第55話 「リーベ大森林グランドオープン」
2020/4/1
タイトル改訂。
どうやら、運営はレアの提案通りのコマーシャル映像に編集してくれたようだ。
レアの提案はこうだった。
とあるプレイヤーが、偶然劇的に強くなる方法を見つけ出し、それを見せつけるために公式イベントに参加した。運営としてはそれは想定の範囲内の手段だったので、これはいい宣伝になるとばかりに動画を編集して公開した。しかしそのプレイヤーはその方法を誰かに教える気はなく、ただ大森林にこもっている。
そういうふうに邪推ができそうな構成とか、動画外コメントなどをつけたらどうか。
運営としても内容的に間違ってないので、この提案は通ったようだ。強いて言うなら、レアがイベントに参加したのは他のプレイヤーの程度を確認するためで、決して見せつけるつもりはなかったというか、全て見せつけるほど戦闘時間が長くもなかったのだが、それはレアが言わねばわかるまい。
加えて、あのウェイン君もSNSでレアのことでわかっていることを広めてくれた。ケリーについて、同じ容姿の罪もないプレイヤーが付き従っている、などという説明をしていたが、もう何もかも間違っているため、逆に問題ないような気がして、そのままにしてある。
もっとも、訂正したくても、下手にレアが直接SNSに声を出せばせっかくのウェイン君の努力が無駄になってしまう恐れもある。黒幕は無言でいいのだ。ペラペラ喋るのは追い詰められてすべてを明るみに出されるときだけだ。そう、先日のレアのような。
ともかく、そうした地道……といってもレアはほとんど何もしていないが、そうした活動を始めて早1週間。今このリーベ大森林──最近知ったこの森の名前──に続々とプレイヤーたちが集まっている。最寄りの街であるエアファーレン──これも最近知った──は今空前の好景気に湧いている。まさに大森林特需だ。別のゲームならば、ダンジョン特需だとかそういうものと言えるだろう。
プレイヤー諸君が、レアが強いのはこのダンジョン化した森で稼いでいるせいだと勘違いしてくれれば大成功だ。
そのため、実際にレアは現在別のゲームでいうダンジョンのような運営方式で大森林を経営していた。
鉱脈から算出される低ランクの金属などで武器や防具を工兵たちに作成させ、それを大森林浅層の至るところに散りばめておく。プレイヤーの誰かがそれを見つけて持ち去れば、しばらくして別の場所に同ランクの物を忍ばせる。
武器や防具だけでなく、同じく低ランクのポーションや、大森林中層あたりで伐採可能な木材や、木の実、魔物の毛皮など、素材も適当にバラ撒いておく。今となっては中層で採れるような素材は余り気味で、女王の間にいる輜重兵アリにわざわざ保管させるのが面倒なため、回収した歩兵などにそのまま持たせているほどだ。
バラ撒いたアイテムの様子や侵入してきたプレイヤーの動向などは常にスカウトアントに監視させている。プレイヤーはかなりの数なので急遽スカウトアントを増産し、監視専門の偵察部隊を設立したほどだ。
大森林に侵入してきたプレイヤーの皆様には、モンスター(ほぼアリ)を気持ちよく倒し、武器やアイテムなどの成果にご満足していただいたのち、キャバリエーアントやスナイパーアントなどの殺意高めのアリに適度にキルしてもらっている。
レアは気づいたのだ。アリにアリを倒させたところで1ポイントも経験値は入らないが、アリを倒して経験値を得たプレイヤーをアリが倒せば、得られる経験値が増えるということに。
おおよそ、プレイヤーが侵入した時と死に戻りした後とで所持経験値が同じ程度になるか、ややプレイヤーが成長したくらいになるように調整してキルしている。
プレイヤーの強さを図る段階から、相当緻密に計算しなければなし得ないことだが、それを行わせるためだけにスガルのINTをかなり引き上げた。おかげで『眷属強化』によってすべてのアリたちのINTも少し上がり、より連携などが洗練された。
さらに副次効果で工兵アリの出す酸の威力が上がった。具体的には青銅まで溶かしてしまうようになった。弱い魔物の骨装備や、青銅装備のプレイヤー相手なら、一番弱い工兵アリだけで事足りてしまう。
また、レアたちに占拠されたことで供給がストップしていたリーベ大森林の鉱脈の金属が、プレイヤーたちの手によって間接的に街にもたらされるようになり、鉄の相場が下がったようだ。
ただし、プレイヤーが持ち帰るのは精錬済み……どころか成型済みの武具であり、鍛冶屋の仕事はそれほど戻ってはいないが。
もっとも金属製品のメンテナンスもあるため、鍛冶屋の需要は完全にはなくなっているわけではない。それでもかなりの数の鍛冶屋が街から出ていったと聞いている。
それを誰から聞いたのかと言えば、レミーである。大森林内の生産体制が確立された今、レミーの総監督の任を解き、流れの錬金術師として街で低ランクのポーションやアイテムなどを売らせている。
プレイヤーたちが大森林でポーションを獲得できるとは言え、さすがに最初から何も持たずに出かけていくバカは居ないし、逆に獲得した余剰分のポーションを売りたいプレイヤーもいる。
もともとこの街にいた薬師や錬金術師もポーションは販売していたが、買い取ったりはしないので、そのあたりでうまく差別化ができ、そこそこ繁盛しているようだ。
ポーションを売った金で使い捨ての護符などを買っていくプレイヤーも多い。そうした常連客は、特に売る用事がなく単純にポーションを補充するだけでも、なんとなくレミーの店に来てくれる。
レミーの店はプレイヤーの間で評判がいいため、有名プレイヤーが街に訪れた時などはそういう情報も手に入る。そのプレイヤーが大森林に来てくれたならば、他のプレイヤーよりサービスしていい装備をプレゼントし、対価として経験値を落としていってもらうのだ。
ダンジョンアトラクション「リーベ大森林」が稼働を始めてから、レアの懐に入る経験値の量はうなぎのぼりだ。あまりに効率がいいために、ゴブリン牧場や魔物牧場で間引くのが疎かになり、数が増えてきてしまった。
ちょうどいいので、ゴブリンや魔物をアリたちで追い立て、プレイヤーにぶつけて戦わせるMPKめいたこともやっている。アリたちばかりではプレイヤーも飽きてしまうだろうし、それによる客離れ予防の意味もある。
ゴブリンなどは工兵アリ並の雑魚にすぎないが、牧場で飼育されている魔物はかなり強力だ。いつもはアリたちの数の暴力で一方的に狩られているが、プレイヤー数人のパーティーなら無策で蹴散らす強さを持っている。プレイヤーの皆様にはぜひ中ボスかなにかだと思って楽しんでもらいたい。
アトラクションの運営はスガル1人に任せておけば問題ない。サポートとして輜重兵アリをつけてあるので、多少の不測の事態にも対応が出来るだろう。突出した戦闘力が必要ならば、ディアスを駆り出してもいい。ケリーにも鎧坂さんの妹を着せているので戦闘力は申し分ないのだが、彼女はあまりレアの側を離れたがらない。
そういうわけでようやくまとまった時間が作れた。何かを試すための経験値もある。今は出張しているマリオンからの報告を待ちつつ、錬金術でのお遊びの続きだ。




