第79話 「デイウォーカー」
2020/4/2
タイトル改訂。
「そんなことより。いかが致しますか」
カーマインなどは執事のことに過敏に反応するきらいがあるが、アザレアは反応しつつも割と冷静である事が多い。マゼンタはどう思っているのかわからないが、少なくともブランの部屋で不貞寝する時は他の2人に倣っている。
「うーん、これから朝だしなぁ。さっきと同じパフォーマンスが発揮できるかというと、心もとないな……」
「先ほどの街を殲滅して得た経験値などを使い、ご主人様の強化をなさっては? ここで日光に対する耐性や、対策などを得ることが出来ればあの程度の街どうとでもなるかと」
「なるほど、いいねマゼンタ。それ採用しよう!」
ブランはスパルトイたちに遠目に街を監視させ、自身のスキル取得画面を眺めた。
日光に対する耐性というのが具体的に何のことかわからないため、とりあえずそれは後回しにし、まずは陽光下での配下のパフォーマンスの向上に繋がりそうなスキルを探すことにする。
どのみちブランは戦うとしても遠くから魔法を撃つくらいであり、接近戦を挑むスパルトイたちが強くなったほうが戦略を立てやすいはずだ。
「そうすると、広範囲に作用する、バフっていうんだっけ? そういうのかな」
「『吸血魔法』などのスキルをもっと強化するのはいかがでしょう。『霧』はかなり有用でした」
「あー。広範囲だし、あのへんアンデッドにボーナスあったね。そうか、うちアンデッドしかいないしそれはいいかも」
ツリーをたどり、見ていくと、今取得できそうなスキルは『魔の霧』『霧散化』である。
『魔の霧』は自分が発生させた『霧』の効果に、さらに自分が使用する攻撃系魔法の威力を高める効果を追加するものだ。『死の霧』の攻撃魔法版というわけである。
『霧散化』は、1日に1度だけ、自分の体を霧に変えることが出来るスキルだ。使用するとクールタイムがカウントされ、ゲーム内で24時間経過するまで再使用は出来ない。発動中は自身の肉体は完全な霧の状態になり、あらゆる物理ダメージを受けない。
しかしこの状態では火系・雷系の攻撃に対して被ダメージが大幅に上がる、風系のスキルによる移動阻害に抵抗できないなどのデメリットもある。
効果は解除するまで有効になるが、霧状態では攻撃判定のあるスキルが使用できず、物理攻撃も出来ないため、継続するべきかどうかは戦局を見定める必要がある。
「物理攻撃に対する緊急回避手段として考えるなら超優秀な感じ? そのときの攻撃がカミナリスラッシュ的なアレだったら即死するけど」
『魔の霧』についても、魔法攻撃主体のブランにとっては非常に有用なスキルと言える。この2つのスキルは取得しておく。
「うーん。次のが出てこないな……」
「他のスキルで有用なものもあるかもしれませんし、他のスキルを取得することで開放されるスキルもあるかもしれませんよ」
「なるほ……ど……あ、『闇魔法』ってのが増えてる!」
ブランはこのところ、経験値稼ぎと眷属たちの強化に没頭していたため、スキル取得画面はあまり覗いていなかった。そのためいつからアンロックされていたのかわからない。
「何がキーだったんだろ? まあいいや。これなら多分『光耐性』とかありそうだし」
魔法スキルにはそれぞれで別属性の耐性を得られるスキルが存在している。
例えば『火魔法』では『氷耐性』が。
『地魔法』では『雷耐性』が。
『水魔法』では『火耐性』が。
『氷魔法』では『地耐性』が。
『雷魔法』では『風耐性』が。
『風魔法』では『水耐性』がツリーに現れる。
『闇魔法』のスキルを4つほど開けたところで、ブランは念願の『光耐性』を手に入れた。
「なんか、サポート的な効果多いな? 『闇の帳』とか、周囲が薄暗くなる、って何のためのスキルなんだろう……」
「昼中に使えば、日光を和らげることができそうですね」
「あーなるほど。それと『霧』とか併用すれば有利なフィールドをいつでも作れるかもってことか」
