死に風吹き行く ~ある姉弟の話 その弐~
「えっ?・・・なによなによ・・今のあたしの顔・・・」
姉は口を押さえて居間の隅にずるずると逃げた。
そういえば一瞬だけ冷たい風が横切った気がする。
氷の針でさされたような疼痛を感じた気がする。
ほんの一瞬だからそれは違うかもしれないが、今見た自分の顔は勘違いではない。
・・・恐ろしい。
姉は目をつぶり思い出したくないと拳を握った。
しかし誰が忘れられようか、はっきりと一瞬の記憶がよみがえった。
―――髪の上にお嫁さんのようなようなものをかぶっていた・・・
もう声を出さずにはいられなかった。
「まだ、真っ白?」
漆黒の髪を垂らした姉が涙をこぼしながら弟を見上げた。
弟はテレビをつけていた。
お笑いタレントの甲高い声に二人は勇気をとりもどした。
「・・・いや、元に戻った」
「頭になにかついている?」
「日本髪のように見えたけど・・・元のお姉に戻ったよ」
手鏡を拾い見てほらと姉に渡した。
時計がかたこととさっきを過去にしている。
姉弟は顔を見合わせた。
「なんだったの今の?」
姉は弟の腰にしがみつき首をふった。
「さあなんだったんだろ・・・顔が真っ白になり頭に・・・文金高島田・・・だっけ?なものをかぶっていたような・・・?」
「ブンキンタカシマダ・・・ってお嫁さんのあれじゃない・・・ああやだよぅ・・・あんたも見たのね!」
「お姉も俺も見た。錯覚じゃないかもな。でも今はなんでもないよ、さあ立て」
弟はカーテンを開けた。
駅の明かりが見える。数台のタクシーが止まり客を待っている。
いつもと変わりがない夜景だ。恐怖を押し返す力は充分にあった。
いや・・・やっぱ気のせいだよ、錯覚だよと姉に言った。




