第80話 「燃え麦畑で捕まえて」
2020/4/2
タイトル改訂。
ブランたちが近づいていくが、双方それ以外には大きな動きもない。
街からはほとんど赤いスケルトンの集団に見えているだろうし、お互いに接近しなければ勝負にならないだろうと判断しているのかもしれない。
しかしこちらは別にスケルトンだけの集団なわけではない。
「あ、もう届くわ。『霧』『闇の帳』」
音もなく、ブランから霧と闇が広がっていく。闇と言っても、薄暗い程度だ。まだ日が昇りきっていないことと、霧とともに広がっていっていることで、『闇の帳』は非常に視認しづらい。
「これすごくない? 夜とか使えば全く見えな……いけども、夜中に薄暗くすることに何の意味があるのかっつー話よね……」
「自己解決しましたね」
だが少なくとも現在は有効なスキルである。
突如霧が発生しはじめたことで、防衛隊がにわかに色めきだつ。
「でももう遅いけどね『ヘルフレイム』」
するとまるで霧が燃え上がるように炎が広がっていき、大麦畑を舐めていく。
「すげえな! この霧まるで可燃性みたいだ!」
霧はあくまで魔法効果の上昇をしているのであって、霧が燃えているわけではない。そのため対象範囲に選んだ大麦畑は燃え上がっているが、霧に包まれているスパルトイたちにはまったく炎は向かっていない。
大麦畑が燃え上がると、街の防衛隊は右往左往しはじめた。指揮官と思われる男性がなにやら声を張り上げているが、その男性に詰め寄っている兵士の姿も見える。
「あはは! なんていうか、予定通りに行くと嬉しいね」
「いつもは予定通りに行くことはめったにありませんからね」
「よっしゃー! 突撃だー!」
ブランの号令に従い、スパルトイたちは一斉に街に向かい走り出した。
一方街の防衛隊は混乱の極みにある。
大麦畑の消火に向かおうとするもの、こちらに向かってくるスパルトイに怯えるもの、それらをまとめようとして失敗しているもの。
しかし防衛隊がそのような状態にあっても、スパルトイたちには関係がない。
速度を緩めること無く街へ向かっていく。
「ここからなら、街の端くらいになら何か届きそうですね。援護をしておきます」
アザレアがそう言うと、胸の前に氷の粒が集まり、一瞬で氷の矢を形成した。『アイスバレット』だ。
氷の矢はスパルトイたちの間をすり抜けるように一直線で飛び、防衛隊の前線にいた兵士の足元に突き刺さった。
「届きませんでしたね」
「……わざとです。弾着観測射撃です」
カーマインとマゼンタはそれを見て、もう何歩か街の方へ歩いていき、同様に『アイスバレット』を放った。
今度は兵士に直撃し、2名の兵士が倒れ伏した。
目の前で死人が出たことで、防衛隊の混乱は極限に達したようだ。街なかへ逃げ込もうとするものも出ている。
この辺りは魔物の領域も遠く、周囲には野生動物か、あるいはそれと同程度の小型の魔物しかいない。
街の衛兵といえども、命のやり取りをするほどの事態にはこれまで遭遇したことがなかったのだろう。
街道を進んできた中でも、野盗などの襲撃はなかった。野盗が何かを奪えるほど裕福な街でもなければ、何かを奪った野盗が街から離れて生きていけるほど豊かな環境でもないということなのかもしれない。
貧しい代わりに平和な街だったのだ。昨夜まではだが。
街なかへ逃げ込んだとしても、死ぬ順番が変わるだけで、命日が変わるわけではない。
モルモンたちはそれらは放っておき、最前列にいる、戦意を失っていない兵士たちを魔法で狙撃していく。
そうこうしているうち、スパルトイたちが防衛隊とぶつかる距離まで到達した。乱戦になるだろうことを考え、魔法による狙撃は中断された。
「ご主人様、農場のほうはいかがでしょうか」
「いい感じだよ。もう大麦畑はだいたい焼き畑になったかな。来年は豊作になりそう。種蒔く人が居ないだろうけど」
「焼畑農業は移動農法の一種ですので、ここのように川べりの肥沃な土壌に頼って農業をする街には適していませんよ」
「それも伯爵の本?」
「はい」
これからわからないことがあればマゼンタに聞けば何でも答えてくれそうである。
防衛隊に突撃したスパルトイは、容赦なく兵士たちを死体に変えていく。
兵士たちは革製の鎧のようなものを着ているか、厚手の服を着ているような者がほとんどで、金属製の鎧などを身に着けている者といえば、先程の指揮官らしき男性くらいである。スパルトイたちの爪や牙の前では、裸も同然だ。
その指揮官らしき男性はなるべく後方へ下がろうとしているようだが、大麦畑が炎上した際に詰め寄ってきた兵士にまだまとわりつかれていてうまくいっていない。
つまり、まともに指揮をしている人間が居ない。
「もっとも、指揮能力や作戦などで埋まるような戦力差ではありませんが」
「そうだね……。珍しくうまくいって喜んだのはいいんだけど、これわりとゴリ押しでも行けた感あるな? 日光で弱体化しててもスパルトイに傷一つ付けれてないよ衛兵さんたち」
「想定していたよりも人間たちが弱すぎましたね。こちらもたしかに夜よりは弱体化してはいますが、それでも一般の人間よりはよほど戦えますので」
カーマインの言葉に、ブランは考え込む。
「うーん。じゃあ、もう次からはまずはスパルトイをけしかけてから、無理そうなら『霧』とかで援護してく感じにしようか。そんでもダメそうならみんなで魔法撃つとか」
「戦力の逐次投入はあまりお勧め出来ませんが……」
「そういう戦い方をなさりたいのでしたら、まずスパルトイに突撃をさせ、それがうまく行こうが行くまいが、スパルトイの突撃による衝撃から回復しきらないうちに魔法を撃ち込んで瓦解させるつもりで作戦を立てたほうがよろしいかと」
「ご主人様のおっしゃる戦法ですと単なる戦力の逐次投入ですが、アザレアの言ったように戦略的に意味を持たせ計画的に行なうのでしたら波状攻撃と言えますね」
「なるほどなー……。てか、君たちほんとにわたしの子たち? めちゃめちゃ頭いくない? 数値的にはわたしとINT変わんないはずなんだけど……てかなんならINTだけならわたしの方が高いんだけど」
ブランが憮然と言い返すと、モルモンたちはうれしげに鼻をぴくぴくさせた。
何が琴線に触れたのか不明だが、喜んでいるらしい。
「まあ、なんにしてもうまくいきそうでよかったよ。ここも制圧できたら、さっきの街と同じように──しちゃったら生まれた瞬間死ぬかもしれないな、ゾンビくんは。
夜を待って『死霊』でゾンビ化させて、家の中に放り込んでおこう」