これで日中に戦闘を行う準備は整ったと言えるだろう。
遠く地平線から朝日が差し込み、爽やかな風があたりを包み込んでいる。
しかし、『光耐性』を得たブランにダメージはない。力が入りにくいような感覚があるが、これは現時点ではどうしようもないのだろう。
スパルトイたちを見ると、彼らは『光耐性』を持っていないにもかかわらず、日光でダメージを受ける様子はない。
格の高さによってデメリットに耐えられるようになったと考えれば、ブランももっと自身の強化を行えば日光に対する完全な耐性を得ることも可能かもしれない。
「伯爵の言ってたデイモンガーってのに近づいたかな」
「デイウォーカーですね。昼中でも闊歩できる吸血鬼のことです」
「デイモンガーですと、昼間が好きすぎて布教しようとする昼間狂いとかですか? ちょっと光耐性得たからってお昼好きになりすぎでは?」
「憎さ余って可愛さ百倍とかですか? 逆なら聞いたことありますが」
「流れるように連携してツッコミ入れるのやめたげてよお! ちょっと間違えただけやろ!」
ともかく、これで日中でも行動するという選択肢が生まれたといえる。
だが仲間の全員が夜よりもパフォーマンスが落ちるということに変わりはない。
「まあ、とりあえず、だ。さっきはスパルトイたちだけで殲滅できたけど、昼間だし警戒されてるし、ここも同様にいけるとは思えないし」
街の人々は警戒してこちらを伺っているが、距離があるためまだ具体的になにか行動を起こそうとしているわけではなさそうだ。しかし、今は日が昇りきるのを待っているだけで、日が昇ればこちらの弱点をついて攻勢に出てくるつもりだという可能性もある。
どうであれ、夜になるまであのまま待っていてくれるということは有り得ないだろう。
「よーし、もうちょっと近づいて、早速さっきの『闇の帳』とか『魔の霧』とか発動させて魔法撃ち込みまくろう! そんで、戦線が崩せたらスパルトイたちで突撃だ!」
「近づく際に御身が傷つかないよう注意が必要ですが、現状ではいい手かと」
「見える範囲では、遠距離で攻撃をしてくるといった様子はありませんし」
「魔法が飛んでくるようでしたら、わたくしどもが相殺を狙えますのでご安心を。弓矢の類は持っている兵士はいないようですね」
弓矢がないなら、あの街の人々は狩りなどしないのかもしれない。もっとも周囲にはコヨーテとかネズミくらいしかいないだろうし、狩りをするメリットがあまりないのかもしれないが。
となると、食料は河から採れる魚がメインなのだろうか。他にも農地というか、麦畑らしきものと、ヤシのような木が並んでいるのが見える。
「まあ、わたしたちはみんな食料とかいらないからどうでもいいんだけど。後で復興とかされてもなんかわたしたちが頑張った成果を無駄にされるみたいでモヤっとするし、ヤシっぽいのも麦畑も全部燃やしちゃおう!」
「あれはおそらくナツメヤシと大麦ですね」
「よく知ってんなマゼンタ!」
「伯爵様のお城の図書室で。絵と似ているという程度ですが、このあたりの気候と生育状況からみて間違いないかと」
「さすがね、マゼンタ。ご主人様、でしたらあれらの農地は、あの街にとって生命線と言えましょう。ならばあの農地を焼き払うように魔法を放てば、人間どもは泡を食って消火しようとするのでは?」
「さすがえげつない事大好きカーマインだね! それで行こう!」
「いえ、えげつない事が殊更に好きというわけでは……。単に合理的な判断です」
「じゃあそれと気付かれないようにさり気なく農地側に寄りつつ、街に近づいていこう。農地を射程内に収めたら、えーっと、『ヘルフレイム』あたりがいいかな?」
ブランたちが近づいていっても、街の防衛隊に目立った動きは見られない。スパルトイたちはまっすぐ街へ向かわせているが、ブランたち4人はさり気なく、隊列の中で農地側へと移動する。
もう少し近づくと、こちらを警戒している最前列の兵士がざわり、と落ち着き無く身動きをしたのが見えた。




