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黄金の経験値【なろう版】  作者: 原純
第一回公式イベント
53/612

第53話 「がんばれわたしのライフポイント」

2020/4/1

タイトル改訂。





 大規模イベントとやらがあったらしい。気がついたら申し込み締め切りを過ぎていた──というかイベントの日を過ぎていて、その後のメンテナンスで初めて知った。


 ブランはあれからしばらく、地底湖のリザードマンを狩り、コウモリくんたちに経験値を与えるというルーチンを繰り返していた。地底湖のリザードマンが減ってくれば、もう少し先まで足をのばして別の部族と思われる集団を襲ったりしていた。

 地底湖より遠くに行けば行くほどもらえる経験値の量が増えていくあたり、地底湖の部族はどこか遠くでのリザードマン同士の縄張り争いに破れた者たちなのかもしれない。

 だとすれば、遠くへ行けば行くほど生存環境としては恵まれているということになり、この地下水脈の行き着く先がどこか外部に繋がっているという可能性が高まってくる。古城周辺は超高地説が俄然有力になってきた。


 コウモリたちのビルドに関しては、特に差別化などはしないことにした。

 というのもコウモリ一匹のみなどで運用するような未来が思い浮かばず、ならば9匹まとめて同じように成長させて、同時に運用するか、チーム分けするにしても単純に数で割るような分け方をできるようにしたほうがいいと考えたためだ。

 決してブランにコウモリたちの区別がつかなかったせいではない。


「とは言え、だ。なんかもう、コウモリくん1匹でもリザードマン1体くらいなら狩れそうなオーラ出してるよね……。9匹もけしかけたらやりようによっては集落1つ潰せそう」


 すでにコウモリたちの消費経験値は1匹1匹がブランにせまる勢いだ。

 何がキーになったのかは不明だが、途中からブランの『吸血魔法』も取得可能リストに並んでいたので、検証の意味も含めてブランより先行させて取得させている。

 同時に『吸血魔法』にシナジーの高い『精神魔法』も取得させている。これは伯爵のすすめでブランが『召喚』ツリーと『死霊』ツリーを取得した後、コウモリたちのツリーに出現したものだ。

 スキルの取得条件に別のスキルや種族などが関わっているのは薄々わかっていたが、眷属のスキルに主君のスキルが関わっているという事実は盲点だった。

 このことで、あまりコウモリたちだけに経験値を集中させることもできなくなり、結果的にリザードマンでは経験値稼ぎが難しくなってきてしまった。


「仕方あるまい。どのみち、いずれはそのような時が来る。戦力を増強するという意味では、まだトカゲどもを使ってできることはあるが」


 伯爵に相談したらそんなことを言われた。


「ほうほう。例えば?」


「うむ。『死霊』の『魂縛』は持っていよう? ならば、倒したリザードマンの死体に対して『死霊』を発動し、アンデッド化したリザードマンに対して『使役』が成功すれば、恒常的な配下に出来よう」


「なる……ほど……。でもアンデッドかぁ……」


 ブランにしてみれば、あまり好んでゾンビを連れ歩きたいとは思えない。


「そのアンデッド化したリザードマンにわたしの血を与えたら、意志ある死者(レヴナント)になれるんですかね?」


「む……。もともとただの人間種よりはリザードマンの方が格が上だ。ゆえにそこらのゾンビよりはリザードマンゾンビの方が格上……のはずだ。それを考えると難しいやもしれぬが……まあやってみても損はあるまい。失敗しても、失うものは多少の生命力だけよ。放っておけば直に回復しよう」


 吸血鬼なのに生命力?とブランは不思議に思ったが、おそらくゲーム的に解釈すればLP(ライフポイント)のことなのだろう。つまり吸血鬼にとって自分の血を分け与えるという行為は、LPをコストにする行動なのだ。


「なるほど、じゃーやってみます!」







 意気揚々とやってきたのは初めてリザードマンたちに出会った地底湖だ。

 ブランの知る限り、ここのリザードマンたちが最も弱い。ならばアンデッドにしたときの格も若干下のはずだ。それなら、ブランの血で転生できる可能性が高まる。


「『霧』」


 ブランは霧を発生させ、住居と思われる盛り土に向かって『恐怖』を放つ。そして湖側から覗き込むと、中には恐怖で身をすくめるリザードマンがいた。


「『サンダーボルト』」


 そして1体1体『雷魔法』で確実に仕留めていく。ブランの使える手札の中で、これが最も綺麗な死体を作れる。

 何度かそれを繰り返し、リザードマンの綺麗な死体を3体作った。インベントリに入れてしまおうかと思ったが、どうも『死霊』や『魂縛』のスキルの説明を読む限りでは、死んですぐの死体には魂がまだ残っているようなことが書いてあるため、やめておいた。

