の食堂テーブルを立った。




