第54話 「もるもん」
2020/4/1
タイトル改訂。
2020/11/30
後のスキルに合わせて一部修正しました。
「ほう、蒔かれた者か。かなり強力なアンデッドだな。相変わらず、貴様は何をしでかすかわからぬな。ふはは」
自慢気に伯爵に見せたところ、褒められた。
伯爵の言う通り、スパルトイたちの能力値の合計は吸血鬼になったばかりのブランと同程度はあるようだ。普通であれば、抵抗されて『使役』などできないだろう。『支配』や『使役』はよほどの実力差がなければそうそう成功はしない。
「ところで、コウモリどもには血は与えてやらぬのか? 新参のスパルトイに先に与えてしまっては、拗ねてしまうのではないか?」
「えっそうなの?」
マントの中のコウモリたちを見てみると、何が?と言いたげなつぶらな瞳を向けてくる。全然そのようなことはなさそうである。
とはいえ、伯爵の言う通り、今まで頑張ってきてくれたコウモリたちよりもスケルトンに先に血を与えて転生をさせてしまったのはなんだか申し訳無く思えてくる。
「でもあれ結構LP持っていかれるしな……」
「なに、いざとなれば我が手を貸してやる。心配せずにやってみるがいい。我も興味があるしな」
伯爵がフォローしてくれるというのなら、やってみるべきだ。そのようなチャンスはそうはあるまい。明日になったら気が変わったとか言われそうだし、やるなら今だ。
「よーし、じゃあ……」
ブランは先程同様に自分の指先を牙で噛み切り、コウモリたちに一滴ずつ舐めさせていく。全てのコウモリに血を含ませると、玉座の間の中央にそっと降ろし、後ろに下がって変化を見守る。
「っく」
するとやはりLPを吸い取られるような感覚が襲う。今度は覚悟をしていたため、膝をついてしまうような無様は晒さなかったが、LPの減少量は先程と同じくらいだ。
《眷属が転生条件を満たしました。転生を開始します》
コウモリたちをまとめて黒い靄が覆う。スケルトンたちのときのような音は聞こえてこないが、靄はだんだん大きくなっていくようだ。今やコウモリどころか、人間が数人でもすっぽり入ってしまいそうなほどの規模になっている。
「アナウンスがあったってことは、転生自体は成功したんだろうけど……。なんかでかくないかな……」
「黙って見ておれ。そら、霧が晴れるぞ」
あ、これ霧だったのか、などと思っている間に、伯爵の言うように霧が晴れていく。霧が晴れた場所に座り込んでいたのは、コウモリではなかった。
「誰!? てか、3人しかいないんだけど!?」
「ほう。これはこれは……。おそらく、コウモリ3匹が1体のモルモンに転生したのだろう。コウモリ1体では器が足りなんだと見えるな」
「もるもん」
「うむ。変化の術を得意とする、吸血鬼の一種だな」
「吸血鬼!」
座り込んでいるのは人間にしては顔色の悪い、3人の美少女だった。服などは着ていない。
「あの、伯爵……」
「ふはは。仕方のないやつだ。待っておれ、今服を持ってこさせる」
「あざーす!」
服を与えても、着方がわからないようで、手に持って広げて首を傾げている。ブランは一人ひとり着衣を手伝ってやり、立たせてやるが、すぐにしゃがみ込んでしまう。
「さきほどまでコウモリだったのだ。2本の脚で立つということに慣れておらんのだろう。しばらくは歩行や手を使うことなどの、まあ運動の練習よな」
「そっからかー……」
「あーう……ういあ……えん」
「いや、いいよ。責任持って1人で何でも出来るようにしてあげる」
「眷属ゆえに意思は通じておるようだが、言葉は話しておらぬぞ。発声も今のが初めてだろう」
言われてみればそうである。コウモリが話したことがあるわけがない。
ただこちらの言葉はいつも聞いており、こちらの意思は眷属だったために通じていたので、言葉がわからないわけではないようだ。ならば会話が出来るようになるのは早いだろう。