 インベントリに死体をしまっても「魂」とかいうアイテムを入手した覚えはないし、ならば死体をインベントリに入れてしまえば魂がどうなるかわからない。


 死体はコウモリたちに1体ずつ運ばせた。普通に考えれば絶対に無理だと思われるが、コウモリ3匹でリザードマン1体を運んで飛べるようだ。それもバランスの問題だけらしく、重量で言えば1匹でも運べるとのこと。どの能力値を上げたせいでそのようなマッシブなコウモリになってしまったのだろうか。


 地底湖の岸辺の中央辺りにリザードマンの死体が置かれる。


「ええと『死霊』」


 するとリザードマンの死体から真っ黒い靄のようなものが立ち上る。ほとんど光のない地底湖なのに、なぜか真っ黒だということがわかってしまうほどの黒さだ。単純な色の問題ではないのかもしれない。

 その靄はリザードマンたちを包み込むと、シューシューという、なにか空気が漏れるような音が聞こえてくる。リザードマンの姿は全く見えない。

 そのまま数秒がたつと、靄は自然と薄れていった。


 そしてリザードマンが立ち上がる。骨のみの姿で。


「スケルトンじゃんか!」


 しかし骨格はしっかりとリザードマンのようだ。顔立ちや尻尾など、恐竜図鑑で見たようなシルエットをしている。


「まぁ、ゾンビよりはいいかな……。じゃ『使役』」


《リザードマンスケルトンのテイムに成功しました》

《条件を満たしています。吸血鬼の従者(スクワイア・ゾンビ)への転生を許可しますか?》


「あ、不許可で」


《リザードマンスケルトンのテイムに成功しました》

《条件を満たしています。吸血鬼の従者(スクワイア・ゾンビ)への転生を許可しますか?》


「1匹ずつこれやるのか。不許可で」


《リザードマンスケルトンのテイムに成功しました》

《条件を満たしています。吸血鬼の従者(スクワイア・ゾンビ)への転生を許可しますか?》


「うーん、不許可」


 1体くらいゾンビが居てもいいかとも思ったが、やはりやめた。3人組というのはだいたい仲がいい2人と、もう1人に分けられるものだ。わざわざその理由を自分が作ってしまうのは申し訳無い。


「想定外だったな……。いや、最終的にその選択をしたのは自分なんだけど」


 しかし、NPCはシステムメッセージが聞こえないはずだ。ということは、伯爵がこれまで『使役』してきたゾンビたちは、元は別の何かだったのかもしれないが、事実上強制的に吸血鬼の従者(スクワイア・ゾンビ)になってしまったということになる。であれば、「スケルトン」を使役した吸血鬼というのはNPCでは存在しないということになる。


「……じゃあ、スケルトンに血を与えたらどうなるのか、誰も知らないってことかな……?」


 伯爵も言っていた。どうせ失敗してもLP(生命力)が減るだけだと。

 ならば、3体分くらいやってしまっても問題あるまい。

 

 ブランは自分の八重歯で指を噛み、その血を3体のリザードマンスケルトンの額になすりつけた。


「あ、これ八重歯じゃなくて牙なのかもしかしっ!」


 すると全身から力が抜けるような妙な感覚に襲われ、思わず膝をついてしまう。確認してみると、たしかにLPが減っていた。しかも、このところかなり増えてきていたはずなのに半分ほど一気に持っていかれていた。


「コスト重たい……。先に言ってよ先輩……」


 ゲームの世界の吸血鬼の伯爵にホウレンソウの大切さを教えるにはどう語ったらいいかとか考えていると。


《眷属が転生条件を満たしました。転生を開始します》


 目の前のスケルトンたちが赤く染まっていく。


「おお? なんか起こるっぽい……。不発にはならなさそうだ。がんばれわたしのライフポイント……!」


 変化は色だけはなく、背中から尻尾にかけてトゲトゲした突起が盛り上がる。手や足の指先も尖り、全体的に骨太になっていく。仕上げに後頭部から2本の短い角が生え、変化は終わった。


「す……げー! 強そう! 全然別人じゃん! なにこれ! ええと……蒔かれた者(スパルトイ)……? え、マジなにそれ……なに蒔かれちゃったの……?」


 種族名はブランの知識では意味が不明だったが、とにかく転生は成功した。






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― 新着の感想 ―
[良い点] わぁい、なんかつよそうなのできたー
[一言] こっちも魔王プレイするのか……?被るから違うプレイなのかと思ってたけど別のツリーで強くなるのか……?
[一言] 竜の牙を地面に蒔いたら生えてくるという、あれですね(。。 とかげだからそのつながりか。
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