第98話 「今日は廃墟でマラソン大会」
2020/4/2
タイトル改訂。
「さて! じゃそろそろ次の街へ向かいますか!」
日も陰り、住民たちをゾンビに変えたブランたちはさっそく次の街を目指して歩き始めた。
「それはよろしいのですが、この街からは北西と南西に街道がのびているようです。どちらに向かうのですか?」
「あー……。さっき街から逃げ出した人とかいなかった? いたっけ?」
もしいたのなら、その者が逃げ出した先に街などがあるはずだ。
「お待ちください」
カーマインがスパルトイたちに聞きに行く。ブランやカーマインたちは制圧がある程度すすむまで街なかに侵入していないため、細かいところはわからない。
ほどなくして戻ってくると、ブランへ報告した。
「数名、馬で北西へ向け走り去った者がいたそうです」
「北西かー……」
逃げていったのはこの街の人間であろうから、どちらへ行ったら何があるのかは把握していたはずである。
街がモンスターに襲われているという状況で向かったのなら、逃げ出したにしろ助けを呼びに行ったにしろ、この街より向かった先の街のほうが頼りになると考えたからだと思われる。
そこから考えると、少なくともそちらは今の街より戦力的に充実しており、さらに逃げた者によりこちらの手札もある程度割れた状態だということになる。
「極端にこの街より強いとかでもない限り、よっぽど大丈夫だとは思うけど……」
「あまり大きな街となりますと、質と言うより単純に数に押される可能性もございますよ。何しろこちらは30名少々しかおりません」
アザレアの言う通りだ。ここはよく考える必要がある。
「あくまで可能性の話ではありますが、距離的に近いのが北西だった、ということも考えられませんか?」
一刻も早く助けを呼びたい、という目的だったなら、距離は大きな意味を持ってくる。マゼンタの意見も一理あるだろう。
「うーん……。こういうの考えるの向いてないと思うんだよわたしには……。結局どっちがいいのかわかんないな……」
「ひとつ確実に言えるのは、北西へ向かえばその先にある街には、すでに私たちのことが伝わっているということです」
「加えて、日が落ちるまでこの街で待っていても増援などが現れなかったということは、この街を助けるつもりはすでになく、次に向かうであろう街で迎撃するために準備を整えていると考えるのが妥当かと」
こちらのことが知られているかどうか、というのは非常に大きいだろう。こちらのことを全く把握していなければ、よほど単体で強力な者でもいないかぎり、勝てそうになければ迎撃準備中にさっさと逃げ出すことも不可能ではない。
しかしこちらのことを知っていて、手ぐすね引いて待っているとなればリスクは跳ね上がる。
「……よし、南西に向かおう。遠いかもしれないから、ちょっと巻きで。てか、駆け足で行軍とかできるのかな? 疲労とか無いんだよね確か」
「常識的に考えてそのようなことをする軍隊などありませんが……」
「でも常識的に考えてスケルトンの軍隊もあまりないわよたぶん」
「ならいいのかしら……」
そういうことになった。
数十分後、ブランはネームドのスパルトイ3体、スカーレット、ヴァーミリオン、クリムゾンによって組まれた、騎馬競技などの騎馬の上でぐったりとしていた。
「アンデッドは疲労しないんじゃなかったのか……」
「疲労しないのはスケルトンなどの生きた筋肉を持たない種族だけですね。アンデッドにもいろいろあるということでしょう。例えば大きく魔造生物という枠でも、ゴーレム系は疲労しませんがホムンクルスなどは疲労します」
「まぞうせいぶつ」
「魔法や何らかの術によって生み出された生物のことです」
「マゼンタは何でも知ってるなー……」
他の2人は会話に参加しない。コウモリとなってそこらのスパルトイの頭にしがみついているからだ。
マゼンタも話すときだけ人型に変身し会話している。
「わたしたちは楽をしているからいいとして、このまま走り続けられそう? 大丈夫?」
ブランの下のクリムゾンがうなずく。問題なさそうだ。
後ろを振り向くと、30体のスパルトイが列をなして追従している。
「……スタート直後のマラソン大会みたいだ。やったことないけど」
「しかしご主人様、このように土煙を上げて近づいて行っては、いかに夜と言えどすぐに気付かれてしまいますが」
「近づいたら歩いて……いや中腰で歩いて行くことにしようか。てか君たち、コウモリとか狼とかに変身して先行して偵察とかできないの? 斥候っていうのかな。それやってくれれば、もう少し安全に近づけると思うんだけど」
「……なるほ、いえようやくお気づきになりましたか。では私が行ってまいりましょう」
「無理あるだろそれ! ポンコツかよ!」
それには答えず、マゼンタは狼に変身して走り去っていった。
「……できる子なのかできん子なのかわかんないな」
それから2時間ほど走っただろうか。
マゼンタ狼が戻ってきた。
「ご主人様、この先なのですが……」
「うん。そろそろ街でもあった?」
「いえ、何もありませんでした」
どういうことなのだろうか。何もないなら報告に戻ってくる必要などない。しかし考えてみればこれまで、彼女たちと2時間も離れたことがなかった気がする。であれば寂しくなったとしても──
「そういうことではなく」
「じゃあどうしたの?」
「正確には街……と思われるものの、残骸というか、完膚なきまでに破壊された瓦礫と土が広がっておりました」
「なんだ廃墟かー。だからさっきの街の人はこっちに逃げてこなかったのかな?」
これは失敗したかもしれない。獲物となるものがいないのならば、こちらに向かっても仕方がない。ここからまた先ほどの街に戻り、北西へ向かうとなると、半日程度は無駄にしてしまうかもしれない。
「……廃墟、という感じでもなく。土とかきまぜられた瓦礫はまだ尖っていて、土も雑草などもありません。廃墟だったというより、つい最近何者かによってぐちゃぐちゃにされたかのような」
「ほうほう!」
だとすれば、その街をなんらかの魔物が襲ったと考えるのが自然だ。
先を越されたことに残念な気持ちもあるが、公式が設定したイベントで、開始2日目の夜の時点で完膚なきまでに街が破壊されたなど、NPCの魔物勢力がやれるとは思えない。しかも見たところ、この近くにいる魔物はオオカミやネズミ、ウサギ程度のさほど強くないものばかりだ。仮にそれらに滅ぼされたとしても、オオカミやウサギが街並みを破壊する理由が見当たらない。
だったらたぶん、やったのは魔物プレイヤーだろう。
「もしかしたらフレンドになれるかも! どう思う?」
「……ぷれいやー、というのはご主人様と同郷の方々……のことでよろしいですか?」
「でしたら、先日もおひとり、スパルトイが首をはねてやりましたが、彼と友人になるのは難しいように思えますが」
アザレアとカーマインも人型へ変化し、会話に交じる。
「プレイヤーっていろいろいるんだよ。その街を壊滅させたのが仮にプレイヤーだとしたら、多分わたしと似た感じの人じゃないかなって。それだったら友達になれそうじゃない?」
「……仮にそうだとしても、街1つを2日とかからず瓦礫に変えるような存在です。尋常ならざる力を持っていると思われます。くれぐれも慎重に……」
「まま、大丈夫だってたぶん。魔物側のプレイヤーかー。楽しみだなぁ」