*
ブランはそれからしばらくは、眷属たちの歩行訓練や発声練習を行って過ごした。時折、スパルトイたちを連れて地底湖やその先へ行き、リザードマンをスパルトイたちだけで倒させたりなどして経験値を稼いだ。
伯爵の発案で、稼いだ経験値を使ってモルモンたちに『体捌き』や『敏捷』を取得させたところ、劇的に動きが良くなった。ほどなく、訓練も終わったため、今度はスパルトイたちに『体捌き』『敏捷』などを取得させるために経験値を稼ぎに行っている。
モルモンたちにリザードマンと戦わせてみたところ、まったく経験値を得られなかった。考えてみれば、モルモンはコウモリ3匹分の経験値を消費している。ダブついていたスキルの分は、初期取得の種族スキルなどに使用されているようだが、つまりブラン3人分の強さということになる。リザードマンでは経験値が得られないのも仕方がない。
「ていうかわたしより余裕で強いんだけど、これ謀反とかのシステムないよね……ないよね?」
「『使役』によって縛られているゆえ、有り得ぬ。そうでなくとも、その者たちを育て、自らの血によって転生させたのは貴様だ。叛意など、欠片も抱くまいよ」
「ほっ。ならよかった」
「それより、以前も言ったが、モルモンは変化の得意な種族だ。試してみるといい。配下が何ができるのかしっかり知っておくのも主君の務めだ」
見れば『変身』というスキルを取得していた。コウモリ3匹でダブついていたスキルが多かったためか、ツリーもかなり開放されている。
「君たち、『変身』ってスキルで何に変身できるの? ちょっと試してみてよ」
すると3人は同時にうなずき、黒い靄、もとい霧に包まれた。数秒後、霧が晴れると、そこには3人のブランが立っていた。
「うわ! これわたしか! すごいな!」
改めてスキルを確認してみると『変身』はツリーになっており、その中に『個体変化』というスキルがある。このスキルは血を吸ったことのある相手の姿を模倣できるらしい。効果は、自ら解除するかなんらかの攻撃を受けるまで持続する。ブランに『変身』できるのは転生の際に血を飲んだせいだろう。
次に3人が『変身』したのはコウモリだった。1人が3匹のコウモリになっている。
「これ見たことあるような……。てか転生前のコウモリだ! もう懐かしいな……。あ、この状態で1匹死んだらどうなるの?」
「おそらく、戻った時に生命力が3分の1失われるのではないかな。一度に複数の生き物に変身する場合は、たしか1匹でも生きておれば『変身』を解除して休んで回復出来たはずだ」
「先輩何でも知ってますね!」
「ふはは! 何年吸血鬼をやっておると思っている! 伊達に伯爵を賜っておらぬわ!」
モルモンたちは他に狼にも『変身』できるようだ。今のところはそのくらいだが、自分より格下の存在の血を吸うことができれば『変身』できる対象も増えていくらしい。
「つまりわたしはこの子たちより格下と……」
軽くへこんだブランだが、モルモンたちが背中をさすって慰めてくれたため、なおさら情けなくなり、落ち込むのをやめた。
「あ、忘れてたけど。名前つけてあげなきゃね。あとスパルトイくんたちにも」
ブランはそれほどネーミングセンスのあるほうではない。それは自分の名前を見れば明らかだが。
「じゃ、モルモンから。君はアザレア。君はカーマイン。君はマゼンタね。スパルトイの君はヴァーミリオン、君はクリムゾン、君はスカーレットだよ」
全て赤系統の色名で統一してみた。ブランは自分にしてはいいセンスだと思った。それに自分自身も色から取った名前だし、これはこれで統一感がある気がする。
「しかし、これでかなり戦力が増強されたろう。そろそろ、国……とは言わずとも、街のひとつでも落としてみてはどうだ?」
そういえば、もともとそんな話だった。




